234列車 掴ませて
10月13日土曜日。今日は学校に駆り出されている。瀬戸学院の学祭なのだ。
「はぁ。なんでこんな格好しなきゃいけないわけ・・・。」
黒崎は自分がさせられている駅員の制服コスプレを見てため息をついた。
「善知鳥先輩なんだし仕方ないんじゃないの。まぁ、メイド服よりはましに思わなきゃ。」
「いやだよ。もう。あたしはこんなの着てるところ見られたくないんだからね。」
「ふぅん。彼氏に。」
「なっ・・・。」
まぁ、当たってるから反論のしようがないのだが・・・。
「脱いでもいいけど、脱いだら、脱いだで善知鳥先輩何してくるか分かんないからなぁ。善知鳥先輩って胸が小さいこと結構気にしてるみたいだし・・・。まぁ、梓は脱いでも何も言われないと思うけどねぇ・・・。」
「何よ。遠まわしに・・・。」
まで言ったところで、言うのをやめた。なんか思いっ切り言いそうになったからだ。
黒崎たちは高校の展示できている人たちのところまで行った。
「おはよう。みんな頑張ってるなぁ・・・。」
永原がそう声を掛ける。
「おはようございます。永原先輩。」
「おはよう。」
永原は目線を模型の位置にまで落として、今走っている車両を見つめた。分かるわけじゃないだろうに・・・。
「これなんて言う電車なの。」
「それは電車じゃあありませんよ。」
どこからか否定の声が聞こえた。それを言ったのは大湊だった。
「それは電車じゃなくてディーゼルカーです。まだ北海道とか西日本じゃ、まだふつうに走ってますよ。キハ40ぐらい。」
キハ40っていう形式は初めて聞くものだし、黒崎が見ても全く見たことのない顔をしているのだ。これが北海道を走っていたりするのなら、見たことがないのは分かる。
「こんなに古いのまだ走ってるの。」
「あんまりJRが儲かってるなんて思わないほうがいいですよ。まぁ、儲かっているJRはもうかってますけど、JR西日本とJR北海道はそんなに経営よくないんですから。特にJR西日本は魔改造をよくしてますよ。」
「マカイゾウ・・・。」
「はい。元の車両の原形をほとんどとどめずにする改造のこと。魔改造っていうんですよ。」
「まぁ、JR西日本は魔改造のエキスパートだからなぁ。末期色と言い113系3800番台といい。よくあんなにしたよなぁ・・・。」
「・・・。」
目が点になりながら、大湊の言うことを聞いていた。いろいろと分からない単語が飛び交う。魔改造という言葉は今大湊から解説があって何とか理解することができたけど、マッキイロとかサンパチクンとか。それはいったい何。マッキイロって黄色のことだよねぇ。でも、サンパチクンは何。電車って「くん」とか「ちゃん」付で呼ぶものなのか・・・。鳥峨家も専門学校行き始める前まで鉄道に多少興味があるなんて思わなかったけど、少なくとも鳥峨家は「くん」「ちゃん」付で呼んでないなぁ・・・。萌だって、そんな呼び方してないと思った。だいたい、自分の訳が分からない形式で呼んでいたと思う。
「翼先輩。次内回り何にするんですか。北陸の「チャンダーバード」行っちゃいましょうよ。」
(えっ・・・。そんな癒し系の名前の列車なんてあるの。)
「「サンダーバード」かぁ。「サンダーバード」はまだまだだよ。」
まぁ、「チャンダーバード」なんて名前あるわけないよね。でも、「チャンダーバード」イコール「サンダーバード」で通じるのがある意味すごい。
「「サンダーバード」がまだなかわりに「スカイダイビング」出そうぜ。」
何をするつもりなの。
「いーや。「スカイダイビング」はやめとけ。いろいろと面倒だから。次はC11形蒸気機関車の「かわね路号」行こうぜ。」
と言って北石まで話に入ってくる。
「かわね路号」はいいとして、その前の「Cにちょんちょん」って何・・・。
「「かわね路号」の隣どうするんだよ。近鉄の16000系にでもするのか。そんなの無いぜ。」
「南海の「ズームカー」でいいじゃん。」
「いや。そもそも実物が単線なのに。複線の模型にそんなのを走らせるなんておかしいです。」
あたしにはすでにいろいろとおかしいです。
「それ言ったらこれはどうなるんだよ。」
北石はそう言って、さっきキハ40だと言っていた白と緑色のドアをした車両を指差した。なお、当該車両はキハ40系400番台です。
「いや。それはまだ函館本線とかあるからいいじゃないですか。」
「・・・。」
「もめてるみたいだけどさぁ。これとこれなんかどうかなぁ・・・。」
永原はそう言って、二つのケースを取り出していた。
「えー。それはないです。」
(真っ向否定・・・。)
「あの。永原先輩。それ両方ともさっき走らせたんですけど。」
「えっ。この313系っていうやつと313系ってやつ・・・。あれ。これ同じじゃん。」
