254列車 余韻
3月8日。起き上がるけど、まぶたが重い。部屋の中を見回してみると僕のいるほうに萌、瀬野、今治が。反対側には近畿、高槻、草津、暁がいる。でも、栗東はいない。結局女子の部屋で寝落ちしたのかなぁ・・・。ふと、萌のほうを見ると、浴衣がはだけて、下着が見えている。萌の下着見るのって何年ぶりだっけ・・・。じゃないや。携帯電話が充電しっぱなしになっていることを思い出して、携帯電話を取りに行く。時間を見てみると4時18分。まだお風呂も開いていない。
「うん・・・。」
そういう声を萌がたてる。カワイイ声だねぇ・・・。と思っていると萌が目を開けた。
「・・・ナガシィ・・・。」
僕の名前を呼んでから、萌は自分の下に目をやる。自分のブラが僕に見えてることはすぐに分かったらしくて、浴衣を整える。
「ナガシィ。見た・・・。」
眠そうな声で萌が言う。
「・・・見ちゃったね・・・。」
「ふぅん・・・。」
あれ。見られた割には気にしてないような反応・・・。でも・・・ねぇ。後で何があるかわかんないし・・・。
「ナガシィ・・・。朝お風呂行くの・・・。」
「行くつもりだよ。」
「・・・お風呂ってまだ開いてないよねぇ・・・。5時だっけ。」
「5時だよ。」
「もう行くつもり。」
「うん・・・。下で時間つぶすつもりだから。」
「ちょっと待って。あたしも部屋に行ってお風呂行く。」
僕はタオルを持って部屋の外に出ると、隣の女子の部屋に行った。ドアを開けると女子の部屋は蛍光灯がこうこうと光っているのが分かる。どうやら寝落ちしてないみたいだねぇ。萌が入って行ってから、犀潟と栗東の声がかすかに聞こえるし・・・。その低い声に交じって蓬莱の高い声も聞こえてきているし。寝落ちしてない人間何人いるの・・・。萌が出てくると栗東も一緒に出てきた。栗東も一緒にお風呂に行くという。結局朝風呂に行ったのは僕、栗東、近畿、萌。5時30分ごろにお風呂から出て、部屋に戻った。部屋に戻ると瀬野、草津、高槻が起きていた。
「お風呂行ってきたのか。」
瀬野が聞く。
「うん。」
「じゃあ、パンツ見せてよ。」
朝一発目はその言葉。違うでしょ。もっと別な言葉があるはずだけど・・・。
「見せないよ。」
「ていうか、萌ちゃんは。」
「一度自分の部屋に戻ったけど。」
「ていうか、萌ちゃんもお風呂行ったの。」
「うん。行ったよ。」
「マジかぁ・・・。せっかく萌ちゃんのモエな裸を見れるところだったのに・・・。」
じゃなくて・・・。ガラッとドアが開いて、誰かが中に入って来た。
「あっ。おはよう。」
「おはよう萌ちゃん。てなわけで、萌ちゃんパンツ。」
「見せないよ・・・。」
「えー・・・。見せてくれたって。」
「やめろ・・・。」
7時に朝ごはんを食べ、8時にホテルのロビーに集合する。そこから15時45分まで自由行動になる。僕たちは博多まで行くことになるし、博多まで直通する列車が9時07分の「ゆふ2号」までないことから、1時間は自由に行動できる。その時間はすぐに過ぎて、「ゆふ2号」の発車時間となる。特急に乗車している間僕はほとんどの時間寝ていた。やっぱり朝4時起きっていうのと、フェリーの中でオールをしたのが今ひびいているんだろう・・・。
博多に到着したら、僕たちは福岡市営地下鉄に乗ることになる。
「ナガシィ。ここからどこに行くの。」
「・・・ここから姪浜まで。」
「そう。姪浜にいったらどこに行くわけ。」
「そのあとは天神で降りて、ちょっと天神から離れてる地下鉄に乗って、戻ってきたら、貝塚まで行って、貝塚から戻ってきたら、途中の中洲川端で乗り換えて、そのまま福岡空港まで行って、戻ってくる。」
「それで全線乗って戻ってこれるの。」
「うん・・・。戻ってこれるよ。それに今はちょっとだけ時間が早いから、予定してた時間よりも早く戻ってくることができるよ。」
「へぇ・・・。」
「へぇって・・・。」
そういうと萌は僕の手を握る。
「あっ。ちょっ・・・。」
「どうしたの。手を握るぐらいいいじゃん。くすぐってるわけじゃないし。」
「・・・。」
「それとも何。恥ずかしいの。」
「・・・恥ずかしいって言われれば、ちょっとね。」
「・・・そう。だから、あんまり手握ったりしないの。」
考えてみれば・・・。うーん。そういうことになるのかなぁ・・・。
「私はナガシィと手握りたいなぁ・・・。だって、ナガシィは私の好きな人だから。」
えっ・・・。萌の突然の告白に変な気持ちになる・・・。嬉しかったり、恥ずかしかったり・・・。でも、どうしていきなり・・・。萌はそういうこと考えている僕の顔を覗き込むように見る。
