251列車 大阪 東京
2月28日。12時ごろだ。僕と萌はスーツ姿で新大阪のJR東海ツアーズの前にいた。ここは新幹線中央改札口に通じる前に道だ。今日ここにいる理由は他でもない。今日はJR東海の社員懇談会の日だ。今日この時間にそれを聞くことになっているのは今治、長万部、近畿、高槻、羽犬塚、水上、栗東、萌、僕。笹子から参加するのはこの人たちだけだ。他の人は午前中の社員懇談会に参加している人たちもいる。木ノ本と留萌は午前中に参加したって、本人からきている。
「ていうか、ナガシィ。3月2日どうするの。まだバスの予約してないじゃん。」
「えっ。またバスで行くの。」
萌が言っている3月2日。これは東京にある会社「新幹線メンテナンス東海」の会社説明会のある日である。
「えっ。じゃあ、新幹線で行くつもり。」
「うん。だって、バスの中じゃあ寝れないもん。往復バスはないって。死んじゃう。」
「そう。じゃあ、「のぞみ」で行くの。」
「うん・・・。6時ちょうどの「のぞみ200号」で行こうかなぁって思ってる。」
「朝早いじゃん。」
「お互い朝には慣れてるでしょ。」
と言ってやった。
「じゃあ、新幹線で行くなら、今切符買ってこない。」
「えっ・・・。」
萌がそう言うので、僕は「のぞみ」の自由席を往復で買った。これなら朝一の「のぞみ200号」に乗る必要は必ずしもない。でも、念には念を入れないと。会社説明会で遅れるなんていうのはもってのほかだから。
切符を買って戻ってくると今治と羽犬塚が待っていた。集合時間がだんだんと近づいてきて、説明会を聞くメンツが集まってくる。説明会は新幹線の改札口を越えて、ちょっと入ったところにある阪急ビルの10階で行われる。その阪急ビルのランクにはとても圧倒される。入学式の時もそうだけど、会社説明会をやるような場所ではない気がする。オオ会社とかっていうのはこういう場違いの場所で説明会をするっていうのがクオリティなのだろうか・・・。なんて言っている暇ではないかぁ・・・。説明会会場の会に上がってくると人が3人いた。
「こんにちは。」
と行動を止めて、声を掛ける。難波さんからのメールには立ち居振る舞いすべて見られていると言われた。こういうところでも少しは好印象を与えておかないとねぇ。
13時30分から説明会がスタートした。まず15分ぐらいJR東海の企業紹介用DVDを見て、そのDVDで紹介しきれない部分を口頭で補う。それが終わってから、社員懇談会となった。JR東海からの社員は京都駅に配属されている人、大阪第一運転所所属の車掌一人、大阪第二運転所所属の運転士一人だった。運転士は笹子のエアライン学科からJR東海に行った人だった。そこは意外だったけど、あの人は面接対策の担当講師が言っていた人だろうと直感した。それぞれの人への質問が20分ずつ。1時間経つと社員懇談会は終了。聞きに来た人たちと一緒に阪急ビルを出るとようやっと肩の力を抜いた。
「はぁ・・・。疲れた。」
「肩痛ぇなぁ・・・。」
栗東が肩に左手を置き、右腕をまわしている。
「本当・・・。」
その時新幹線の中央改札口に来た。
「・・・。」
中央改札口から見える電光掲示板には東京に向かって走る「のぞみ」がたくさん表示されている。そして、まれに出ている赤い文字の「ひかり」と青い文字の「こだま」。目をそこから移すとピンク色の「さくら」が出ている。それにしてもなんでこんなにたくさんの「のぞみ」が走っているんだろうか。いくら「のぞみ」社会でもこれは多すぎる。ほとんどの駅を通過する「のぞみ」が10分に1本出ているって、ここは私鉄か・・・。って民営化されているから事実上私鉄かぁ・・・。
「本当に何かがおかしいなぁ・・・。」
僕がそうつぶやくと栗東が反応した。
「何が。」
「あれ・・・。「のぞみ」多すぎだって。」
「まったく、「のぞみ」多いなぁ・・・。あれおかしいだろ。ラッシュでも新快速あんなにたくさん来ないぞ。」
「新王寺でもあり得ねぇなぁ・・・。」
近畿が口を開いた。
「お前のところそもそも特急来ないじゃん。」
「・・・新王寺には特急ないけど、特急は大和八木いけば来るぞ。」
「それ近畿日本鉄道だ。」
栗東がツッコみを入れた。
「なぁ。あれだけ大量に新幹線でてるけど、東海って何編成持ってるの。」
「えっ。N700系が80編成・・・。」
「はっ・・・。」
栗東の目が点になる。
「多すぎだろ。80ってなんだよ。」
「それにZ0合わせたら81編成だろ。それに今発表してるN700Aが出そろったら13編成プラスされて、N700系のくくりが94編成になるなぁ。」
近畿が続ける。
「持ちすぎだ。ちょっとJ西にそのうち少しよこせ。」
「ああ。よこせって言ったら、700系ちょっとだけ売ったよなぁ。」
「えっ・・・うん。」
「あっ。マジで。売ったの。」
「うん。ちょっとだけね。」
