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MAIN TRAFFIC  作者: 浜北の「ひかり」
Sasago Vocational College Episode:1
241/779

241列車 いて・・・いないで・・・

 12月1日。今日は(もえ)を誘って大阪市営地下鉄(おおさかしえいちかてつ)の車両でも撮影しようと誘った。(もえ)も乗る気で難波(なんば)にデュエモのカードを買いに行こうと提案してきた。まぁ、何でなんばでカードかといったらねぇ・・・。そこはいいとして・・・。

「ナガシィ。今日は30000系動いてるかなぁ・・・。」

(もえ)が聞いてきた。

「さあなぁ。あいつは動くかどうか分かんないからなぁ・・・。」

僕はそう返した。だってそれは仕方のないことだ。御堂筋線(みどうすじせん)の30000系はまだ1本しかない。それが10系、10A系、21系との共通運用だから、運用に入るかどうかは分からない。それに、もし朝ラッシュのためだけに運用に入ったとすれば、新金岡(しんかなおか)行きで車庫に入ってしまって、日中は動かないことが確定する。

「・・・。」

今日はエンジョイエコカードというのを使って地下鉄を乗る。これは平日には800円、休日は600円で発売している。つまり、休日に乗ったほうがお得なのだ。

「ナガシィ。今日は四つ橋線(よつばしせん)中央線(ちゅうおうせん)と30000系撮ろうよ。」

「・・・。」

「ねぇ、聞いてる。」

(もえ)の顔が目の前に入って来た。

「わっ。ビックリするなぁ。」

「ねぇ、聞いてた。今のこと。」

ここで聞いてないとかって言ってもくすぐられるだけだよねぇ。でも、聞いてたって言ったって今(もえ)がなんて言ってたかわかんないから結局くすぐられることになるかぁ・・・。僕の選択肢はどっちを選んでも最終的には一つしかないってこと・・・。

「・・・。」

「聞いてなかったでしょ。」

「・・・ごめん。」

「はぁ。どうしちゃったの。12月に入って本当に始まったのか実感がないね。就活。」

「・・・そうだな・・・。」

本当はこうじゃいけないんだと思うけど・・・。

 梅田(うめだ)に到着すると江坂(えさか)から乗ってきた10A系1123Fから下車。なぜ、緑地公園(りょくちこうえん)からではないかというと、江坂(えさか)で会社が変わってしまうからだ。このエンジョイエコカードは大阪市営地下鉄(おおさかしえいちかてつ)の管内でしか使うことができない。江坂(えさか)から千里中央(せんりちゅうおう)までの間と長田(ながた)から学研奈良登美ヶ丘(がっけんならとみがおか)の間はそれぞれ会社が北大阪急行(きたおおさかきゅうこう)近畿日本鉄道(きんてつ)と変わってしまうので、使うことができないからだ。

「ドアが閉まります。駆け込み乗車は大変危険です。おやめください。次の電車をご利用ください。」

駅員がこういうアナウンスをしても無理して乗り込もうとする人がいるようだ。一度閉まるドアが開いた。そして、また閉まる。

「ファァァ・・・。フォォォォォォン。」

10A系は少し前の話でも触れたが、警笛音が少しだけ低い。それを実物で確認した。この10A系が発車して、完全に淀屋橋(よどやばし)方面に車体が消えてから、僕たちは歩き出した。

 梅田(うめだ)の改札から出て、地下でつながっている四つ橋線(よつばしせん)の起点である西梅田(にしうめだ)駅に向かう。西梅田(にしうめだ)のホームには御堂筋線(みどうすじせん)でよく見る21系と同じ顔で青いラインの入っている23系が旅客扱いをしていた。これに乗り込んで、ほぼ中間の大国町(だいこくちょう)で下車。その間に更新済みの23系とは会ったので、この駅で待つことにした。

「ナガシィ・・・。」

「えっ。」

何か今日はいつもより抜けている気がするなぁ・・・。

四つ橋線(よつばしせん)って更新車一つだけだったっけ。」

「そうだよ。」

「じゃあ、あれしかないのかぁ・・・。」

(もえ)はなんば方面を見て、そうつぶやいた。

 大国町(だいこくちょう)御堂筋線(みどうすじせん)の列車が来てから四つ橋線(よつばしせん)の列車が入ることが多い。その時はほとんどの列車が一堂に会することが多く、地下であるため音がこもり、とてもうるさくなる。

 今日はなぜかお互いに会話が少ない。なんでだろう・・・。でも、12月今日から就活が始まるわけかぁ。なんか就活らしいことを一つもやっていないのだけど・・・。これから本当に(もえ)が敵になるわけかぁ・・・。本当実感がないなぁ・・・。

「間もなく2番線に、花園町(はなぞのちょう)住之江公園(すみのえこうえん)方面行きの電車が参ります。」

ホームにアナウンスが流れた。

「これだよねぇ。」

「えっ。うん。」

もうすでにライトが光っており、いつでもホームの明かりが照らす中に入ろうとしてきている。そして、青いラインの入った23系23601Fが姿を現した。四つ橋線(よつばしせん)で唯一30000系に準じた改造を受けている編成である。車両は貞一に止まり、ドアを開ける。僕たちは短い間に列車の先頭を撮り、その次に車体の側面についている1号車を現す表示を撮った。そして、乗り込み2号車の1号車よりの席に腰掛けた。ここはちょうど台車の上。モーターの上だ。

