232列車 苦悩
9月26日。今日は笹子の体育祭の日だ。やる場所は難波の府立体育館。やる時間が8時からとなっていたので、早めにそこに行かなければならない。6時40分ごろに家を出て、緑地公園から北大阪急行の8006に揺られて、難波に到着したら、後は体育館まで少し歩くだけである。
体育館の前でクラスの人たちと合流。時間が近づくにつれて、だんだんと他の学科の人たちも来て、2年生の先輩たちとも合流する。門が開いて、中に入ると、鉄道学科が陣取った場所に入り、僕たち応援組は床に座った。
「・・・。」
「ナガシィ。行くよ。」
「えっ。」
次の瞬間ボールが僕めがけて、飛んでくる。あわてて伏せるとボールはその上を通過したように思った。そして、頭を上げると背中にどんとボールがぶつかった。
「・・・イターイなぁ。何するんだよ。」
「怒んない、怒んない。」
「・・・。ねぇ、練習するんだったら真面目にやれよな。そもそも参加しないんだから。」
「・・・。」
萌はそういうこと聞かないで練習に戻っていった。この頃クラスの人たちともあんまり交流がないようにも思えるし、なんか孤立しているような感じを受けているのだが・・・。ただ単に関わりたくないだけだろうか・・・。こういうこと考えても仕方がないから、すぐに別の考えが頭の中に生まれる。
しばらくたつと練習の時間が終了して、開会式に移る。それが終わったら順次試合となる。1年生の出番はまだ先。先に2年生の試合がスタートする。応援団は1・2年生共通運用。つまり、自分の学科の試合があったら、応援するということだ。出場メンバーは名張先輩、大畑先輩、天童先輩、三木先輩、そして吉松先輩の5人。一人足りないと思うかもしれないが、男子が多いというわけで、この人数だ。
「頑張れー。」
難波さんがエールを送る。僕たちは僕たちのチームの名前の入った旗を持っている。なんて書いてあるのかというとB快速だ。
試合の流れは結構よくて、吉松先輩のサーブでほとんど決まっていった。しかし、敵もそう簡単に勝たせてくれるわけではないので反撃。結構詰め寄られてしまったが、再び2年生のチームレッドサンダーの反撃。そして、チームレッドサンダーの勝利で終わった。次は1年生の番。メンバーは蓬莱、百済、近畿、高槻、長万部の5人。最初はこちらが善戦したのだけれど、相手の反撃をもろにくらって、敵に押し切られる形になってしまった。
「もうナガシィがちゃんと応援しないから負けちゃったじゃん。」
「あのさぁ、ちゃんと応援しなかったからって・・・。」
そういうことをこっちのせいにしてくれてもなぁ・・・。出場しない組にはどうにもならないことだ。ちょうど相手が悪かっただけ・・・。うーん。こういう時はどういう言葉が一番最適なんだろう・・・。
「とりあえずそこに座って。」
萌の言われるがままにしていればどうなるかは僕にだって想像はついている。しかし、反抗してもどうなるかは想像がついている。結局どっちにしても逃げられない状況だ。
次の試合。今度は試合が重なってしまった。今回のメンバーは留萌、栗東、水上、平百合、百済。しかしどうも、B快速と当たるチームは分が悪いらしく、手ごわい。また相手に押し切られる形で敗北。2年生はメンバーの入れ替え無しで、試合。勝利を収めていた。次の試合も重なってしまった。2年生は相変わらずの快進撃。1年生のメンバーは木ノ本、高槻、栗東、長万部、水上。ここで1年生も勝利を収める。次の試合は2年生が講師チームと対決。講師の力に連勝ストップ。1年生のメンバーは萌、高槻、水上、近畿、百済。連勝した。次の試合は2年生は再び勝利。1年生のメンバーは瀬野、近畿、百済、栗東、高槻。一進一退の勝負だったのだが、相手が上手だった。次の試合は2年生は勝利。1年生のメンバーは内山、水上、栗東、平百合、近畿。こちらも勝利した。
午前中かかってそれぞれのコートでのリーグ戦が終了。この先は決勝トーナメントとなる。リーグ戦は15点マッチ1セットでの試合だが、決勝トーナメントは15点マッチ2セットでの試合である。B快速は残念ながら残ることができなかったが、レッドサンダーは残ることができたので、試合の応援のために残っている。試合はバレー経験者を相手にしながらも善戦。吉松先輩で一気に引き離したのだが、すぐに追いつかれる。一進一退の攻防を続けて、相手チームが1セット取り、次の2セット目も一進一退の攻防。あたりが悪かったと言っていいのか・・・。敗北。しかし、決勝トーナメントまで残ったというのはすごい。・・・運動のできない、ていうか参加してない人の言うことではないか・・・。
