239列車 見せたくて
11月14日。僕たちは東京にいた。
「うわぁ。相変わらず気持ち悪いなぁ・・・。」
萌が一言E5系を見ていった。E2系の鼻を長くしただけのような恰好をしているE5系はほかの新幹線とは違いすぎて目立つ。まぁ、まとっている色によって目立つということもあるのだけど・・・。
「これに乗らなきゃいけないの。」
「しょうがないじゃん。でも、帰りはE2系だからね。」
「もし、運用変更でE2系じゃなかったらどうするの。」
「・・・いや、そもそも運用変更でもE2系からE5系に変わることはないと思うけど・・・。」
E5系の先頭を携帯カメラに収めてから、僕たちは乗る号車である6号車に向かった。このE5系は「はやぶさ」ではなく、「はやて」。E3系「こまち」を連結した16両編成で、前寄りの6両。16号車から11号車が「こまち」。10号車から1号車が「はやて」である。
僕たちは6号車14番A席とB席。業界用語でいえば「アメリカ」と「ボストン」だ。「はやて」の中はスーツ姿のサラリーマンでいっぱいになった。大概は仙台までで、そのほとんどが仙台で降りた。この先盛岡や八戸、新青森まで行く旅客はそれほど多くないようだ。
盛岡に到着する直前。僕たちは席を立った。目的は当然「あれ」である。
「ねぇ、ナガシィは「つばさ」の連結解放は見たことあるんだよねぇ。」
萌が僕の後ろから聞いた。今ここは9号車のドアである。10号車の先のドアまで来たいところだけどドアの部分に「グランクラスご利用の方以外の入室はご遠慮ください」と書いてあったので、そこまではいかないことにしよう。
「あるよ。ていうか、萌は東北新幹線乗るの初めてなんだよねぇ。」
「ナガシィだって初めてじゃん。」
「・・・。」
ふと外を見ると「はやて」は一番西側の線路を走っていた。ここに入って、「こまち」を先に行かせて、後で「はやて」が新青森に向かう。ATCに従ってゆっくり走り、盛岡に定時着。
「ドアが開きます。」
これはJR東日本の特急車両のよくあることだ。ドアが開く前に一度電子の声がそう言う。ドアが内側に押されたかと思うと横にスライドして、ドアが開いた。早速僕たちは10号車と11号車が連結している部分に行った。
「えっ。信号・・・。」
萌がまずそう声をあげた。
「ああ。あれか。ここからATCじゃないからな。福島にもあったよ。」
「あっ。そうか・・・。」
萌は納得したようだった。
「14番線、停車中の列車は11時24分発。「こまち19号」、秋田行きです。「こまち号」は前より11号車から16号車です。お乗り間違いのないようご注意ください。「こまち号」間もなくの発車です。ご利用のお客様、ご乗車になってお待ちください。」
駅のアナウンスが流れる。多分もうE3系とE5系は電気的にはつながっていないはずだ。後は「こまち19号」が発車するだけで、分かれることになる。
「14番線から、「こまち19号」、秋田行きが、発車します。」
「「こまち19号」秋田行き発車いたします。ドアが閉まります。ご注意ください。」
甲高い電子音がして、E3系の白い車体に赤く光っていたランプが消える。ドアが閉まったのだ。
「キィィィィィィィィィィ。」
E3系側からインバーターの音がし始める。すると連結が外れて、E3系は6両単独で、盛岡を出発していった。僕たちはその時色違いの携帯電話をE3系に向けていた。そう。「あれ」を撮影するためだ。
走り出して数秒経つとそれまで開いていた大きな口が閉まり始める。E3系は走りながら大きな口を閉めて、盛岡を発っていった。これと当時にE5系の大きく開いた口もふさがるのだが、見ることはできない。それは、E3系に集中しているからだ。撮れた写真はE3系1000番台の「つばさ」を撮った時と同じぐらいのタイミングだった。連結器が閉まる蓋にちょっとだけ顔をのぞかせている写真だった。もっと蓋がスムーズに閉まるようになっているとこのタイミングは結構難しいだろう。
さて、E5系の車内に戻って、この先に行く。「はやて19号」はこの先各駅停車になる。発車してすぐにIGRの電車が盛岡に向かって走って行くのを見た。
眠りそうになりながら、12時33分。終点の新青森に到着した。
「寒っ。」
萌が自分からすればカワイイ声をあげた。ホームドアがある新青森のホームはホームドアがある分狭く感じる。また萌を連れて10号車に行き、ヘッドライトをつけているE5系の写真を撮った。そう言えば、東京で撮ったE5系は携帯の中に全体を収めるだけでも苦労した。鼻が長すぎるんだよ・・・。
「ふぅ・・・。ヒャッ。」
一息つくと冷たい手がほっぺたに襲ってきた。
「ナガシィあったかい。」