「どうしたの。恥ずかしい。」
「別に・・・。別にそういうわけじゃないよ。」
「本当。」
冷やかす声が聞こえる。
「本当だって。なんでもないってば。」
「ふぅん。」
そういうと萌は僕の手をひいて、地下鉄の改札口のほうへ歩いていく。僕はさっき萌が言ったことが気になって、ずっと萌のことを見ていた。でも、何でいきなり・・・。就活で別の会社に就職することになるかもしれないから・・・。でも、萌はあの時に言った。一般企業だろうと鉄道会社だろうと意地でも同じ会社に入ってやるって・・・。僕はあの言葉を心の奥底で信じている。萌ならそれがやれるって・・・。もしそうなるなら、今言わなくても・・・。もしかしたら、今言ったことは保険かもしれない・・・。もし、同じ会社に就職できなかった時の・・・。こっちからしてみればそんな保険掛けてくれなくていいのに・・・。
地下鉄で姪浜に行くと303系が待っていた。それ以外に乗った地下鉄は福岡市営の地下鉄車両だった。全線地下鉄に乗ってくると博多の光の広場に戻った。その場所は高1の時に一度来たことのある場所だった。そう。そこは研修旅行で博多に来た時に集合した場所だった。
15時45分の集合で、全員が集まり、僕たちは団体で博多のホームに上がる。乗る列車は16時04分発の「さくら560号」。新大阪に到着するのは18時44分だ。
「なぁ、智ちゃん。これで乗って帰ると浜松帰れるよなぁ。」
犀潟が言う。確かに。途中の新大阪で降りる必要はあるけど、帰れないことはないかぁ・・・。でも、浜松まで速く行くためには新大阪を18時40分に発車する「ひかり」に乗車しないと・・・。「こだま」もあるけどね・・・。
「帰れるけどなぁ・・・。でも早く行ける新幹線が4分前に発車しちゃってるからなぁ・・・。」
「「こだま」あるじゃん。」
栗東の声がした。
「まぁ、「こだま」あるけどねぇ・・・。」
「こだま」遅いし。でも、帰れないことはないかぁ・・・。でも、こういう話をするのもこれが・・・旅行じゃあ最後なんだよねぇ・・・。楽しいのに・・・。これがもっと続いてほしいと思う。これがあのアニメみたいにずっと繰り返していたら、寝れない夜がたくさん来るけど、そのほうがいいなぁ・・・。「さくら」は発車すると無情に流れる時間の軸に乗って、新大阪を目指して走って行く。
新大阪に到着した「さくら」はまた鹿児島中央まで戻る準備をする。その「さくら」と一緒に・・・。僕もどこかに行きたい・・・。でも、それをしたら・・・。いったい僕は何を考えている・・・。僕の頭の中はまだ旅行の余韻に浸っているのだろうなぁ。
「ナガシィ。帰ろう。私たちの部屋。」
「・・・う・・・うん。」
「どうしたの。まだ旅行してたい。」
「うん。楽しすぎて。3日しかなかったのに5日ぐらいに感じるよ。」
「おーい。帰ろう。」
木ノ本、留萌がそう言いながらこちらに歩いてくる。
「ちょっと待って・・・。あたしもそっちだから。」
瀬野も歩いてくる。その人数で緑地公園まで帰ることとなった。地下鉄のホームまで上がると、
「よしっ。次何が来るかあてる会。」
と瀬野が言った。乗る地下鉄の車両のことである。僕は西中島南方のほうを見た。くらいからヘッドライトがくっきりと分かる。
「・・・あれ20系じゃない。」
「うん。あたしもそんな気する。」
言った本人もか・・・。それじゃあ賭けの意味ないし・・・。
「そうねぇ・・・。あれは20系だよねぇ・・・。」
はいもう賭けの意味なんてなかった。来たのは21系の第12編成。別にこれと言って目立つところもないけど、来るんだったらマイナス5しようかぁ・・・。ドアが開いて、中からここで降りる客を先に通す。乗り込むと留萌、木ノ本、瀬野、萌は5号車の隣にある女性専用車両に行こうとした。
「あれ。智ちゃんこっちに来ないの。」
「行かないよ。僕女子じゃないし。」
「え。ウソだよね。」
「ウソじゃないってば。」
「大丈夫だって。ナガシィ男性には見えないから。」
「大丈夫じゃない・・・。」
緑地公園で瀬野とは別れ、残りのメンツでワンルームに歩いていく。翌日。結構長い時間寝てしまっていた。この週末お父さんが来て、僕の携帯電話の機種変更をする。他にもいろいろとやることがあるけど・・・。どうして。週末までそのことを考えなければいけないのだろう・・・。本当にどこかに行ってしまいたい・・・。過去に戻りたい・・・。ここまで時間が無情に感じることもないと思う。




