247列車 自分が自分じゃない
2月17日。今日も僕はスーツに身を包んでいた。このスーツって本当に切るのが嫌になってくる。この服を着ている時は現実を見なければいけない・・・。今いるのは地下鉄の梅田。改札口を出たところである。
「おはよう。」
という声でだれかが僕に話しかけた。ふと顔を上げると内山だ。今日は内山、僕、今治でコスモスクエアの近くにあるインテックスに行く。目的は企業説明会だ。
「おはよう。」
「あれ。萌ちゃんは。今日来てないじゃん。」
「萌は・・・。今日誘ってないんだ。」
「・・・智ちゃんに萌ちゃんがいないって・・・。なんか変な感じだなぁ・・・。」
「・・・。」
そこはどうでもいいかぁ・・・。今治は中ふ頭に集合と言っていたから、ここから中ふ頭まで行かないといけない。なぜここに僕と内山は集合したかというと、内山自身インテックスへの行き方が分からないと言っていたからである。
中ふ頭に到着すると既に今治が待っていた。今治と落ち合い、インテックスの中に行った。今回は参加している企業も少ない。名が知れている企業はあんまりない。それほど説明会を開く余裕がないのだろうか・・・。それとももう選考にはいってる・・・。そこはいっか。正直興味ないし。寒い風が僕たちの小さくさせる。
「うう。寒い・・・。」
僕がそう言うと、
「これで寒いとか。腹立つなぁ・・・。」
内山が口を開いた。内山はいまコートを着ていない。コート着ようか・・・。
「ええ・・・。それで寒いの。」
「うん・・・。ハァ、ていうか楽な就活ってないかなぁ・・・。ここに来ると本音がこぼれる・・・。」
「ホントだね。」
ちょっとの間だけ自分たちに会話がない。
「うーん。智ちゃんってお坊ちゃまなの。」
えっ。どこからどう行ってこういう話になった・・・。
「えっ・・・。まぁ・・・、お坊ちゃまって言ったらお坊ちゃまかなぁ・・・。」
そう言ってから、
「だって、僕。地鉄の社長の息子だもん。」
「えっ。」
「そうだったんだ・・・。」
「そうだよ・・・。これ言うと大概驚くんだよなぁ。」
「えっ。そんな感じする。」
と言ったのは内山だ。
「だって智ちゃん、すごくお坊ちゃまって感じしない。すごくいいコート着てるし。」
判断基準はそこ・・・。まぁ、いいけど。
「ていうか、親地鉄の社長さんなんでしょ。それだったら就活しなくてよくない。」
「・・・そう行きたいところなんだけど、親から「自分の会社受けるな」って言われてて。だから、就活しないと鉄道会社いけない。」
「・・・ふぅん。お坊ちゃまも大変なんだねぇ・・・。」
「うん。大変なんだよ・・・。ハァ・・・。今の大変さが嫌だよ・・・。」
「ホント。今の大変さ嫌だよねぇ・・・。あたしも苦痛だよ。なんで、こんなに就活って忙しくしないといけないのかなぁ・・・。」
「このご時世だから・・・。」
「・・・。」
(ハァ・・・。)
そのあと企業説明会は引越会社と、運送業者を聞いて、帰ることにした。
今治は天王寺に出ないと返れないから、僕たちは「ニュートラム」住之江公園経由で帰った。四つ橋線の途中。大国町で今治と別れてから、僕と内山は御堂筋線に乗り換えた。
「ハァ・・・。」
今座る場所がないので、内山を相手いる場所に座らせて、僕はその近くに立った。
「ねぇ・・・。帰りたい。」
そういうと、
「帰ればいいじゃん。寂しいんでしょ。」
「うん・・・。でも、帰ったら二度と戻ってこないよ。それで、ずっと。こんな嫌なこと忘れて、どこかに行ってると思う。」
「現実逃避。現実逃避しても、現実は見なきゃいけないよ。」