萌はそう言いながら、冷たい手を僕の首元までなでながら、下げてくる。
「冷たいから離して。」
「ねぇ、次のるE2系って何かなぁ・・・。」
萌の問いに僕は一番西側のホームに止まっているE2系を見た。あれの可能性が高い。
「ちょっと待ってて。」
そう言って萌の冷たい手から離れようとしたけど、そうはさせてくれないんだ・・・。確認すると13時42分発の「はやて28号」だった。ここから確認できることは窓が2列単位になっているのでE2系1000番台だということだけ。それ以外は何もわからない。そのあと編成番号を見たがJ68となっていた。E2系は行先表示が東京となっていて、いつでも東京に向けて発車できる準備が整っているが、ホームドアは閉まったままだし、客室用扉もすべて閉まっているから、まだ旅客扱いはしてないみたいだ。
「時間あるから、どこか行こうか。」
萌を促して、外に出た。切符は無効印を押してもらい、取っておくことにする。
外に出てみるとこれが新幹線のある駅かと思うぐらい何もない駅だった。遠くにショッピングモール的なものは見えるのだけど、そこまで行かないと無いのかと思う。さすがに地震とか結構いろいろあったからかなぁ・・・。
結局新青森に合ったお土産屋さんとかが密集しているところにあったお店でお寿司を買って食べ、789系を道から見上げる形で撮り、13時20分に入線した「リゾートしらかみ1号」のHB-E300系を撮り、新青森のホームに上がった。ホームにはE2系以外3本列車が止まっていたが、そのすべてがE5系。鼻の長い奴がいっぱい止まっていた。
13時42分発の「はやて28号」は盛岡~新青森間は八戸しか停車しない。盛岡に到着すると「はやて28号」は「こまち28号」を従えて、東京に向かう。その連結作業を見るために再び盛岡で降りた。しかも、今度は乗った号車が2号車だったので、見に行くには最悪に等しかった。
14時38分。連結する相手である「こまち28号」が入線。大きい口をガバッと開けているその顔を撮影して、8号車から乗り込み、2号車の指定席に向かった。席に着くと萌が口を開いた。
「今日はありがとう。」
「えっ。」
「もうちょっとでE3系もなくなっちゃうじゃん。それに「はやて」にも乗せてくれて。ありがとうってこと。」
「・・・。別に。」
僕はそういうと流れていく外を見た。
「ねぇ。今度は秋田新幹線に乗ろうよ。」
「・・・これで結構お金使っちゃったから、すぐは無理。」
「分かってるって。またいつか。」
「・・・。」
「はぁ。楽しかったよ。「こまち」の連結解放も見れたことだし・・・。」
「見せたかったの。」
「んっ。」
聞こえなかったのかなぁ・・・。
「見せたかったんだって。萌にも。」
何か身体がほてっているのは気のせいだろうか。
「だって、鉄研に入ってから、ここに萌もいたらなぁって思うことがよく会ってさぁ。博多行った時に「レールスター」に乗った時も、青森行くのに「はくつる」に乗った時も、富山行った帰りに「はくたか」に乗った時も。毎回萌も連れてきたかったなぁって思うことがあってさぁ・・・。なんか僕ばっかりずるいような気がして・・・。」
「えっ。それで暇なら行こうって言ってくれたわけ。」
「・・・。」
ちょっとの間沈黙があっただろう。すると萌はクスッと笑った。
「えっ。」
「らしいな。」
萌は一言そういっただけだった。
「ありがとう。今日は本当に楽しかったから。だから・・・。」
「・・・ちょっ。だから冷たいってばぁ。」
何。僕って結局萌にはいじられる立場なわけ・・・。
東京到着すると「はやて」の切符に無効印を押してもらい、東海道新幹線に乗り換える。ここからは「のぞみ」で一気に大阪まで帰る。
「・・・ナガシィ。」
萌が僕の肩をつかんで呼び止めた。
「何。」
「何編成。」
萌は8号車よりについている7号車の車番を見せて、僕にそう問いてきた。車番は787-3002となっていた。N700系3000番台はJR西日本の持ち物。その証拠に787の左隣にあるJRマークは青くなっている。
「N編成じゃん。」
「今度どこに乗るわけ。」
「えーと。4号車の10番「デンマーク」と「イングランド」。」
今出てきたのも業界用語。「デンマーク」はD席。「イングランド」はE席のことである。今までC席のことが出てきていないがC席は「チャイナ」だ。
「早く行こう。」
「・・・分かってるって。」
萌は僕の手を握り、僕を引っ張る形で4号車まで連れて行った。今日はご機嫌なのか不機嫌なのか・・・。ちょっとわからなかった。でも、ご機嫌だろう・・・。
(この手はいつまで握れるのかなぁ・・・。)