「同じ言わないでください。先輩が今左手に持っているのは5000番台で、名古屋で快速やってるやつです。右手に持ってるのは中央本線の「セントラルライナー」です。両方とも形式は同じですけど、違うんですからね。」
来た。このものすごい小さい違いで見分けるっていうポイント。箱の中を実際に開けてみると塗装が違うことと車両の数が違うことは分かったけど、これ以外何が違うんだろう・・・。萌はあたしが見つけられる違うプラスで分かっているからすごいんだよなぁ。あたしには全然理解できない。
「あっ。じゃあ、あの「連結面ピッカーン計画」のところやろうぜ。」
「ああ。でも、ナガシィ先輩の207系と223系ねぇじゃん。」
(あっ。ナガシィ君模型持ってたんだ。)
「・・・諫早。」
「なんですか。」
「お前いま、網干の7000番台と宮原の6000番台持ってる。」
「今日は網干も宮原も常駐ですけど。」
「出してもらっていい。」
「じゃあ、相方は321系でいいんじゃないのか。」
北石が言った。
「あっ。ちょうどいいですね。こっちは西明石行きで、221系は米原行きですから、ちょうど方向が違いますしね。」
確かに。米原と西明石は方向違いだけど、その前に行ってた「連結面ピッカーン計画」ってなんだろう。萌たちが行ってる大阪あたりはいったい何をしているわけ。でも、それは模型が走り始めるとはっきりした。先頭車同士が連結しているところのヘッドライトがついたままになっていたのだ。何だそんなことかって思ったけど、何でライトつけてるんだろう。頭と頭をつなげているんだから、そんなところのライトをつけても意味ないと思うんだけどなぁ・・・。まぁ、意味はあるのかなぁ・・・。
結局全員の知識の多さに振り回されながら、そこで数分過ごして、また自分たちがやっている場所に戻ってみた。こっちでも、自分たちには理解不能な単語の嵐になっていた。とにかくいうことがすごい。電池イコール睡眠薬。・・・確かに。別な意味の睡眠薬にはなりそう・・・。
「アズタン。モエタン。ちょっとこっち来て手伝って。」
善知鳥先輩に呼ばれて、そっちに行った。
「ちょっと。このアルコールでさぁ、線路をきれいにしてくれない。でないと車両が言うこと聞いてくれないから。」
「・・・。」
何をすればいいのかと言うのは近くにいたアヤケン先輩を見ていたからわかった。でもそのアヤケン先輩も変な言葉を・・・。何。このサークルは変人さんの集まりですか・・・。それともこの部活に入ったら全員こうなるんですか。頭の中が訳が分からなくなってるけど、少なくとも、あたしはこうなりたくない。
またまた雰囲気に押されて、この部屋を後にして、また高校生の展示場に来てみた。するとそこの人数は減っていた。さっきまでいた北石、柊木、大湊の姿はなくて、代わりに隼、潮ノ谷、大嵐の姿があった。3人で足りるのかなぁ・・・。
「あっ。こんにちは。」
そう言って、隼が立った。暇をしているみたいである。少しばかり人が少ない時間になっていた。走っている列車は赤い電車。ここら辺を走っている赤電とかまた違って8両と長い。
「京急電鉄っていう東京のほうを走ってる鉄道です。ほら、ちょっと前に土砂崩れのところにツッコんで脱線しちゃったっていうニュースがあったじゃないですか。」
「・・・。」
そんなニュースってあったっけ。まぁ、そういうところを走ってる会社なんだなぁ・・・。
「隼先輩って本当に「ドレミファインバーター」好きですよねぇ・・・。」
「「ドレミファインバーター」。」
「あっ。ちょっと待ってください。」
隼はそう言ってスマフォを取り出し、動画機能を起動させて、私たちに見せてくれた。確かに電車が走り始めると同時に音がどこからともなく聞こえてきた。
「シュ、ルール、ルール、ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・。」
そのあと、他にもいろんなインバーターの動画や警笛の同夜などを見ていた。聞いてみれば、電車と言うのはあたしたちが知っているような音を必ずしも出しているわけではないということが分かった。あたしは今まで警笛の音は「ファーン」っていうのがふつうなのかと思っていたけど、そんなのばかりではなかった。電車って結構個性があるんだなぁ・・・。
「聞いてみると面白いでしょ。電車ってそれぞれで音が違ったりするんですよ。この個性を楽しむものいいじゃないですか。」
あたしは隼みたいに個性を楽しむ耳がないけどなぁ・・・。でも、バリエーションが結構あるということは分かった。
日曜日も展示だったのだけど、終始この調子。片づけの時には誰かが消防訓練だの言い初めて。本当にこのサークルはいろいろとすごい。




