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MAIN TRAFFIC  作者: 浜北の「ひかり」
Distress Episode
255/779

255列車 絵

 3月16日。今日は名古屋に来ていた。

(えっと。鳥峨家(とりがや)の家って・・・。あっ。ここか。)

恐る恐るインターホンを鳴らしてみた。すると、中から声がする。本当にいいのかなぁ・・・。結構成り行きでここに来た気がするんだけど・・・。まぁいっか。来てほしいってメチャクチャ縋り付いてきたから。だから、いいよねぇ・・・。

「あっ・・・。黒崎(くろさき)。」

ドアを開けて、鳥峨家(とりがや)はそう言った。

「どうしたの。」

ちょっと心配になる。

「ちょっと。黒崎(くろさき)の声聞きたかったから。」

「えっ・・・。それはどういう。」

「このごろ、ちょっといろいろありすぎてるから・・・。」

「・・・。」

「あっ。このままこうやって立って話してるのもなんだし、部屋の中はいれば。」

「えっ・・・。」

いきなり、好きな人の部屋の中に入れと言われても・・・。そんなこと考えていたけど、確かに、このまま立って話すっていうのはあたしにとってもきついけど・・・。

「どうした。黒崎(くろさき)。入れよ。」

「えっ・・・。でも・・・。」

「なぁ、黒崎(くろさき)入ってくれよ。そのまま玄関先で立ってくれるとこっちが恥ずかしいから。」

入ってほしい理由は恥ずかしいから・・・。でも、あたしもこのままっていうのも嫌だからなぁ・・・。鳥峨家(とりがや)の部屋の中に入った。部屋の中には行ってみるとその様子に驚いた。出る声がなくなるっていうのはこういうこと言うんだよねぇ・・・。全然片付いてないし・・・。でも、踏み場がないよりはましかぁ・・・。

「ちょっと。片づけたら・・・。これでも、彼女入れるために用意した部屋。」

「いや・・・。こういうところ嫌なのは分かってるけど、なかなかやる気にならなくて。」

言い訳してるし・・・。

「ちょっと。まず、これ片づけよう。」

「ごめんな・・・。」

「ごめんって思うなら、ちょっとは手伝いなさいよ。」

部屋の中に散らかってる本とかを本棚に片づけていく。これで少しは散らかっている部屋の中は片付いたかなぁ・・・。それに、鳥峨家(とりがや)髪の毛このごろ洗ってない感じするし・・・。ご飯たいたりしてる雰囲気もないし。どんだけ面倒くさがってるのよ。他のことは何もしなくてもいいけど、髪の毛だけはちゃんと洗ってよね。好きな女の子に嫌われるよ・・・って言ってもその鳥峨家(とりがや)を好きな人がいるかぁ。ここに。ていうか・・・。

鳥峨家(とりがや)。ちゃんとご飯食べてる。」

「えっ・・・。」

食べてないな。これ。

「どういうの食べたいの。」

「今冷蔵庫に何もないんだけど。」

「はぁ・・・。」

でも、何かはあるでしょ。中を見てみた。確かに、何にもないけど、何か作れるぐらいはあるね。豆腐とかあるし、レトルト食品がまとまってるところに麻婆豆腐のもととかあるし、これでちょっとは鳥峨家(とりがや)を満足できるぐらいのご飯を作れるかなぁ。

鳥峨家(とりがや)。お昼何食べる。」

と聞いてみた。

「なんでもいいよ。」

「なんでもいいってねぇ・・・。少しは自分の欲とか言ったら。」

「よくいったら、黒崎(くろさき)のこと食べちゃうけど・・・。」

うっ・・・。それは・・・。まだ鳥峨家(とりがや)に食べられたくないし・・・。裸なんて見せたくないし・・・。ていうか、ここで鳥峨家(とりがや)に食べられたら、家に帰れなくなるな。

