284列車 小説
「敵機!直上!!」見張り員の震える叫びが艦橋の中に飛び込んできた。
(直上だと・・・。)
張はそれが信じられなかった。敵機が我が「天山」の直上に来るなどあり得ないことだ。だが、今はそんな自信過剰になっている場合ではない。
「拡大投影。」
張の叫びに呼応するかのように戦闘艦橋の天井にあるスクリーンパネルが今の「天山」上空を映し出す。確かに、そこには敵機が映っている。日本の空間航空戦隊の主力機ばかりだ。一つは我が中国人民解放軍宇宙軍が製作した025型艦上戦闘機の足元にも及ばない零式空間艦上戦闘機。そして、もう一つは零式よりも小型で主翼の先端が上にそれる独特のフォルムをしている二式空間艦上爆撃機。対空砲火が敵に向かって放たれているが、敵機がいるところまで届いていない。しかし、確実に弾幕を張りつつある。
(クッ。戦闘機隊は何をしている・・・。直上には敵機がいるのだぞ。)
すぐさま、戦闘機隊の憤りを感じる。だが、このままいけば本艦にも敵の爆弾が次々と当たり、航行不能に陥ることになる。艦上高高度から放たれる敵のミサイルは大きくはないが、母機となる艦爆の速度とミサイル自体の推進速度が運動エネルギーとなって襲い掛かる。下手をすれば、飛行甲板を突き破り、格納庫の中で爆発することだってあり得るのだ。
「砲雷長。フレア発射用意。」
「フレア発射用意。」
砲雷長が復唱した次の瞬間。二式空間艦上爆撃機3機が大きく左に傾いた。急降下爆撃に入ったのだ。3機の二式空間艦上爆撃機は「天山」に対し75度という急角度で畳み掛ける。
「フレア発射準備よし。」
砲雷長が答える。
「フレア発射。」
それと同時に本艦に狙いを定めた3機の二式空間艦上爆撃機から計18発の小型ミサイルが放たれる。熱誘導された小型ミサイルは本艦から発射されたフレアへ次々と襲いかかり、本艦への被害はない。しかし、近くで爆発したものがあったためか少々船体が左右に揺れる。
「次、来るぞ。」
「ギリギリまでひきつけてから、回避行動。取舵一杯、上げ舵20だ。」
「了解。」
「第二波。来ます。」
再び二式空間艦上爆撃機3機が襲い掛かる。
「回避行動入れー。」
「天山」の艦首が左に振られ、次いで上に振られる。右側から襲ってくるミサイルは外れるか、弾幕の中で爆発すると言ったものがほとんどだ。だが、次に襲ってきたのは今までと少し違うものだった。艦橋の近くで爆発したようだった。しばし、その場でよろけそうになる。
「右舷レーダー、ホワイトアウト。」
すぐに被害状況が知らされた。レーダーがさっきの爆発でやられたようだ。スクリーンに映される直上の光景にもノイズが入る。
「第三波、来ます。」
スクリーンには再び襲ってくる3機の二式空間艦上爆撃機を映している。今度は左から襲ってくるようだ。もう少し・・・。張は心の中でつぶやく。そして、その時が来た。
「戻ぉせー。」
その指示に艦が反応し回頭が止まる。今まで右下に流れていた光景がストップする。
次の瞬間、全長300メートルを超える「天山」の船体が激しく揺さぶられた。それも1回だけではない。2回、3回、4回と揺れる。何にも掴まっていなかった艦橋要員のほとんどがその場にたたきつけられる。縦揺れが収まったかと思うと、今度は横揺れが襲ってきた。
「・・・被害状況報せ。」
体勢を立て直し、そう叫ぶ。
「艦首、艦中央、艦後部に直撃弾。艦首2、艦中央1、艦後部1。」
「報告、左舷艦首パルスレーザーに至近弾。砲塔旋回及び射撃不能。」
「格納庫より艦橋。第一エレベーター破壊。使用不能。また、第一エレベーター付近に待機中の艦戦、艦爆、艦攻14機破壊。」
「格納庫。誘爆を防げ。」
「了解。」
(飛行甲板に直撃弾か・・・。この「天山」の飛行甲板はもう使うことはできないが、他の・・・。)
と思った時だ。
「「遼寧」、「崑崙」被弾。「明」被雷。」
背筋が一瞬にして凍る。
「「明」より入電。「我、航行不能。戦列ヲ落伍ス。」」
今起きているのは幻なのか。そう思いながら、張は前を見た。するとそこには炎上する「遼寧級航空母艦」2隻の姿が見える。戦列の先頭を行く「遼寧」は無残な姿になった飛行甲板をのぞむことができ、その後ろに控える「崑崙」には右舷艦中央部にあるはずの艦橋がどこにも見当たらなくなっている。代わりに、飛行甲板には艦橋の上部構造物がうなだれている。
「バカな・・・。」
とっさに振り向く。この「天山」の後ろには「明」がいる。艦橋の壁に阻まれて、「明」をのぞむことはできない。
「・・・あり得ない。・・・こんなこと・・・有る筈が・・・。」
震えた口からとぎれとぎれに言葉が出る。こんなことはありえない。中国の空間航空部隊は宇宙最強と言われている。その宇宙最強が日本の航空戦隊に負けるはずはないのだ。我々は敵なしと言われている。その敵なしの航空戦隊が今新日本軍を前に無残が姿をさらしている。こんなことがあっていいはずはない。有る筈がないのだ。
「うーん・・・。この先どうするかなぁ・・・。」
