227列車 高松で囁いて
今。高松に来ている。去年来ることのできなかった四国だ。部活のジンクスとしては行った先で必ず何かが起こるということ。つまり、熊本に行ったときは人身事故。東北に行ったときは結構期間が開いたが、地震。そして、富山に行ったときは新潟豪雨と土砂崩れ。さんざんすぎる。もしこのまま行ってしまったら高松でも何かが起こるのだろうか。それはないことを祈りたい。
「結局高松に来たなぁ・・・。」
「先輩たちって去年は富山に行ったんですよねぇ。」
大湊が聞いてきた。
「そうだよ。」
「先輩たちっていいですよねぇ。いろんなところに行けて。僕は鉄道は好きですけど、今まで18切符で旅したことがないんです。だから、いろんなところに行けて楽しいんですけど。」
「へぇ。今まで18切符使ったことないのかよ。」
と朝熊。
「兄貴がよく使っていたんですけど、兄貴はどこにも連れて行ってもらえなかったんで。」
「ひどい兄貴だなぁ・・・。」
と翼。
「そういうお兄ちゃんだってケチなところあるじゃん。」
「こまち・・・。少し黙れ。」
「アハハ・・・。」
今は5000系「マリンライナー」の中。岡山地区で乗れる快速列車だ。この列車は瀬戸大橋が開通して以来、岡山と高松を結んでいる。列車版の宇高連絡船だ。
「柊木先輩。ヒマになったからあれしましょうよ。例の決着。」
3年生は全員吹いた。
「なぁ。己斐それまだ引きずってたのか。」
「永島先輩たちは卒業してしまいましたけど、今まで決着ついたためしがないじゃないですか。」
「まぁ、そうだけど・・・。」
「なんですか。決着って。何かしていたんですか。」
「ああ。」
大湊のその問いには北石が答えた。
「鉄道のいろんなこと使ってしりとりしてたんだけど、今まで終わったことがないんだよねぇ。」
「駅だったら「る」を言えば終わりじゃないですか。」
「そうだけどさぁ・・・。」
北石は頭の中でそれが留萌と留辺蘂であることを思い浮かべた。るから始まる駅はこれ以外過去に留産という駅が存在するだけである。しかし、しりとりをする場合において留産が使えないというのは誰でもわかることだとは思う。というかものの見事に始まる感じは皆同じなんだな・・・。
「でも、駅だけにとどめてると絶対にすぐに終わって面白くないんだよなぁ。「る」から始まる駅は少ないから。」
「だから、幅を広げるわけだよ。駅名だけにとらわれず、列車名とかいろいろ手を出すから結局終わらないんだよなぁ・・・。」
「確かに。いきなり、真鶴とか出して、すぐにパスが連続するようじゃ面白くありませんからね。だからって列車名に幅を広げることも・・・。」
「じゃあ、どうしろっていうんだよ。」
「廃線にも足広げるのか。北母子里とか白樺とか広尾とか沙留とか。読みずらいののオンパレードだぞ。」
「北石。それ全部北海道だろ。」
と潮ノ谷が突っ込んだ。もちろんその通りだ。今あげた駅名はすべて北海道にある。線路を言うと北母子里、白樺は深川から名寄間を幌加内・朱鞠内経由で結んでいた深名線。広尾は帯広から広尾間を中札内経由で結んでいた広尾線。このいい方以外にこの線路は愛国発幸福行きの記念切符で有名である。最後の沙留は名寄から遠軽間を興部・紋別・中湧別経由で結んでいた名寄本線という路線の駅である。すべて廃線で、またすべて特定地方交通線に選定された路線であり1990年代には今あげた路線はすべて廃線となった。
「そういう方面に足を広げるからじゃないんですか。終わらない理由。」
「でも、楽しいっていうのは認めるよな。」
「楽しいのは認めるけど、だんだん面倒になってくるんだよなぁ。」
「あっ。それには激しく同意。」
「マリンライナー」はたった今、児島を発車したばかりである。ここから管轄はJR四国へと移る。児島はJRの境界駅となっている駅である。その境界とはもちろんJR西日本とのものである。