「・・・そう言う欲は言わないの。」

「分かってるって。今、黒崎(くろさき)食べたらいろいろ問題あるし・・・。一線越えるのは結婚してからだから。」

ドキッ・・・。えっ。いきなり一線越えるのは結婚してからって・・・。あっ。でも、そのほうがあたしとしてもいいかぁ・・・。そうすれば、着替えは同じ家の中にあることになるし・・・。じゃない。心臓がバクバク言ってるのは聞こえてるけど、何とか心を落ち着けて、お昼ご飯用意しよう。

 ご飯を用意して、鳥峨家(とりがや)に出す。正直これが初めて異性のために作った料理。家でも料理はしてるけど、自分のお弁当だったりしたからなぁ・・・。それに、家でご飯を作ってたら、家族のためになるし。お父さんのためにお弁当作っても全然恥ずかしくないけど、今回はわけが違いすぎるよ・・・。

「・・・どう。」

「おいしいよ。」

「・・・。」

鳥峨家(とりがや)のその言葉にホッとした。

「そう。」

「うん。毎日こういうご飯食べれたらなぁ・・・。僕は(あずさ)みたいに料理が得意じゃないから。」

「えっ。でも家庭科って結構成績よかったよねぇ。」

そう言った。鳥峨家(とりがや)って家庭科はあたしよりも確か成績がよかった。5段階で5だった気がする。あたしは5段階で4。まぁ、ちょっと家庭科の授業はふざけて聞いてた部分もあったからなぁ・・・。

「全然得意じゃないって。多分それは裁縫で押し上げてたんだと思うし。」

「・・・。」

鳥峨家(とりがや)はすぐにお昼ご飯を食べきってしまった。それを片付けてしまうと、何もすることがなくなってしまう。ただただ、この狭い部屋の中ではなすことぐらいしか・・・。でも、鳥峨家(とりがや)と何を話そう。あたしが時刻表でいろいろ妄想してることは言いたくないし・・・。正直オタクって思われるよねぇ。そんなこと言ったら。何がどうとかそういうこと言わなきゃ大丈夫かなぁ・・・。

「あ・・・あのさぁ。」

鳥峨家(とりがや)が口を開いた。

「な・・・何。」

火照ってる・・・。

「言っておかなきゃいけないことがあるんだけど・・・。」

(何。言っておかなきゃいけないことって。ここでプロポーズとかされたらどうしよう。って・・・。何勝手にプロポーズって。でも、もし本当にプロポーズだったら・・・。)

「僕、鉄道会社目指してるのは知ってるよねぇ。」

「・・・うん。」

「でも、その鉄道会社に就職できないかもしれないんだ。いや。就職したとしても、(あずさ)のいる浜松には戻らないかもしれないんだ。」

「えっ・・・。」

「だから、もし本当に何年も待ってくれるなら、そのことを頭の片隅でいいから置いといてほしいんだ。」

「・・・いいよ。鳥峨家(とりがや)。・・・もし、あたしと一緒にいたくなったら、どこにでもあたしを連れてけばいいじゃない。それでいいから。」

「えっ。でも。それは(あずさ)のお母さんたちに。」

「大丈夫だって。あたし、お母さんにはあたしの好きな人のこと全部バレてるから。」

「バレてるって・・・。」

「・・・あ・・・あたしお母さんとよく似てるのかなぁ・・・。じ・・・実は授業の時に、ノートに鳥峨家(とりがや)の絵。たくさん描いてるんだ。」

「・・・あっ・・・。じゃあ、授業の時に感じてた視線の正体は(あずさ)だったんだ。」

「えっ・・・。」

目が点になった。まさか、鳥峨家(とりがや)まで気付いてたの。

「ウ・・・ウソッ・・・。」

「だって、小6の時だったかなぁ。誰か見てる気がして、誰が見てるのか気になって後ろむいたことがあるんだ。そしたら、(あずさ)だけなんかあわてた感じで、目そらしたから。(あずさ)なのかなぁって思ってたんだけど、もし間違ってたら、(あずさ)に失礼だなって思って黙ってたんだ。でも、まさか。本当に(あずさ)だったなんてね。」