僕はそうつぶやいた。就職活動が終わって、内定誓約書も書いた後だともう何もすることが無くて困るのだ。早期就業とかっていう選択をできた人はある意味でこういう時間がつぶれてくれるからありがたいのだろう。でも、それは早期就業がないことへの文句じゃない。こっちはその分遊べるからいいのだけど・・・。でも、僕からしてみれば、あまりすることがないからその時間をどう使うかが問題になるのだ。だから、最近読んでいた「八八艦隊」の架空戦記ではないが、自分でもそういうものを書ければなぁって言う感じで始めたものである。今こうして書いているものは、未来戦記である。ところどころに「空間」っていう言葉が出てくるのはそのためということだ。設定だけで言えば、少し前に朝鮮辺りで闘争があって、半ばそれに巻き込まれる形で日本が参加することになる。巻き込まれた際に「専守防衛」の自衛隊が軍事力を行使しやすくするように憲法の改訂と国防軍の新設が行われる。その後の技術革新で宇宙に人類が進出。この中国と日本の戦いは中国の領土拡大に対する日本本土防衛の戦いでもあるのだというのがこの話の設定だ。当然のことだが、「宇宙戦艦」とは関係がないので必殺の決戦兵器「波動砲」はない。
「ミッドウェーだったら「飛龍」がまだ残ってて、米空母一隻沈めてるんだけどなぁ・・・。全部損害負わせたし、これじゃあ無理かぁ・・・。」
とつぶやいた。その後少し頭を抱える。どうしようか。このまま戦闘継続は中国軍にとってみれば困難だ。史実のミッドウェーで考えるなら、少し違ってくるけど、これは架空戦記だから何もかも史実に則する必要はない。
考え込んでいるとピンポンと玄関で鳴った。当然これで入ってくる人っていうのは萌しかいない。
「ナガシィ、どうなの。小説は。」
萌はベッドの上に上がってからそう聞いた。
「どうって。こんな感じだけど。」
僕はそう言って、パソコンを萌のほうに少し向けた。萌はそれを覗き込むように読む。
「相変わらずだけど、文章力ないのにどうしてこういうところだけそういうふうに書けるのかなぁ・・・。」
不思議そうに萌は言う。
「さあね。」
まぁ、そこは自分でもよく分からないからそういう回答にしておこう。
「うん。すごい。何がなんだかよく分かんないけど、とくかくすごい。どこからこういうのが出てくるんだろうね。」
「頭からもあるけど、だいたいは事実からだね。これだってミッドウェー海戦基本にしてるし。」
まぁ、そのミッドウェー海戦には「パルスレーザー」とか、「誘導弾」とか言う兵器は当然ないのだけど・・・。まず、船が「上げ舵する」っていうこと自体あり得ないが・・・。でも、そういうことができるから面白いのだ。
「これ、どこかで書いて出版とかしてみたら。」
「ええ・・・。別に一人で書いて楽しむぐらいでいいよ。」
「そう・・・。でもさぁ、インターネットとか見てると自分で面白い小説書いて投稿できるところとかってあるよ。」
「いいよ。別に。それに、これは投稿しなくていいからね。主人公いないし、たくさん人死ぬし。今これだけでも最終的に2000人ぐらい死ぬ予定だし。」
「アハハ・・・。それ笑えないからさぁ・・・。もうちょっと助けてやろうよ。」
「いいよ。未来の中国だって何考えるか分かんないから。「日本は歴史認識を誤っている」とかっていう国だよ。未来に「日本に鉄槌を」に代わって襲ってくることだって十分考えられるし。それに今だって尖閣の領有を口実に襲い掛かろうと思えば、襲い掛かれるしね。でも、そういうことをするほど馬鹿じゃないと思うから、一番最初の火種を北朝鮮にしているわけ。」
「まぁ、これ自体がフィクションだからいいけど、でも死人だけは減らしてやろうよ。」
「そこは譲れません。靖国に行くことを間違っているっていうなら、死人を大量に出して、自らの考えの過ちに気付いてもらうのが一番いいさ。」
「だから、それが怖いって。」
「怖いけど、かたくなにそういうことしか言わない政府の頭を改革するにはこれが一番いいんだって。誰だって死んだら帰ってこないんだからさぁ。失われた時に一番よく分かるものってどんな小説や漫画にも多いじゃん。」
「ね、話かなり戻るけど、これ投稿しようよ。」
「しないよ。・・・じゃあ、仮にするとして、タイトルは「闇」ね。」
「闇って・・・。」
「いろいろブラックだからあってるでしょ。」
そう言ってからお互いしばらくの間沈黙がある。
「そういうのじゃなくてもいいかさ。投稿するのは。」
「えっ・・・。」
「自分の大好きな電車のことでもいいんじゃないの。ほら、鉄道研究部のこととかさぁ。榛名ちゃんやさくらちゃんから聞いたけど、あれって書いてみたら、受けるんじゃないかなぁって私は思うよ。」
「・・・。」
「電車の全部が嫌いになったわけじゃないでしょ。」
と付け加えた。確かにそうなのだけど・・・。僕はすぐには返事をしなかった。少しだけ考えを巡らす。確かに全部嫌いになったわけじゃあない。それに、鉄道会社に何も感じなくなったわけでもない。今からでも、道があるなら鉄道に進みたいのは当たり前だ。それができないのが分かっている。そのうっぷん晴らしにこういうことをしているっていうのも事実である。
「そうだね。そういうのも書いてみるかぁ・・・。誰かの軌跡っていう感じにね。」
そういうだけにとどめた。




