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MAIN TRAFFIC  作者: 浜北の「ひかり」
Distress Episode
263/779

263列車 中の休日

 4月も下旬に迫った時、JR東海の内定者の発表があった。発表されたのは草津(くさつ)であった。二次試験を受けた(もえ)と蓬莱の結果はふるわなかった。しかし、なんだろうか。全然いい気がしない。

「なぁ、草津(くさつ)。」

その声がしたので振り向いてみた。今、草津(くさつ)の名前を聞くとイラッとした。呼んだのは千葉(ちば)のようだった。千葉(ちば)は机の上に勉強の道具を広げている。その近くに草津(くさつ)がいるから、勉強でも教えているんだろう。

「なぁ、草津(くさつ)。これのやり方なんだけどさぁ。」

千葉(ちば)がそう切り出し始めて、草津(くさつ)がそれを覗き込んだ。

「フン。分からないなら、分からないままでいいんじゃない。」

僕は千葉(ちば)にそう言った。

「なんだよ、永島(ながしま)。今日はやけに冷たいな。」

「別に。こっちからしてみれば、落ちてくれれば都合がいいし。」

「・・・そう言ってるやつが落ちるんじゃないの。」

草津(くさつ)が口を開いた。

「はっ。」

心の中で言ったつもりだったけど、思いっ切り口に出ていたらしい。それを自分の耳でも確認する。自分でも今まで聞いたことがないような声が出た。怒りに満ち満ちた声になっている。

「だって、そうじゃん。東海の試験の時に落ちればいいじゃんって言ってたら、その通りになったじゃないか。」

草津(くさつ)はさらにそう続ける。確かに、そうなんだけど・・・。でも、なんか・・・。

(クッ・・・。)

何か言ってやろうっていう気に初めてなった。でも、何を言っていいのかが分からない。

「ナガシィ。」

(もえ)の呼ぶ声がした。

「早く帰ろう。」

「えっ・・・。」

僕が何か言う暇もなく(もえ)は僕の手をつかんで、少々強引に部屋から連れ出した。

(まずいよ。ナガシィ・・・。これ・・・またいつ爆発するかわかんないよ。)

(もえ)は心の中でそう思った。東海の落ちてからというもの、ナガシィの気持ちがすごく揺らいでいるのが伝わってくるのだ。気持ちがいつ爆発してもおかしくない状態に近づいているのは確実である。それは今まで何年も隣にいたからわかることだ。ほんの少し。気休めでもいいから、ちょっと気持ちの爆発の先延ばしをしないと・・・。

「ねぇ、もうちょっと経ったら、ゴールデンウィークだしさぁ、関西の私鉄でもたくさん乗ってくればいいんじゃない。」

「えっ。」

やっぱり声はちょっといつもよりも男の子ポクなっている。いつも話している声と少し違う。

「えって・・・。いくら忙しくても、遊ぶほうがいいときだってあるよ。」

(もえ)はそういうと僕に顔を寄せてきて、

「ねっ。だから行こうよ。」

「行くって言っても、どこに行くの。関西の私鉄乗り放題っていう切符でもあるの。」

僕はそう聞いた。

「あるよ。高槻(たかつき)君から聞いたんだけど、3DAYフリーパスっていうのがあるんだって。それで大概の関西の私鉄は乗れるらしいよ。」

(もえ)はここでウソをついた。高槻(たかつき)から聞いたのではなく、草津(くさつ)から聞いたのだ。

「へぇ、そんな切符あるんだ・・・。じゃあさぁ、山陽電鉄(さんよう)とか、南海電鉄(なんかい)とか、近畿日本鉄道(きんてつ)とか。普段乗らないところに行こう。」

「いいよ。じゃあ、ちょっとどう回るか計画練ってみるね。」

「でもさぁ、それって3日連続で回らなきゃいけないの。」

「ううん。期間中だったら、好きな3日間でいいの。だから、4月の27日と28日に行って、5月3日にまた切符使って旅するっていうのも、できるんだって。」

「へぇ、そんなことできるんだ。」

「うん、だから、そこは心配しなくていいよ。明日はゆっくり家でゴロゴロしてればいいから。」

「う・・・うん。」

 4月27日。僕が部屋でゴロゴロしていると、(もえ)が僕の部屋にやってきて、計画を立てていた。

「ねっ。だから、大阪阿部野橋(おおさかあべのばし)から、橿原神宮前(かしはらじんぐう)まで急行で行って、橿原神宮前(かしはらじんぐう)から、京都まで急行に乗るでしょ。そのあと京都市営に乗って、京阪電鉄(けいはん)出町柳(でまちやなぎ)まで行ってから、京阪電鉄(けいはん)に乗って淀屋橋(よどやばし)まで帰ってくる。これでいいんじゃないの。」

ここで少々解説を入れよう。大阪阿部野橋(おおさかあべのばし)近畿日本鉄道(きんてつ)南大阪線(みなみおおさかせん)の起点。ジェイアールの天王寺(てんのうじ)駅に近いところにある高架駅である。今は日本一高いビルとして開業する予定のアベノハルカスの近くにある。大阪阿部野橋(おおさかあべのばし)からは吉野(よしの)方面に向かう列車と河内長野(かわちながの)に向かう列車が発着している。なお、近畿日本鉄道(きんてつ)の中で、大阪阿部野橋(おおさかあべのばし)を起点にしている南大阪線(みなみおおさかせん)は「アーバンライナー」などが走る線路とレール幅が違うという特徴を持つ。

