244列車 不安
ふと夜中に目が覚めた。
(今見てた夢はなんだろう・・・。)
内容はほとんど覚えていない。しかし、一番最後のことは覚えていた。それはどこかで二人で話している描写だった。それがどこなのかもわからない。しかし、萌は泣いていた。
(なんなんだ・・・。いったい何が・・・。)
次に頭の中で考えていることは変わって、JR東海のことが頭をよぎった。東海は鉄道会社を志す人ならだれでも行きたい会社だろう。将来は99.9パーセント確定している・・・。JR東海は専門学校から行く場合学内選考を通る必要がある。そこから3倍から5倍の倍率で選考が行われ、内定が決まる。僕だって狙ってはいるけど・・・。
(何の期待があるんだよ・・・。なんの自信があるんだよ・・・。)
僕はかぶっていた毛布の端を握りしめた。でも、何かが足りない。僕には1枚。僕の歳と同じ歳の毛布がある。もう破れて、毛羽のほとんどはなくなって、とても毛布とは言えないけど、それが1枚・・・。僕の・・・。萌に次ぐ宝物だ。
それを抱き寄せて、僕の手の中に・・・。そして、歯を食いしばった。
翌日。どうしても、布団の中から出たくない気持ちでいっぱいだった。
(ダメだ・・・。何をしていいのかわからない。就活ってこんなんでいいわけないのに・・・。)
ふとまたJRに入った自分の姿が頭をよぎる。
(クッ・・・。)
玄関のインターホンが鳴った。誰なのか大体の見当はついているけど、出ないと何か言われそうだから、玄関に向かって、その人を中に入れた。
「おはよう。土曜日だからって休みすぎ。」
「別にいいじゃない。休んでたって・・・。」
「でも、まだパジャマはないなぁ。」
「・・・。」
「着替えてる間は中に入らないから、着替えちゃいなよ。」
そういって、僕を部屋の中に入れてから、萌は扉を閉めた。まぁ、この間に着替えちゃおうかぁ・・・。
着替えている間に頭の中で考えたことがあった。いい加減に説明会とかも危機に行かなければ・・・。今のところ確定しているのは2月15日の京急ステーションサービスの説明会。それ以外まだ何もしていなかった。こんなんで大丈夫ははずはない・・・。大丈夫なはずがないのに、自分はどこかで自信を持っている。こんな自分が今一番嫌で仕方がなかった。
「チッ。」
舌打ちしたってどうにもならないかぁ。やっていない僕が悪いのに・・・。何かに甘えている・・・。
(ハァ・・・。)
着替え終わったから萌を中に入れた。
「改めて、おはよう。何か作るからちょっとだけ待ってて。」
「そう・・・。」
「・・・。どうしたの。こっちに来た時よりも不安そうだよ。」
「そう見えるの・・・。」
「そう見えるよ・・・。ナガシィは今不安でいっぱいでしょ。」
「・・・。」
まぁ、当たっているから別に何も言うつもりはない。
「萌・・・。」
「・・・何。」
「僕ってどうすればいいのかなぁ・・・。」
「えっ・・・。」
「・・・あっ。なんでもない。今のは忘れて。」
萌は僕によって来ると、
「ちゃんと就活をすればいいじゃない。」
「その就活が不安なんだって・・・。」
「・・・。」
「何にもしない割には・・・。」
萌は僕の口をふさいだ。何も言うなってこと・・・。
「ナガシィが不安なのは私も同じ。私だってちゃんと就職できるのか不安だよ。ナガシィは一人じゃないんだから、何か不安なことがあったら何でも言って。できることなら私は何でもする。だから、私には何も隠さずに、全部話してよ。ねっ。ナガシィ。」
最後に萌は笑って見せた。
そのあと話すことが何もできなかった。これからの不安でいっぱいだ。本当に自分はこのままでいいのだろうか。絶対に何かをやらかしそうな気がしてならない。
テスト週間が終了すると。テストを返却する週間になる。そして、この州が終わると僕たちは春休みとなる。この期間が説明会などに行く期間になる。でも、何かが怖い。本当に自分は試験を受けることができる体制になっているのだろうか。自分だけがよければいいとは言うけど、なかなかそういう気になれない。僕はいつだって、そうじゃないか。自分のことはどうでもいい。人が決めてから、自分が決まれば・・・。残り物には福があるっていうしね・・・。でも、今はそうじゃない。
テストの点数は気持ちに反して、いい点数だ。それはいいことなんだけど・・・。
「ナガシィ、何点。」
萌が横から覗き込んだ。
「・・・はい。」
「やっぱりすごいなぁ。ナガシィは95点。」
「・・・。」