それからは片づけを申し込まれたので、片付ける時間まで待機。片づけを終わらせて、僕はすぐに体育館を後にした。
「ナガシィ。今からどうする。」
萌がそう聞いてきた。
「どうするって・・・。ここで何か見てくの。」
「別に見てくつもりはないんだけど・・・。」
「じゃあ、早く帰る。それでいいじゃん。」
萌にそう言って自分はなんばに足を向ける。
なんばについてきた列車は新大阪行き。新大阪で止まってしまっては意味がないので、次の千里中央行きを待った。待っている間に来た新大阪行きは20系。どこにでも走っている車両だ。次の新大阪行きは10A系。まぁ、30000系が来るというほうがまれかぁ・・・。ちょうど夕方ラッシュと重なり始める時間である。車内に座れる余地はない。5号車の千里中央側に乗り、隣の6号車から発せられるIGBT素子のVVVFインバーター音を聞いて、梅田に到着。梅田で車内の立ち客のほとんどが下り、また大勢乗ってくる。中津、西中島南方と乗車があり、新大阪で再び立ち客が減るが、梅田ほどではない。次の東三国で、なかもず行きの30000系とすれ違い、江坂で少々の下車客があって、緑地公園まで座ることはできなかった。
緑地公園の近くで夕ご飯を食べて、家に帰る。
「・・・。」
「どうしたの。ナガシィ。そんな顔して。」
「・・・。夏休みはさんでからみんな変わったなぁって・・・。なんか話せないっていうのがちょっと寂しいというか・・・。」
「・・・私がいるじゃない。」
「ありがとう。でも、もう一つあるんだ。なんか、みんな遠慮がいらなくなってきたんだなっていうことを前に近畿と話したことがあるんだけど、遠慮がいらないっていうことが分かりすぎて暴走してるって感じも・・・。」
「度が過ぎてるってこと。」
「まぁ・・・。」
「ナガシィがそんなことで悩んでどうするの。いつも笑ってるナガシィじゃない。だから、笑ってよね。まぁ、みんなと仲良くやっていきたいっていう気は分かるけど。」
「・・・。ねぇ、萌。萌は俺のことどう思う。」
「えっ・・・。うーん。頼りにならない人かなぁ・・・。」
カチンと来そうになった。まぁ、そのほうが自分としていいか。誰かに信頼されるっていうのはいいけど、頼りにされるのはごめんである。
「そう言えば、前に難波さんからメール着たでしょ。あれ聞いた。」
萌が話題を変えてきた。あれとは前期の成績のことである。発表前の速報という感じで、難波さんに言えば自分の成績を発表してくれるとのことである。
「聞いてないよ。成績のことなんてそんなに気にならないし。ていうか期待してないし。」
「ナガシィのいつものことだね。勉強とかに期待しないのは。」
「・・・。」
目をそらした。しかし、本当に気にならないわけでは無い。草津、水上。いや、全員の成績が気になるのは確かだ。今までクラスが同じになったことのない留萌も今回の一件で結構脅威であるということが分かったし、一番僕にとって怖いのは身近な存在である萌だ。よく分かっているいじょう注意しなければならないことがある。萌も仲間であり敵だ。
「・・・。萌は。萌は聞いたのかよ。」
「ううん。聞いてない。今聞くのは正直怖いから。」
「・・・。」
コーポにかえって部屋の中に入る。なんか今日はいろんな意味で疲れた。この先どうすればいいんだろう。なんかいろんなことを考えている。僕は本当に鉄道会社に入れるのだろうか。もし入れなかったら、他で働く気はないと自殺するぐらいの勢いであることは結構前に決めていることである。それほど僕は鉄道以外眼中になかった。しかし、ここで半年暮らしていると、いろんな不安が再燃する。僕は本当に働けるのだろうか。将来運転士になれるのだろうか。定年まで生きてられるのか。でも、僕の頭の中で一番頭から離れないことは、僕はクラスの人にどう思われている。それだった・・・。
今回からの登場人物
吉松勝 誕生日 1992年11月21日 血液型 A型 身長 175cm