「フュゥゥゥゥ。ヒィィィィィィィィィィィ。」

更新車はほかの車両と違いGTO素子ではなくIGBT素子を利用している。なので、独特の太い音ではない。走り出してからはずっと高い音が床下から聞こえてきた。

「次は、花園町(はなぞのちょう)花園町(はなぞのちょう)Next(ネクスト) stop(ストップ) is(イズ) Hanazonocho(はなぞのちょう).Station(ステーション) number(ナンバー) Y17(ワイセブンティン).」

次の駅の案内が日本語と英語で入る。

「・・・。」

ポタ・・・。涙がこぼれ落ちた。(もえ)に見られてはいけないと思い(もえ)に見られないよう連結部のほうを見た。

(なんでだよ・・・。)

自分がなんで今涙がこぼれたのか・・・。

(なんでだよ。(もえ)だって俺の敵じゃないか・・・。それなのに・・・。俺はいったい何考えてるんだよ・・・。いつも隣にいてくれて・・・。いじって来るけど、いると楽しいのに・・・。それが・・・。離れることを考えたら・・・。もう、中学の時みたいなことにはなりたくない。でも・・・。(もえ)が俺の隣からいなくなることを考えると・・・。ダメ。成長しなきゃ。就活なんて(もえ)と同じ会社につける保証なんてどこにもない・・・。むしろ、そうなる方が珍しい・・・。俺は・・・。)

右手が自然と僕の顔を覆っていた。

(矛盾してるじゃないか・・・。(もえ)が隣にいてくれるだけでもいい・・・。就職したら、そんな甘ったれたことなんて言ってられないのに・・・。なんでだよ・・・。)

「・・・。」

この姿も(もえ)に見られているってことは分かってるのに・・・。

「ナガシィ・・・。」

(もえ)は声を掛けてきたけど、それだけだった。そこから先のことは何も言わなかった。(もえ)には見られたくないなら、こんなところで泣くんじゃない・・・。そう自分に言い聞かせて・・・。

(ハハ・・・。心の中じゃあ分かってるつもりだったのに・・・。全然わかってないや・・・。)

自分が本当に弱い人間なんだなぁ・・・。このときほど実感したこと。今までないよなぁ・・・。

 そんな気持ちのまま住之江公園(すみのえこうえん)に着いた。

「ナガシィ・・・。どうしたの。」

「・・・なんでもないよ。」

すぐにそう否定した。自分の中ではあれは将来のために・・・。すべてしまい込むことにした。いつまでも(もえ)に依存してちゃダメだ。

(ウソよねえ・・・。ナガシィ。さっき泣いてたもんね。何か寂しいことでも想像したのかなぁ・・・。やっぱりそれって・・・。)

(何言ったって分かっちゃうよねぇ。)

(もえ)は僕の心の中でも読んでいるのかなぁ。

 それから中央線(ちゅうおうせん)の24系と近鉄(きんてつ)7000系を撮影して、難波(なんば)に向かい、カードショップでカードをあさった。僕は(もえ)のそれに付き合っていただけだけど、なぜか(もえ)の後姿が遠い気がする。何・・・。僕はここでもついに(もえ)に後れを取ったわけ・・・。なんて考えちゃったけど・・・。戻るときは北大阪急行(きたおおさかきゅうこう)の8000系の8003F。この編成も更新車でVVVFがIGBTに変更されたり、ヘッドライトが変更されたりと結構小さい部分の更新がなされている。それに乗って、エンジョイエコカードの圏内の端である江坂(えさか)で下車。そこで80円の切符を買い、その先の緑地公園(りょくちこうえん)に向かう。その時にあたった車両はちょうど30000系。それに乗って緑地公園(りょくちこうえん)に戻り、その30000系が千里中央(せんりちゅうおう)に行って戻ってくるのを緑地公園(りょくちこうえん)のホームで少しだけ待って、家に帰った。

「・・・。」

家に帰ると僕はベッドの上で天井を見つめていた。何かすることが見つからないような気がして・・・。

「・・・。」

僕はこのときこういうことを考えていた。

 僕は(もえ)に会うまでクラスの人とほとんど話したことはなかった。クラスの人からは物静かな人だろうって思われていたのかなぁ・・・。(もえ)のおかげで、磯部(いそべ)端岡(はしおか)二ノ橋(にのはし)金剛(こんごう)宿毛(すくも)・・・。いろんな人と会って、話せて、触れあえて・・・。僕はどこまで(もえ)に助けられてる・・・。今度は僕が自立しなきゃいけない番じゃないの・・・。でも、僕には(もえ)の存在が大きすぎる・・・。敵なんて言ったって、自分さえよければいいなんて言ったって・・・。

「僕は・・・。僕は甘いの・・・。」

自分に問う。寝返りをうって、うつ伏せになる。

(僕は・・・。いつの間にか(もえ)なしじゃいれなくなってるの・・・。)

なにも答えが見つからない。

(矛盾してるじゃないか・・・。本当に・・・。(もえ)のおかげで今の僕があるわけじゃない・・・。就活じゃあいてほしくないって思っても・・・。)

「フッ・・・。」

ポタ・・・。ポタ・・・。


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