「・・・。」

「ねぇ。絵描いてよ。」

「えっ・・・。」

「描いてくれたら、それ僕の宝物として、大切に持っとくから。」

「・・・。」

しばらく回答に困っていた。こんな間近で鳥峨家(とりがや)を見るのは久しぶりだけど、絵を描いているところを見られたことは今まで一度もない。

「そ・・・そんなに絵うまくないよ。」

「そんなことないって。(あずさ)、絵上手じゃん。結構前に出されたコンクールの絵もすごかったよ。」

「あ・・・。あれと鉛筆画は違うからね。」

「いいよ。(あずさ)が描いてくれたことに意味があるから。」

「・・・。」

「描いてくれる。」

うなずくと自分の前に紙とシャープペンが出てきた。あたしの後ろにある机に紙を置いて、十字を描いた。人の顔を描くときの基本だ。そのあとどこに何が来るのかそれを下書きした。あたりを描き終わったら、それを目安にして、鳥峨家(とりがや)のかを書き上げていく。もう何百回も書いた顔だ。鳥峨家(とりがや)の顔くらい見ずにだって描ける。でも、今は本人が見てるから、見ないと気に障るかなぁ・・・。後ろにいる鳥峨家(とりがや)を見るたびに、自分で顔が赤くなっていることを認識した。

「できたよ。」

そう声を掛けると、鳥峨家(とりがや)はあたしの両肩に手を置いて、描いた絵を覗き込んだ。

「・・・すごい・・・。似ていすぎる。」

「・・・鳥峨家(とりがや)って男子の顔してないから、描くときちょっと女の子っぽくなるんだよ。結構女の子っぽく描いて、男子っぽくするの難しいからね。」

描いてる時にいつも思ってることを鳥峨家(とりがや)に言った。

「やめて。それ嫌だから。」

「・・・コンプレックスなんだ。」

「うん。(あずさ)の胸と同じ。」

「なっ・・・。あっ・・・あたしの胸と一緒に・・・。」

(あずさ)のコンプレックスなんでしょ。」

「・・・。」

鳥峨家(とりがや)の言ってることあたってるし、反論できない・・・。でも、自分の胸のこと言われるなんて・・・。

「あっ。ごめん。言われるの嫌だったね。」

「い・・・いいよ。別に・・・。」

「怒ってる。」

「怒ってない。鳥峨家(とりがや)なら、ある程度のことは許すよ。」

「・・・。」

しばらくそのままの状態で言葉がない。

「あのさぁ。」

沈黙を破ったのは鳥峨家(とりがや)だった。

(あずさ)って、僕と結婚したいって思ってる。」

体温が一気に3度ぐらいあがったと思った。

「えっ・・・。そ・・・そんなこと・・・い・・・いきなり言われても・・・。」

「そ・・・そうだね。ごめん。」

「・・・。」

なんでだろう。謝られるとなんかすごく変な気分になった。えっ。今言われたの、正直に自分の中でうれしいって思ってるのかなぁ・・・。

「・・・そ・・・それは・・・。」

鳥峨家(とりがや)を見ようと思っても、見れない。

(もし、鳥峨家(とりがや)があたしと一緒にいたいなら、結婚したい。)

心の中で思っているだけで、言葉にできない。

「ごめん。本当に突然すぎたよね。今答えなくてもいいから。」

「・・・したい・・・。」

「えっ。」

「あたしも・・・。鳥峨家(とりがや)と結婚したいよ。でも、今はそういう時じゃないでしょ。」

「分かってる。」

「それで、もし就職が決まっても、浜松に戻る保証はないんでしょ。」

うなずいた。

「あたしは前にも言ったけど、何年でも待つから。それに、鳥峨家(とりがや)があたしのこと連れて行きたいなら、勝手に連れていけばいいから。それは変わんないから。」

いつあたしはこんなに鳥峨家(とりがや)の前で言葉を並べれるようになったの。自分が不思議でしょうがない。でも、これでよかったよねぇ・・・。だってあたしはそれができたら、本当に幸せだから。


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