237列車 シュール
加茂から発車するキハ120系ディーゼルカー1両の列車はお客さんでいっぱいだった。僕たちは進行方向前寄りで固まるしか無かった。進行方向後ろよりに配置されているクロスシートの近くにはたくさんの乗客が集中しており、とてもじゃないが、車内を満足に移動できるスペースはない。
「まぁ、智ちゃん。発車したら、寄りかかっていい。」
栗東がそう聞いてきた。
「なんで。こいつはそんなに加速よくないから、寄りかからなくても大して変わらないよ。」
僕はここに乗車したときのことを言った。キハ120はそんなに加速が良くなかった。ゆっくりゆっくりと走りだして、ゆっくりゆっくりと道中をゆく。
「いやぁな。分からないじゃん。発車と同時に3Gぐらいかかるかもしれないじゃん。」
「どんな重力がかかってるんだよ。ていうか、どういう加速をしてるんだよ。」
10時39分。加茂発車。電車なら発車と同時に後ろのほうへ倒される。これは電車の加速能力がいいことを言っている。キハ120も進行方向後ろ側の足に体重がかかってくるのだが、電車ほどではない。
「遅い。こんな加速・・・。面白くないなぁ・・・。」
「気動車だからなぁ。仕方ないって言えば仕方ない。」
草津がそう言った。
次の駅は笠置。この駅でクロスシートに方で固まっていた乗客が全員降りた。ここまでの団体客だったらしい。さて、ようやっと後ろへ移動できるようになったため、女性陣はちょうどあいたクロスシートに。男性陣は前のほうにあるロングシートに。座らない人はクロスシートの近くか運転台の近くで立っていた。しかし、立っていた男性陣も僕と萌も伊賀上野に着いた時には席に腰掛けた。僕と萌は栗東が座っていたクロスシートが開いたので、そこに。女性陣が座っていた近くでずっと立っていた内山は僕たちが座ったクロスシートに腰掛けた。
「なんかすごい田舎に来ちゃったなぁ・・・。」
と内山が一言。
「浜松のほうもこんな感じ。」
「浜松は町中はにぎわってるよ。でも、浜松市って縦に長いから、山の中に行っちゃうとこんなところもあるね。」
今周りには田んぼが多く広がっている。
「へぇ。」
「まぁ、そこはあんまり驚かないけどさぁ。問題はここも大阪の大都市近郊区間の内ってところだよなぁ・・・。こんなところ普通ならそうならないのに・・・。」
「そうだな。ふつうならそうならないね。」
気が付くと高槻が近くにいた。
「でも、栗東。今まで通ってきた駅って、全部1両の気動車が停車する割には大きすぎたと思わない。」
「そうだな・・・。ほとんどの駅が入れ替えできるようになってたしなぁ。・・・てことは昔はもっと列車多かった・・・。」
「いや。ここは昔から旅客はすたれてたよ。でも、貨物列車とか奈良に行く急行とかがひっきりなしに走ってたからなぁ。それで全部の駅が待避可能ってだけ。そして、そういうことがあったから大都市近郊区間になってるんじゃないのか。」
高槻の見解であった。
柘植に到着すると加茂から乗ってきたキハ120系300番台から下車。亀山からきているキハ120系0番台の到着を待って、発車していった。ここでしばらく時間があったので、昼ご飯を食べる人がほとんどであった。次に乗る草津線の列車は113系の抹茶色の地域色。昼ご飯を食べ終わった人から、だんだんとその列車を眺めるようになっていった。
「おっ。これうちのところと同じようだなぁ・・・。」
「何が。」
瀬野の言葉に蓬莱が反応する。
「これさぁ。ここを押すとドアが開くんだよ。」
「へぇ。」
その言葉で試にと言うことだろう。蓬莱はそのボタンを押した。するとさっきと同じようにドアが開いた。
「閉めるときはどうすればいいの。」
と蓬莱は言いながら、外側についているドア横のボタンを押していた。
「閉めるボタンが内側にしかないから、閉める押して、すぐに出る。」
「へぇ。面白い。」
「・・・面白いねぇ。」
「アハハ。実習室にある模型のドアみたいに遊んでるよ。」
「まぁ、面白いことには変わりないじゃん。」
「お前らまで遊んでるなよ。」
草津線に乗って草津までやってくると栗東が話しかけてきた。
「智ちゃん。さっきさぁ、怪しい建物見つけたんだけど。」
「怪しい建物・・・。」
聞き返した。いったい何を見つけたというのだろうか。ていうか、草津線沿線にそんな建物あったか・・・。
「3つほど見つけたなぁ。一つがホテル太陽っていうのでな。建物の上になんか変な銅像みたいなのが立ってて、恰好がどうだったかなぁ・・・。」
「アメリカの自由の女神みたいな格好してた。」
それに内山が付け加えた。
「ホントに面白くてさぁ。笑っちゃった。」
「はぁ・・・。」
全然面白さが通じてこないのだけど・・・。他にももうひとつ面白いホテルとかを見つけたらしい。それは名前が少しばかり怪しいかったらしい・・・。
