268列車 模型再び
6月8日。
「あれ。永島先輩じゃないですか。」
そう声を掛け、寄ってきたのは空河だった。
「よす。久しぶりに来たぞ。」
空河にどこで展示しているのかを聞くといつもの通りホールだそうだ。
「そう言えば、今年、永島先輩の弟分が入りましたよ。」
そういうのは大嵐だった。
「えっ。」
「ああ。輝君な。」
「輝君。」
「ええ。とっても電車に詳しいし、メカニックとかも結構わかってるんで。今まで滞ってたアドのハゲの模型のメンテが進んでるんですよ。」
「ハァ・・・。よかったねぇ。それ。」
まぁ、他人事だけど・・・。
久しぶりに来た学校をちょっと見まわして見た。まぁ、そう2年で変わるような所でもないかぁ・・・。ホールに入ると大きなモジュールが2つ並んでいた。今回は瀬戸学院の交通サークルとの合作ではないそうだ。それはメールして来た醒ヶ井から聞いていた。醒ヶ井は今瀬戸学院には通っているけど、サークルには入っていない。でも、安曇川先生との交流はあるので、いろいろ聞きだしていたのだろう。
「あっ。永島先輩。」
その声は朝熊だ。
「よう。なぁ、朝熊。荷物はいつもの通り、あれの裏かなぁ。」
僕はモジュールが入っている白いケースが山積みになっているところをさした。前には浜松駅が作られるまで普通に使っていた大きな駅が入っている木の箱。今回は大きな駅は使ってないみたい。あれがあるのは他に白いケースに入りきらないものを使っているからだろう。
「はい。そうです。」
「うん。分かった。」
「あっ。永島先輩。今日はなんか持って来てるんですか。」
「えっ。ああ。今日は何も持って来てないんだ。」
「ええ。新快速ないんですか。」
「まぁ、無くてもまわるでしょ。」
「・・・まぁ、そうですね。」
僕は持っていたバッグを言ったところに置いて、外に出た。一通りみんなに声を掛けてから、西側の大きな周回の中に入った。西側でやっている周回は醒ヶ井が急ピッチで作った浜松駅が使われている。建物とかはあれ以来結構増やされているみたいでにぎやかになっている。こっちには車両基地も使ってるようだ。駅の反対側に車両基地がある。あれから、車両基地にアプローチする線路が入ったモジュールとかに結構手が加えられているみたいだ。もともとこれにはダブルクロッシングポイント(複線、上り・下り両方の線路に渡ることができる線路が二つ同じ場所に設置されているポイント。)は使われていなかった。これは電気的に面倒になるためだ。だから、最初に作った時にはここにはポイントを設置していたが、外側の線路を走る車両は内側の線路を横切るだけであった。それに、車両基地にアプローチする線路はさっきの電気的関係から、複線で入っていた。でも、この車両基地はアプローチする線路は単線で、その単線から車両基地の線路12本ぐらいに広がる設計に変わっている。それに規模も大きくなっているようで、それまで入りきらなかったE231系やE233系の15両編成が余裕で入りきるようになっていた。
「永島先輩。今から、外側から「ゼニトラレルライナー」入れるんでポイント変えてください。」
諫早がそう声を掛けた。
「えっ・・・。ああ。入れた後どうするんだ。」
「あっ。「ゼニトラレル」入れてから内側の313系も入れて、それから、外側にE231系の山手入れて、内側にE233系の京浜東北を入れます。」
車両基地にはもうすでにE231系500番台の山手線の車両11両と京浜東北線のE233系1000番台の10両編成がセットされている。諫早の言う313系は5000番台が内側に。「セントラルライナー」用の8000番台にくっついたふつうの313系が走っている車両がある。確かに。駅に近いのは外の「セントラルライナー」だな。
「セントラルライナー」が駅に入り、5000番台が駅に着いてから、「セントラルライナー」が逆行してきて、車両基地に入る。そのあとに5000番台が入庫し、E233系、E231系の順番で出庫する。それが走り始めてからは少々放っておく状態だ。12が近くなってくると諫早は車庫にN700系を置き始めた。
「おいおい。それ走らせるつもり。」
「えっ。だって、あの時も走らせたじゃないですか。」
「・・・折尾町のあれか・・・。」
確かに、あの時、在来線に新幹線が走ったなぁ。しかも走ったのは秋田新幹線や山形新幹線のミニ新幹線じゃなくて、普通のフル規格新幹線だった。そして、そこで走った車両はN700系と700系だった。
「あっ。ちょっと諫早先輩。そのN700系大丈夫ですか。」
誰かが諫早に声を掛けた。声を掛けたのはとっても背の低い男の子だ。
「それまだ、グリーン車のくせにとっても乗り心地の悪いままなんですよ。」
「えっ。輝。まだそれ直ってないの。」
「完全にモーターやられてるんですよ。僕のお財布の中身も考えてくださいよ。そう簡単にモーターが集められるわけじゃないんですから。」
やっぱり輝君かぁ・・・。それにしても、輝君っていま何歳なんだろう。
「ううん。じゃあ、何か代走ないの。」
僕はそう言っている間に近くにある箱の中を探った。新幹線は結構こっちに持って来ているみたいだ。でも、確か500系はギアが抜けてて、モーターが動いても動かなかったはずだ。300系はいろんなところが壊れていたと思ったし、「ドクターイエロー」は論外だったはず。じゃあ、この中で優秀なのは・・・。
