249列車 整理
2月22日。今日は勉強会が行われた。僕は難波さんに自己PRや志望動機を持っていくのが怖くて、自分に甘え、持っていかずにいていた。結局、そのために話していたことが難波さんの怒りを買うこととなった。また、3月2日に行われる新幹線メンテナンス東海の企業説明会への予約も行った。今度はバスではなく、新幹線で往復しようかと思っている。
2月23日。今日は何もしなかった。・・・する気が起きなかった。昨日のことが気になっていたのだ。
「・・・。」
(僕ってなんでこうなんだろうなぁ・・・。)
そこが嫌になっていた。どうしても、自分に甘えてしまう。自分が甘いのは十分わかっているつもりだ。このままではいけないとも思っているのに・・・。なんで。なんでこうなの・・・。その日、萌を誘って、4月の最初のほうで行った江坂の温泉に行ってみることにした。
「ナガシィがこういうことで誘うって、珍しいね。」
萌はそう言ったが、僕は何も答える気が無くなった。来た列車を見ていた。ちょうど千里中央行きが30000系だったので、それがなかもず行きとして戻って来るまでの間緑地公園のホームで待つことにした。
「ふぅ・・・。」
温泉に浸かると嫌なことをなんでも忘れられそうだ・・・。
(気持ちいなぁ・・・。)
何も考えられない。毎日ずっとこうして浸かっていたいなぁ・・・。そうすれば、なんでも忘れられそうだ。
「・・・。」
お風呂から出るとどうしても現実を見なきゃいけない。それが嫌なのに・・・。着替えてから、萌と合流する。
「お待たせ。」
「・・・。」
「ナガシィ。」
「あっ。」
「どうしたの・・・。魂抜かれたみたいだよ。」
「・・・。」
「どこかにご飯食べに行こう。」
と言われて、温泉を出た。近くにパスタ屋さんがあるから、夕ご飯はそこで食べた。
2月24日。今日。今治が遠くから家に来た。東京地下鉄のウェブ適性検査を受けるためである。今治が持っているパソコンでできないのかと聞いたが、どうやら今治のパソコンはウェブ適性検査ができるようになっていなかったようだ。自分のパソコンもできるのかどうかわからないけど・・・。まぁ、結果的にできたからいいかぁ・・・。
「ねぇ・・・。」
「どうした。」
「心が折れそうだよ・・・。」
「・・・どうしたの・・・。やっぱり一人だから。」
何も言わずにただ首を縦に動かした。
「だってさぁ・・・。この頃いろいろやらかしちゃってるもん・・・。こっちに来てからだってまったく変われてないよ・・・。」
「・・・変わってるって。少なくとも、こっちに来た時よりは。」
「・・・。」
「それに僕は智ちゃんスゴいと思うなぁ・・・。」
「えっ・・・。」
「だって、怒らないじゃん。」
「・・・。」
「いつもなんか笑ってる気がする・・・。あって1年もたってないけど、僕が智ちゃんの怒ってる顔を見たことがないもん。他の人だって・・・。それがすごいよ。よくそんなに怒りを抑えられるね。」
「・・・。僕にあるのはそれだけだから・・・。」
「・・・でも、心の中でどう思ってるかは知らないけどねぇ。」
「・・・ねぇ、今治。僕って・・・みんなにとって邪魔になってるのかなぁ・・・。」
「そんなことないって。」
「でも・・・。不安だから、誰かと話したいのに・・・。まいちゃいけないタネを自分でまいてる気がして・・・。」
「誰でも不安だよ。」
少し顔が上がる。
「誰でも不安だよ。就職できるとかそういうこと・・・。今がとってもきついし、就職できるっていう保障はないし・・・。でも、智ちゃんほど何でもできれば、面接試験ぐらいまですぐに行けるよ。」
「・・・。」
「だって、智ちゃん。僕がやってる横でガンガン問題解いてくじゃん。よくそんなに早く問題が解けるよねぇ・・・。そこだってすごい。」
「・・・。」
「だから、智ちゃんは大丈夫だよ。みんな不安なんだから、智ちゃんが不安になることだってないよ。」
「・・・。」
「そうでしょ。」
「・・・あのさぁ・・・。僕ここに来た時は全員敵だよねって言い聞かせてた。でも、もうそれが無理だよ・・・。全員、同じ夢を持ってる仲間じゃない・・・。仲間だから・・・。それに・・・。僕さぁ。今自分の就活が正直どうでもよくなってる。来年卒業する人の就活。全部終わってから就職してもいいくらいの気持ちになってる。」
「・・・萌ちゃんもいるから。」
「・・・。」
「確かに。全員敵かもしれない。でも、全員仲間っていうのは間違っていないと思う。間違ってないから。そこまで自分のこと追いこんで考えることもないって。もうちょっと気楽に歩いていけよ。」