この先は新快速に乗車だ。新快速で近江塩津まで行く。13時20分発の新快速近江塩津行きは225系4両と223系4両の8両編成であった。僕たちが乗ったのは225系のほう。と言うわけで、僕の初めての225系0番台の乗車経験となった。225系は静かに安定して走り続けるのだけど、僕にとっては223系の電動車のようにもうちょっとモーター音が聞こえてもいいのではないかと思っていた。14時35分。終点の近江塩津に到着した。
女性陣はそのホームにあっけにとられていた。
「何このホーム狭ッ。」
「そして、長ッ。」
「これだけホームが長いとこんなに長い列車も来るってことじゃないの。」
「来ないよ。」
それには木ノ本が答えていた。
「えっ。こないのにこんなに長いの。無駄じゃん。」
「・・・。」
さて、すぐに湖西線経由の新快速網干行きが入って来た。ここで223系1000番台。これのV編成は5編成しかないので、225系のY編成にあたるのと同じぐらい難しいことだ。乗り込んだのは2号車(モハ223形)である。この車両の進行方向後ろよりの補助席に掛けようと補助席を出したとき、
「んっ。なんだこれ。」
黒いものが一緒に出てきた。形からして・・・。それはすぐに車掌に届け出た。それは財布で1万円以上の金銭と免許証。さらにはゆうちょのキャッシュカードまで入っているというありさまであった。うーん。見つけたのが僕でよかったのかなぁ・・・。まぁ、免許証が入っているということは持ち主が向こうから現れるのは時間の問題。そもそも。名乗り出なかったとしても、自分のものにする気はなかった。
(本当にあるんだなぁ・・・。今週の授業で聞いたばっかりだよ・・・。)
と思いながら、4号車(クモハ223形)から2号車(モハ222形)に戻った。ああいう落し物はお客様が長時間座っているとき、ズボンの後ろポケットにものを入れているという感覚がだんだんと薄れてくるから、そうなるということらしい。だとすれば、あの財布の持ち主も長時間補助席に座っていて、後ろポケットに財布を入れているという感覚がなくなって来たってことだろう・・・。でも、財布が見つかって正直びっくりした。
近江今津で前寄りに8両編成を増結。これで姫路か終点の網干まで12両編成のまま走って行く。前に連結する車両はテールライトの漢字から車両が判断できたため、ホームに入る前に2号車に戻った。前に連結された車両は223系2000番台であった。まぁ、225系だと発車の時の振動がこっちにやってくるわけだ。223系同士ならそれがないから相性のいい編成だ。
湖西線を南下して、京都。次が高槻だ。高槻に停車すると僕たちの乗る10号車(モハ222形)は階段のある場所の下のスペースが一番近い場所に停車する。そこにも面白い光景が待っていた。
「智ちゃん。こっち見てみい。」
栗東がそう言うので、ホームを見てみた。するとそこは雨どいのようなパイプが走っている場所だった。2本パイプが走っていて、そのパイプの間にお菓子の「ポテトチップ」の筒が見事に直立してはまっていた。
「スゲェなぁ・・・。何このシュールな光景。」
「はめた人すごいなぁ。これであれだよ。全員ポテト食べたらここにはめてくんだろうぜ。」
「それはそれで嫌だなぁ・・・。」
高槻を発車して、大阪。ここに到着すると終点が近づいてきたことを実感する。大阪を一度通り過ぎて、尼崎に到着。後はJR東西線で大阪城北詰に行けばいい。尼崎に到着した新快速を下車し、JR東西線・学研都市線直通の207系0番台の編成に乗車する。後はこれで大阪城北詰まで揺られていればいいだけである。
16時56分。すべてが終了した。これで120円の一筆書きも終了である。一筆書きが終了したことを難波さんに報告して、後は順次解散である。女性陣とは大阪城北詰駅で別れ、僕たちは梅田駅まで一緒に行動した。梅田に着いた僕たちは流れ解散で僕たちはしばらく梅田のホームにいた。立て続けにやってくる御堂筋線の10系(抵抗制御方式)、10A系(IGBT素子VVVFインバーター制御)、21系(GTO素子VVVFインバーター制御)、北大阪急行8000系。いっこうに30000系だけが姿を現すことはなかった。今日は動いてないのかもしれない・・・。結局千里中央行きの北大阪急行8000系第4編成に乗って緑地公園まで戻った。
10月29日。
「えーと。永島君の出席状況なら・・・。」
今は個人面談中である。これで内定を撮った時どちらに比重を置くかなどの話を聞いているのである。
「はい。今の状態だったら十分東海に推薦できます。」
「・・・。」
(萌は・・・。あいつはどうだったんだろう・・・。)
頭の中をよぎる。
面談が終了するとスーツ姿の僕は学校を後にした。日が短くなっているせいであたりは暗くなっている。
「慢心するなってことだよね。」
僕は言い聞かせるようにして、学校を背に歩いていった。