「E5系でいいんじゃないか。」
「あっ。それダメです。」
輝君がすぐさまそう言った。
「開けてみればわかりますよ。」
開けたら納得した。これはもう論外だ。
「じゃあ、E2系は。」
「あの。それ・・・痛電になってるんですけど・・・。」
はっ・・・。痛電・・・。意味は痛車と同じだ。
「それリンゴの代わりに「○の妹」のキャラがあるけどいいですか。あっ。「こまち」もついでに。」
「痛電車ってなぁ・・・。」
確かに奇数号車のトイレのある部分に所狭しにそのキャラクターが入っている。まさしく、リンゴの代わりに・・・。まぁ、でもこのイタ電はまだまだかわいい方かなぁ・・・。叡山電鉄の「きらら」の模型は「けい○ん!」が山の景色を見るために大きな窓にまで進出してたからなぁ・・・。
「もう痛でも何でもいい。並べて。」
(開き直った・・・。)
車両基地にそれを並べてみたけど、何と新幹線16両もすっぽり入るようになっていた。そりゃ、ふつうに在来線15両は入るかぁ・・・。
新幹線が走り始めると、
「おいおい。何の珍プレイだよ。これは。」
えっ。このどこかで聞いたような声は・・・。
「善知鳥先輩。」
「おっ。ナガシィ君じゃないか。ところでナガシィ君。なんなんだこの珍プレイは。」
「さぁ・・・。何なんでしょうね。」
「ありえねぇだろこれ。いくら電車のこと知らなくてもこれぐらいは分かるぞ。なんでここら辺のと九州の新幹線が同じところ走ってるんだ。」
現実味それはあり得ますけどね。ていうか、今走ってるのは東海道新幹線の700系と東北新幹線のE2系と秋田新幹線のE3系なんですけど・・・。でも、ありえないっていうのは分かってるんですね。
「これ子供が見たら、たたかれるだろ。」
「だったら、先輩たちがやってた困ったときの単機回送はどうなるんですか。」
「単機回送はまだましだろ。走ってるのはとりあえず新幹線のじゃないぞ。」
まぁ、確かにそうですけど・・・。
「ていうか、この珍プレイをするのはナガシィ君じゃないよなぁ。」
「するわけがないですよ。」
「よかったなぁ、ナヨロン。これからもイベントで新幹線走らせるっていうプレイは浸透しそうだぞ。」
「ライトレールの爆走よりもひどいなぁ・・・。」
確かに。それよりもひどいなって。
「ナヨロン先輩。」
「よす。久しぶり。」
「ていうか、ナガシィ君聞けよ。ナヨロン。来年からここの先生になるんだぞ。」
「コラ。」
「えっ。そうなんですか。」
「誰にも言うなよ。」
「あたしに知られたのが運のつきだなぁ。」
「この野郎・・・。」
知られたくないんだ・・・。
「おい。ナヨロン。善知鳥子と襲うなよ。」
「アヤケンも・・・。襲わないから。」
「そうだっけ。さっきカッター持ってこっちによってきたような気がしたんだけど。」
「銃刀法違反だよ。ちゃっちゃと自首したらどうなんだよ。」
「コラ、テメェラ・・・。」
ああ。先輩たちも変わってないなぁ・・・。でも、ナヨロン先輩。いつからそんなに過激になったんだろうなぁ・・・。
「永島。誰にも言っちゃダメだぞ。」
「ああ。分かってます。」
「ナガシィ君。関わんないほうがいいと思うよ。だってカッター持って人に近寄ってくるんだよ。」
「だから、変なことを植え付けるのをやめろつうの。お前は。」
「ええ。いいじゃん。」
「よくないから言ってるんじゃないか。」
まぁ、先輩とにかく変わってないってことが分かってよかった。
でも、さっきから気になってたけど、誘った醒ヶ井本人が来てないぞ。と思ったとき電話が来ていることに気付いた。その電話は醒ヶ井からだ。
「ああ。醒ヶ井。どうした。」
「いや。なぁ、永島。打ち上げあるか空河たちに聞いてくれるかなぁ・・・。」
「打ち上げ。」
「ああ。もしかしたら、それには行けるかもしれないから。」
「おいおい。それには行けるか持って。お前いままで何してるんだよ。」
「しょうがないだろ。結婚式で行けないんだから。」
「結婚式。・・・ああ。お前の。」
「違うよ。」
「えっ。だから、結婚式でしょ。お前の。」
「いや、誰も俺の結婚式とは言ってない。」
「お相手は誰。」
「決まってるだろ。雪歩だよ。雪歩。」
「おめでとう。」
「じゃなくて、話し戻せよ。打ち上げあるか聞いてくれ。」
醒ヶ井がそう言ってから、空河が僕の肩をたたいた。空河に電話を差し出すと、
「結婚だって。おめでとう。」
「お前ら。まともに話聞く気ないだろ。」
「ああ。ごめん。ばれた。」
「ばれたもなにもないでしょ。」
文化祭の終了は3時。それから片づけ。30分ぐらいの間にほとんどを善知鳥先輩たちと一緒に片づけた。取った賞は優秀賞。2年連続での受賞だそうだ。ホールの片づけが終了したら、寮にこれを入れる。今年は寮に入る野球部の人がいないから、鉄研部が寮全体を部室の代わりに使っているそうだ。片づけが終わったら、一度寮に集まって、ミーティング。それが終わったら食堂として使われていたところで、浜松祭りの時のラッパで盛り上がる。それが終わった時に醒ヶ井がやってきた。もちろんあの茶番もやったよ。
これ全部が終わったら僕は帰路についた。そして、次の日には新幹線に乗って大阪に戻るのかぁ・・・。
今回からの登場人物
永島輝 誕生日 2001年1月9日 身長 119cm 血液型 AB型