 京阪電鉄(けいはん)は大阪の淀屋橋(よどやばし)から、京都の出町柳(でまちやなぎ)までを結ぶ本線と、中之島(なかのしま)まで延びる中之島線(なかのしません)交野(かたの)方面に向かう交野線(かたのせん)などを有する大手私鉄である。大阪から京都の間を走る鉄道路線の中では新幹線よりも南を走っており、路線のほとんどが淀川よりも南に位置する。

「うん。いいよ。それで。」

「じゃあ、1日目はこれでいいね。2日目はね阪神電鉄(はんしん)に乗って、まず武庫川で降りるの。それで、武庫川団地(むこがわだんち)にいく路線に乗ってから、山陽姫路(さんようひめじ)まで行く直通特急に乗って、山陽姫路(さんようひめじ)まで行くでしょ。あっ。山陽姫路(さんようひめじ)に行く前か、後で山陽網干(さんようあぼし)にも行って、阪急電鉄(はんきゅう)甲陽線(こうようせん)とか伊丹線(いたみせん)に乗ってこようか。」

阪神電鉄(はんしん)はあの阪神タイガースを所有する大手私鉄だ。大阪と神戸の間では最も南を走る鉄道路線で、一番駅の多い路線でもある。また、鉄道ファンの中ではこの私鉄が所有する普通列車車両を「ジェットカー」という愛称で呼んでいる。それは鉄道の中ではとても加速がいいという意味からきている。「ジェットカー」を持つ理由としては阪神電鉄(はんしん)が本線に多数の特急、急行を走らせるためでもある。それ以上は深すぎるので、省略しよう。

 山陽電鉄(さんようでんてつ)は兵庫県神戸近隣の西代(にしだい)から、姫路(ひめじ)までを結んでいる私鉄。阪神電鉄(はんしん)から直通特急と特急が直通運転を行っており、前者は山陽姫路(さんようひめじ)まで。後者は須磨浦公園(すまうらこうえん)まで乗り入れを行っている。なお、西代(にしだい)と、阪神電鉄(はんしん)元町(もとまち)阪急三宮(はんきゅうさんのみや)の間には神戸高速鉄道(こうべこうそくてつどう)という鉄道会社があり、直通運転は全てその会社を介して行われている。

「3日目は南海電鉄(なんかい)に乗って、高野山(こうやさん)に行ってから、汐見橋(しおみばし)とかけいはんな線とかに乗って戻ってくるでいいでしょ。それでいいでしょ。」

まぁ、くどいかもしれないが・・・。南海電鉄(なんかい)はなんばから和歌山までと高野山(こうやさん)を結んでいる大手私鉄。この鉄道会社が持っている一番有名なものとして、紫色の車体でロボットのような顔をしている関西国際空港行きの特急「ラピード」がある。

 けいはんな線は近畿日本鉄道(きんてつ)が所有する路線。大阪市営地下鉄(おおさかしえい)長田(ながた)から、終点の学研奈良登美ヶ(がっけんならとみがおか)までを結んでおり、途中の生駒(いこま)までは近畿日本鉄道(きんてつ)奈良線(ならせん)のバイパスの役割も持たせている路線である。

 (もえ)が確認してきたので僕は小さく頷いた。そして、それを4月28日、29日、5月3日に実行した。28日は近畿日本鉄道(きんてつ)京阪電鉄(けいはん)などに乗り、29日は山陽電鉄(さんようでんてつ)に乗って姫路(ひめじ)網干(あぼし)に向かい、3日は南海電鉄(なんかい)に乗った。

「ナガシィ。眠いの。」

(もえ)にそう言われて、ゆらゆらと電車の揺れに揺られるがままになっていた頭がピクッとする。今は高野山(こうやさん)方面に向かっている急行列車の中だ。今乗っている急行は途中の橋本(はしもと)までとなっている。それは橋本(はしもと)から先がとても険しい山岳路線になるためで、橋本(はしもと)まで走っている車両は橋本(はしもと)から極楽橋(ごくらくばし)の間を走ることができないからだ。つまり、橋本(はしもと)極楽橋(ごくらくばし)間は山岳路線に特化した車両のみ乗りいれることができる。直通する「特急こうや」はその基準をもちろん満たしているのだ。

「ねっ・・・眠く・・・。」

目を開けようとしたんだけど、うまく開かない。

「もう。そういうところで見え張らなくていいから。眠いなら、私の肩使えばいいから。」

(もえ)はそう言って自分の左肩を指差した。

「いいよ。別に。」

「ダメ。寝たい時はちゃんと寝なさい。」

「いいってば。」

そういうと急行はトンネルの中に入った。走る急行列車の車両は今は珍しい片開きのドアがあり、それが片側に4枚ついている。とても古いためだろうか、床下から聞こえてくるモーターの轟音でトンネルの中ではなしても、そのほとんどがかき消された。トンネルを抜けると和歌山県に入る。

 橋本(はしもと)に着くとその先の山岳路線特化用の「ズームカー」っていう愛称を持つ列車に乗り込んだ。高野山(こうやさん)に行く人が結構多く、4両編成2ドアの車両はすぐに立ち客が出るほどになった。僕たちは運よく席に座ることができた。途中までは普通の電車みたいなスピードで走るが、山が深くなってくると30km/hでゆっくりゆっくりと山を登って行くカーブがきつく、常に車輪がレールにこすれる音が響いてくる。しばらく走ると駅が来て、反対側からガラガラの列車がやってきた。

「あっちの列車、ガラガラだね。」

「・・・うん。そうだね。」

(もえ)の話にそう答えた。

「ナガシィ・・・。楽しも。何か難しいこと考えてる。」

と聞かれた。

「何も考えてないけど・・・。」

どうせ見抜かれるだろう。見抜いたからそう聞いたのだと思った。

5月6日。ゴールデンウィークの最終日に試験がある。


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