240列車 オチャメ
11月19日。スーツで登校する月曜日である。今は2限目の授業で、数学などそういうことの関係ない試験問題の対策授業である。しかし、多少計算が絡んだりするということもあるため、今は数学の問題をしている。数学っていうよりは算数かなぁ・・・。
問題を解いていると横からつつかれた。
「何。」
つついたのは一つ置いた隣に座っている萌だ。
「ねぇ、ここの4番どうなった。」
「えっ。」
萌が持っているピンクのグリップのシャープペンは塩分濃度の問題の4番を指していた。
「ああ。そこ。まだ、解いてる途中なんだ。」
正直に言った。これ途中まではも止まっているのだけど、その先になかなかいけないのだ。
「えっ。そうなの・・・。ねぇ、草津。」
と萌が草津の背中をつついて、それに反応した草津が後ろを向く。
「4番の問題って答えどうなった。」
「えっ。150だけど・・・。」
「150.」
「うん。」
「どうやったら150になるの。」
「えーと。まずだなぁ・・・。」
ここから草津の教えが始まった。
「この問題は塩分濃度の6パーセントの食塩水と10パーセントの食塩水を足したら、8.5パーセントの食塩水ができたってことだろ。で、その8.5パーセントの食塩水は400グラムってこと。で、この食塩水を作るときに6パーセントの塩分濃度の食塩水が何グラム必要かっていうこと言いたいんだよな。問題の意味は分かるよなぁ。」
草津はちょっと心配になったのかそう言った。
「うん。それは分かるよ。で、どう計算すればいい。」
「まず、この文章を図にしてみろよ。」
「うん。」
「まず、求めたいのは6パーセントの食塩水。だから、食塩水の量がxになるのは分かるよなぁ。それで、6パーセントの食塩水の量xグラムと10パーセントの食塩水を足したら、400になるってこともオーケイだろ。」
「うん。」
「じゃあ、10パーセントの濃度の食塩水は何グラムあるんだ。」
「えっ・・・。」
シャープペンを頭の位置に持っていってから考え始める。
「・・・。」
「そんなに出てこないかなぁ・・・。」
「うるさいなぁ。ナガシィちょっと黙ってよ。」
「・・・。」
「あっ。400グラムからxグラム引けばいいんだ。」
「そういうこと。だから、400-xグラムだよな。これで、食塩水の量が分かったよなぁ。じゃあ、これを踏まえて、食塩水の中に溶けている食塩の量を考えてみろ。この式を使ってな。」
草津はプリントの一番上に書いてある、問題の解き方のヒントを指した。
「えっ。ああ。えーと、6パーセントのほうは100分6でいいのか。で、10パーセントは100分の10なんだ。」
「じゃあ、8.5パーセントは。」
「えっ。100分の8.5でしょ。」
「・・・まぁ、それでもいいけど、それだと分数に小数点があるからややこしいよなぁ。だったら分母も分子も10倍して・・・。」
「1000分の85。」
「にするのがいいよなぁ。」
「あとこの式を使えば、食塩の量は食塩水の量と濃度を掛けたやつで出てくるっていうことがわかるから、今度は400グラムある食塩水の中にどれだけの食塩があるか求めてみろよ。」
僕は草津たちのこのやり取りを聞いて、始めてこの問題を解くことができた。いやぁ。つくづく僕がバカだねぇということがわかるなぁ・・・。さて、次の問題は全部解いてしまっているから、これは萌に教えられるぞ。ってね。
草津は萌に教え終るとまた前を向いて自分の問題を解こうとしたが、今度は僕の前に座っている瀬野に声を掛けられて、そちらに顔を向けていた。
「ねぇ、ナガシィ。5番はどうなった。」
5番はさっきの4番の問題の一個下。今度は4パーセントの食塩水250グラムに6グラムの食塩を溶かすと何パーセントの食塩ができるかということである。
「5番。16パーセントになったけど。」
「えっ。6.25パーセントじゃなくて。」
「えっ・・・。えっ。小数点あるの。」
「えっ。そもそもなんで16パーセントになったわけ。」
「16パー。」
話を聞いていた瀬野がこちらを向いた。
「いや、そうならないって。6.25になるよ。草津に聞いたんだもん。」
「ウソ。マジ・・・。えっ、どこどう間違えたんだろう。」
「・・・。」
あれ。途中まではあってるぞ。なんで答えが違う。どこかで計算ミスしたかなぁ・・・。いや、でも、16イコール256×100分のxを計算すると16って出てきたわけだし、間違ってないよなぁ・・・。もし間違ってるんだったら、もっと変な数が出てくるよなぁ・・・。あれ・・・。どうしてだろう。
「ねえ、ちょっと計算方法見して。」
「えっ。ちょっと待って、どこどう間違えたの。」
その間萌は僕の計算方法を除いていた。
「・・・。」
(別に間違ってないように見えるけど・・・あっ。16と256の数字の位置が・・・。ナガシィって本当にバカなんだから。そんな数で計算したら、絶対に答えにたどり着かないって。)
「ナガシィ。そこのさぁ・・・。」
「まだ言わないで。自分で解かないと力にならないじゃん。」
「・・・。」
はいはい。
「えーと・・・。えーと・・・。」
何度も考えているけど、どうすれば6.25っていう数になる・・・。自分にはどうしても16になってしまう。あれ。どこどう計算間違えた。ちゃんと割り切れる数字だったから、これが正解だと思ったんだけどなぁ・・・。えっ。どこ・・・。どこ間違えたの。ひたすら問題を見ているけど、どこを間違えたのかが分かんない。
計算をして、応えにたどり着くとやっぱり16。あれ。16違うのになんで16って出てくるの。
「やっぱり16だよ。」
「いや、いや、いや、いや。16になったら何も言わないって。どうして、智ちゃん計算すると16になるかなぁ・・・。」
「だって16になるのは16になるんでしょ。」
「そもそも、智ちゃんどういう計算したわけ。」
「えっこういう計算。」
と言って、計算方法を瀬野と草津のほうに向けた。
「あっ・・・。」
(こういう解き方してるからかぁ・・・。)
(・・・何。この間違い方。)
「間違ってないよねぇ。解き方。」
「いや、いや、いや、いや。何を持って間違ってないって言ってるんだよ。確かに、途中まではあってるよ。」
草津はあえて間違っている個所を隠すような言い方をした。
「智ちゃん。この計算正直しんどくなかった。」
「えっ。この計算って。」
「この最後の256÷16。」
「ううん。別に。」
「ていうかさぁ、これ、どうやったらそうなったんだよ。」
「えっ。ふつうにそうなるよねぇ。」
「・・・。」
「智ちゃん。100分の256xイコール16の計算だろ。それで100を払うために、256xイコール1600ってなるのまではオーケイじゃん。なんでここで割る数と割られる数が逆になってるわけ。」
「えっ。」
目が点になるような答えが返ってきた。えっ。自分そんなところで間違えてた。
「あっ。なんだ。そこで間違えてたのかぁ。」
「今までその間違い気付いてなかったの。」
「全然気が付かなかった。」
「オチャメか。」
「ああ。ようやっとスッキリした。」
はっきり自分でも間違った場所が分かっていなかったというのはちょっと恥ずかしかったけど・・・。でも、まさか、そんなところで間違えてるなんてね。思ってもみなかった。
今日今更ながら分かったことは、僕はバカだってこと。