「はっ。95・・・。死ね。」
の主は栗東だ。
「マジか。死んでしまえ。」
それに続けるのは近畿かぁ・・・。
「いや。死んでしまえって言われても・・・。」
死ぬに死ねないわ。
「なぁ、なぁ。ナガシィ君。マル二つあった。」
犀潟が聞く。それって遠まわしに100点かってことだよねぇ。
「マル二つって。マルはないよ。」
「なぁ。智ちゃん100点だった。」
瀬野が聞く。思うんだけど聞かれるたんびにテストの点数が上がっていかない・・・。
「100点じゃなくて95点。」
「腹立つなぁ・・・。」
「・・・アハハ・・・。」
こういうことが言えるのはいいんだけどなぁ・・・。
今日の授業はもう2時間受けてから終了する。最後の授業が英会話。成績的には一番心配な教科である。これが終わると随時解散となる。
「智ちゃん。智ちゃんって今回オールAだろ。」
「さぁね・・・。オールAであることを願いたい。」
「ナガシィはオールAだって。大体ほとんどのテスト90点台なんだから。ていうか、今回80点台のテストがなかったでしょ。」
「そういわれてみればそうな。全部の点数聞いたけど、80点台なんて聞かなかったしね。」
「・・・。」
「てことは入学式の時の表彰される人は確定だな。」
瀬野がふと言ったことにギョッとした。
「えっ。それはないでしょ。」
正直自分はそうなりたくない。なんで成績優秀で表彰されなければいけないのか。
「ないわけないだろ。大体後期は草津がインターンシップで抜けて、成績トップていうのがあり得ないんだから。」
「・・・。」
「そうねぇ・・・。美鈴ちゃんもインターンシップで出てたわけだし・・・。」
「でしょ。それに、まずあたしはあり得ない。成績で引っかかっても、出席率で引っかからないから。」
「・・・。」
「だから消去法で行くと近畿くんか、萌ちゃんか、智ちゃんってなるわけ。」
「・・・近畿が1位であってほしいなぁ・・・。」
「近畿くんだって今回Bで返ってきたテストってあったような気がしたけどなぁ・・・。」
「・・・。」
「てことは自動的に萌ちゃんか智ちゃんなわけじゃん。それで萌ちゃんが智ちゃんよりも成績優秀ってことはないじゃん。」
「・・・それはそうだけど・・・。」
萌、今の否定したかったよなぁ・・・。
「だから、」
瀬野は僕の肩に手を置いて、
「がんばれよ。表彰されて来い。」
「嫌だよ。なんで僕。」
「だから、今言った理由でおまえだろ。」
「・・・。」
「検定だって結構とったんだろ。全国手話と、日商PC検定とサービス介助士と・・・。」
「サービス接遇の準1・・・。」
「そこまでとってれば、表彰される条件90パーセントは満たしてるだろ。」
「ウソ・・・。」
ちょっと壁にもたれて、
「なんで。誰が好きで新しい1年生の前で表彰されないといけないわけ。成績がいいのはいいけど、表彰されるほど嫌なものってないよ。」
「表彰される成績をとったお前が悪い。」
(この野郎・・・。)
「もう逃げられないんだから、頑張れよ。」
「・・・。」
(そうなると僕にいろいろとプレッシャーがのしかかってくるじゃない。本当はそういうことされないでほしいんだけどなぁ。どうして、そんな風に学校はチヤホヤするのかなぁ・・・。それに僕が成績優秀だからって推薦が通るわけじゃないし・・・。)
「なぁ、もう腹くくろう。」
「・・・。」
「ハァ、もうなんでこうなるのかなぁ・・・。」
帰り道で萌にぼやいた。
「いいんじゃないの。成績優秀なのは中学の時からそうじゃない。」
「・・・。だから嫌なんだって。なんで草津が1番取ってくれないんだろうなぁ。僕は2番でいいのに。」
「・・・それ難波さんに言ったら怒られるよ、というシバカレルよ。」
「・・・。」
「そんな顔したって草津君が1位になることってもうほぼないでしょ。」
「・・・。」
(本当はナガシィが1位になりたくない理由もわかるんだけどねぇ・・・。)
「ハァ。クラス1位は嫌なんだよなぁ。クラス1位だからって言っても頭いいとは思ってないし・・・。そもそも、もしそれでJRとか大手私鉄とかに就職決まってなかったら絶対にたたかれるよねぇ・・・。」
(やっぱりそれかぁ・・・。)
「もっと気楽に就職ってできないものかなぁ・・・。」
「そこまで気楽に就職ができたら、難波さんだってあんなに精神入れて言わないつうの。」
「・・・分かってるけどさぁ。」
どうも自分じゃものすごく首を絞める種をまいていそうな気がする・・・。