「それができたら、苦労しないってば・・・。今治みたいに気楽に考えれないよ・・・。」
「・・・そう言うなって。気楽に考えよう。みんな仲間。みんな同じ鉄道会社に行きたい人・・・。それだけでいいじゃん。」
「・・・それだけならいいの・・・。」
僕はボソッとそう言ってから、続けた。
「うん。他の人は本当にそれだけでいい・・・。でも、萌だけはそうじゃない・・・。それだけで済ませれる人じゃないの。萌は・・・。」
「好きだから。」
「・・・うん・・・。好きだから。それに、萌には・・・もうどこにも行ってほしくないんだ・・・。いつも隣にいるのが当たり前だから・・・。高校の時に萌が隣からいなくなったときはどうしても・・・。」
「・・・。」
「辛いんだなぁ・・・。自分が。嫌なんだなぁ・・・。自分が。」
「・・・どこにも行ってほしくないなら、自分が就職するか、自分が諦めるしかないよね。」(えっ・・・。)
「そうすれば、いつでも萌ちゃんについていけるよね。でも、智ちゃんは自分のなりたいものを簡単にあきらめる人には見えない。だから、自分も頑張って、萌ちゃんも頑張れば。それでいいんじゃないかなぁ・・・。もし、それで、萌ちゃんと智ちゃんが別々の会社に行くことになったら、その時また考えればいいと思う。だから、今はなにも考えずに・・・とはいかないかぁ。でも、頑張って。」
「・・・。」
今治にはそう言ってもらった。何となく自分の気が楽になった気がする。
2月25日。今日も何もする気が起きない。この頃は気が起きなさすぎて困る。いつものことで、萌は自分の部屋に来た。
「ナガシィ。どうしたの。」
「・・・なんでもないよ・・・。」
「私の前で意地張るのはよしたら。今はすがりたい気分なんでしょ。」
「・・・。」
「ねぇ・・・。ナガシィはちょっと背伸びしすぎてるんじゃないかなぁ・・・。」
「えっ・・・。」
「ナガシィだけが不安じゃないんだよ。私だって不安だよ。不安で心が折れそうだよ・・・。もしかしたら、もう折れちゃってるかもしれない・・・。ナガシィ・・・。ナガシィにはこのごろいろんなことが襲いかかってて、それがプレッシャーになってるんじゃないかなぁ・・・。もし、クラストップだったら、いい会社に入らなきゃいけないって考えになってるんじゃないかなぁ・・・。でも、それは自分が頑張った結果だよね。頑張って、クラストップならそれはそれでいいじゃん。いい会社に入れなくたって、いいじゃん。ちゃんとやればできる人なんだから。」
(・・・できる人かぁ・・・。そうは思ってないんだけど・・・。)
「だから、そういうこと考えずに頑張ろう。そういうこと考えなかったら、本当に気が楽になるよ。気楽に行けるよ。」
「・・・。ねぇ、萌は・・・。萌はどう考えてるの。」
「えっ・・・。」
「萌はどう考えてるの。どういう風に考えれば、萌みたいになれる。」
「私・・・。私はとにかく気楽に考えてるよ。だって、どうしたって履歴書は書かなきゃいけないじゃん。履歴書を書かない就活はないから。だから、気楽に考えよう。」
「でも、僕は・・・。」
「履歴書を書いてる時に話しちゃうこと・・・。それ。私も言われてるんだ。」
「えっ・・・。」
それは初めて聞いた。
「私だって言われてるんだ。だって、どうしても話しちゃうじゃない。ナガシィと同じだよ。こっちに来て一人暮らしをしてるから。不安なことがあるとどうしても他の人と話したいの。」
さらに続ける。
「だから自分を強くしなきゃ。そう思ってるけど、それがなかなかできなくて・・・。いつもナガシィに愚痴を聞いてもらいたいぐらい。難波先生のことだって文句も言いたい・・・。でも今文句は言うべきじゃないね。」
「・・・。」
「難波先生は他の人のこと。全員友達じゃなくて、仲間だっていうでしょ。でもその仲間だって、敵ってことじゃない。でも、私はどうしてもそう言う考えになれない。だから、全員で就職しよう。全員で内定もらおう。全員で就活を終わらせよう。それぐらいの気持ちでいい。そう考えれば、まだまだ楽じゃないの。」
「・・・。」
しばらくの間黙っていた。萌に後ろから抱かれたまま・・・。
「萌はすごいね。うらやましいよ。そう考えれる萌が・・・。」
「・・・。」
「本当にうらやましい・・・。」
(・・・そうかなぁ・・・。)
何も言わない萌は僕のこと抱いたままだ。
「萌・・・。」
「んっ・・・。何。」
「ありがとう。やっぱり、萌は僕のことよく分かってるねぇ・・・。」
「当然よ。ナガシィの幼馴染だもん。」
「・・・。」
「楽になった。」
「うん・・・。」
(・・・よかった。)