「分かってるよ・・・。・・・ここ最近ストレスがたまりすぎてる。毎日プリントに書いたストレス解消法なんて、もうストレス解消法でも何でもないよ。本当に何もかも忘れて、どこかに行きたい。新庄にでも行ってこようかなぁ・・・。」
「行って来い。」
「・・・そう言うなって・・・。」
ドア近くのポールにもたれて、
「ハァ・・・。ねぇ、最近。萌が邪魔に思えてきた。」
「えっ。」
「同じ鉄道会社を目指している人だから。そのこと歓迎はするんだけど・・・。もし就職先が決まったとして、萌と一緒にいられるっていうのはないと思うんだ・・・。それがつらくて・・・。」
「智ちゃんが好きな人だもんね。」
「・・・それもある・・・。それに、僕は萌がいないと生きてけない自信があるんだ・・・。それぐらい・・・。なのに・・・。ライバルって考えると・・・。」
だんだんと視界がゆがむ。
「泣くな。男の子でしょ。」
「・・・こういう時、都合悪いね。」
「・・・都合悪いとかじゃないって・・・。それに、智ちゃん。今萌ちゃんのこと本気で邪魔って思ってる。ていうか、心のどこかで邪魔だなって思ってる。」
と聞いてきた。
「邪魔だなんて・・・。本気じゃ思ってないよ。」
「本気で思ってなくても、それはひどいよ。好きな人ならなおさらね。」
「・・・。」
「萌ちゃんにそんなこと言ったら、萌ちゃん悲しむよ。」
「・・・そうだね。」
「智ちゃん。萌ちゃんは小学校の時からなんでしょ。萌ちゃんのおかげで、自分の視界が広がったんでしょ。そういう場所を作ってくれた萌ちゃんがいるのは心強いんでしょ。支えてくれてるのに。」
「もう、やめて・・・。」
内山の言葉を遮った。
「分かってるよ。萌のおかげで、僕は他の人と話せるきっかけができた。萌がいたから、たくさんの人と話せて、楽しく過せれた。萌のおかげで、ここまで生きてこられた。萌のおかげで、僕は一人でもやってこれたんだ・・・。萌がいなかったら、もう。心が折れて、何もかも放り出して、遠の昔にどこかに行ってる。」
涙がこぼれ落ちた。
「はい。」
ふと目線を上げるとハンカチが目の前にあった。
「いいよ。」
「使いなよ。いつまでも泣いてるんじゃないぞ。」
「・・・いつまでも、泣いていたいさ。」
「・・・。」
「梅田。梅田・・・。」
自動放送が車内に流れ始めた。
「えっ。もう梅田。降りなきゃ。」
そう言いながら、内山は立ち上がった。
「・・・そうか・・・さようなら。」
「バイバイ。智ちゃん。」
ドアが開くと内山は梅田の人盛りの中に消えていった。そのあと、僕は内山が座っていた場所に座った。
「・・・。」
頭の中でずっと考えが回り続けている。僕っていったい何なのだろう。一人じゃ何もできない人が、心だけ先走って、どこかに行ってしまっている。僕は・・・。本当に何もできないのに・・・。自身もないのに・・・。こんなダメ人間なのに・・・。
(ハハハ・・・。ここまで自分のことダメ呼ばわりできるのも珍しいかなぁ・・・。)
本当に僕っていうのは何なんだろう。心の奥底で何を考えているのだろう。何で鉄道が好きに・・・。いや、何で運転士になろうと思ったのだろう・・・。ただの子供の時のあの姿にただ憧れただけだったのだろうか・・・。そもそも。どこの会社に入りたいのだろうか。鉄道会社だったらどこでもいいのだろうか・・・。こんな志のなさを僕はどう解消すればいい・・・。それとも、これはあとあとひびいていくことになるのだろうか。
自分に問う。自分はいったい、何者なのかと・・・。