「まぁ、その売った分の穴を埋めることと700系の初期車をN700Aで置き換えることで13本投入するみたいだけどなぁ・・・。」
「ていうかその700系自体何本持ってるんだよ。」
「・・・60編成。」
「だから数字がおかしいだろ。黙れよ、ちょっと。」
60編成と80編成を合わせたら、140編成。・・・16×140=2240両。新幹線の車両は1両3億円。・・・金額がすごいねぇ。それだけのお金いったいどこから出てるって・・・。それは新幹線かぁ・・・。さすが新幹線だけで85%儲けてる会社。何かがすごい。
「西日本でもそんなに持ってないなぁ・・・。N700系で16編成、700系でB編成が15本だからなぁ・・・。」
近畿がつぶやいた。本当に何かがおかしい・・・。
「すごいなぁ・・・。」
「確か、E5系でもそこまで行かなかったなぁ・・・。確かあれ全部が投入されても50編成ぐらいにしかならなかったでしょ。」
「うん。多分それぐらい・・・。」
「・・・だからやっぱりおかしいだろ。東日本上回ってるし。」
「アハハ・・・。」
自分でも東海のやっていることはおかしいと思っている。何かが本当におかしい・・・。新幹線のかけてるお金もすごいけど、リニアにかけてるお金は全部自分持ちでやっているから・・・。今はN700系80編成のブレーキを全部N700Aと同じにしようとしてるから・・・。何億円かけてるの。これだけで。しばらく近畿、栗東と話してから萌と一緒に部屋に帰った。
次の日は学校に行ってエントリーシートを片付ける。学校から帰ってからはすぐに寝て、明日に備える。3月2日。今日は早起きをして、スーツに着込んだ。スーツに着替え終わるとピンポンがなった。ドアを開けると萌がたっている。
「ナガシィ。」
「うん。ちょっと待って、すぐに用意するから。」
そう言って、必要なものをかばんの中に入れる。そして、家を出た。5時11分に緑地公園を出る始発に乗って、新大阪に着いたら、そこで朝ごはんにした。朝ご飯を食べてからすぐに新幹線ホームに上がった。26番線には6時00分に出る「のぞみ200号」。25番線には6時03分に出る「のぞみ202号」。3分後に「のぞみ」が出るっていうのは本当に何かがおかしい・・・。こんな早朝に2646人分の座席を東京に向けて、どれぐらいの需要があるっていう気持ちがある。2号車のD、E席に腰掛けると萌が話しかけてきた。
「ねぇ、ナガシィ。私たち何回、浜松通過してるかなぁ。」
「もう4回通過してるねぇ。これで往復すれば、6回通過したことになるね。」
「降りたいよねぇ。」
「・・・まぁね。」
とだけ言った。「のぞみ200号」は新大阪を出発すると快調に東京まで飛ばしていった。しかし、途中の浜松付近で一気に減速。100キロぐらいにスピードが落ちた。浜名湖で吹き荒れていた強風の影響によるものらしい。それで4分ほど遅れたが、新横浜に到着したときにはその遅れは解消していた。「新幹線メンテナンス東海」の企業説明会は夜行バスを利用するお客様のために開放しているラウンジがあるところの近くだった。説明会を聞く前千葉と落ち合い、1時間ぐらい説明を聞く。説明会が終わったと千葉と3人でお昼を食べる。そのあと、千葉は東京のJRを少しだけ乗ってくると言ったが、僕たちはすぐに新大阪に戻ることにした。戻るために乗った「のぞみ」は「のぞみ33号」。こちらも新大阪に向け快調に飛ばしていたが、名古屋ですでに発車しているはずの岡山行き「ひかり」に遭遇。「ひかり」は「しなの」が遅れた影響でそれの接続待ちをしていて、2人遅れで名古屋を発車。3分あとに着けている「のぞみ33号」もその影響で遅れた。しかし、京都のつく間に遅れを解消。スゴ・・・。さすが、すべての列車が年間に遅れる平均自分が30秒ぐらいに収められているだけの実績はある。
3月4日。今日は気持ちを切り替えて、エントリーシートの作成だ。今はJR東日本のエントリーも終わり、JR西日本に取り掛かっている。5時が近づいてくると難波さんのところにそれを持っていった。今書いてあるのは志望動機以外の部分である。
「はい。自己PRはこれでオッケイです。」
「はい・・・。」
「・・・すごいねぇ。あれからいいペースでできるようになってる。一皮むけたんじゃない。」
「いえ・・・。これ、実はJR東日本の自己PRを縮めて作っただけなんですけど・・・。」
「あっ・・・アハハハ。じゃあ、自分の文章褒めたわけ・・・。うん。それでいいから。」
「・・・はい・・・。」
「うん、じゃあ今日はこれで終わりでいいから。」
「はい。失礼いたしました。さようなら。」
「はい。さようなら。」
難波さんがそう言うのを聞いてから、教務室から自分の荷物が置いてある1階に行こうとした。
「永島君。」
難波さんの呼ぶ声が聞こえた。あれ。僕今なにかまずいことでもしたかなぁ・・・。
「はい。」
「永島君。笑顔が戻ったね。永島君は笑顔が似合うよ。」
「・・・はい。」