児島を発車すればほどなくしてトンネルに入る。そして、このトンネルを出た瞬間、瀬戸大橋に躍り出るのだ。今は昼。瀬戸内海の絶景を楽しむことができる。列車は快調にスピードを上げて瀬戸大橋に躍り出た。
「うわぁ。感動です。はじめて瀬戸大橋わたりました。」
大湊は声を上げた。確かに。はじめて通る人にとってはすごく感動的な出来事だろう。瀬戸大橋は知っての通り上を高速道路。下を鉄道が通っている吊り橋である。このような吊り橋は世界にも類を見ないほど珍しいもの。実際瀬戸大橋は新幹線が通るという将来の目標の上で作られたものであり、新幹線が通れるほどの建設基準となっているはずである。しかし、その夢はもはや虫の息である。現在はフリーゲージトレインということで新しい新在直通新幹線計画が浮上している。
下を見ると青い瀬戸内海が広がっている。その真ん中に点々と存在する緑の島。昔はこんな高い位置から瀬戸内海を見ることなどできなかったのだなぁ・・・。
瀬戸大橋を渡りきるといよいよ四国上陸である。四国に入ると線路は二手に分かれる。一つはこのまま直進し宇多津に乗り入れ、松山・高知方面に向かう線路。もう一つ左に分かれていく線路は坂出に乗り入れ、高松方面に向かう線路である。ここの線形は結構複雑だが、こうせざるを得なかった状況に変わりはないと思う。「快速マリンライナー」は高松行き。進路を左にとって坂出のほうへ抜けていく。
高松に到着すればきょう一日の行動は終了である。この後ホテルに向かって歩き、あとは自由行動となる。
「なぁ、北石。お前大学どこ行くんだ。」
翼は気になってそう聞いてみた。
「えっ。大学。大学かぁ・・・。まぁ、考えてはいるんだけど、俺は専門学校にでも行こうかなぁって思ってる。」
「えっ。専門学校。」
「ああ。東京に帝都観光っていうのがあるのは知ってるだろ。そこに行こうと思ってる。」
「お前ぐらいの頭があるんだったら俺は大学行くと思ってたのになぁ。」
「大学行ったって入れても意味がほとんどないんだって。大学から会社に行ったやつらはほとんど上層部のほうへ回されるわけだろ。俺は上層部には興味がないから。」
「・・・。」
「上層部には縁があったら行く程度かなぁ・・・。柊木はどう考えてるんだよ。」
「俺・・・。俺も専門とは思ってるんだけどなぁ。」
「やっぱり観光系か。」
「そうだろ。それ以外どこに行くんだよ。そういえばナガシィ先輩たちが進んだ笹子だけど・・・。夏のオープンキャンパスにでも行ってみようかなぁって思ってるんだ。」
「先輩たちの顔見にか。」
「ちょっとそれもある。」
「絶対突っ返されるぞ。永島先輩あんまり後輩と会いたくないみたいな感じするからなぁ・・・。」
それは翼もよくわかっている。永島先輩と北石が最初にあった時、先輩ですよねと話を持ちかけた時の永島先輩は顔が少しゆがんだことを今でも覚えている。
「まぁ、それは冗談だけどなぁ。まぁ、たぶん会えないと思うし。」
「ここから大阪行かなくてもいいんじゃないか。」
「そういうお前だったここから東京行かなくてもいいんじゃないか。」
「・・・。」
しばらくお互いを見つめあった。少し経ってから北石は席を外した。入れ替わりに隼がやってきた。
「翼。どうしたの一人で。」
「えっ。ミッシィ先輩の苦労がわかる気がしてさぁ。」
「何言ってるの。」
「隼。お前はどこに進学しようって考えてる。」
「笹子に行こうと思ってる。」
「お前は大阪行くのか。」
「えっ。そうだけど。でも、まぁ、お父さんの母校だったていうこともあるし、向こうに行ったらほら、ナガシィ先輩たちもいるじゃん。だから、少しくらいは勉強教えてくれるかなぁと思って。さくら先輩や、榛名先輩もいるんだし。」
「・・・。」
「翼は。」
「いや、頭の中にあるのは笹子。それと名古屋の中京観光かなぁ・・・。」
「・・・。」
「・・・意外だった。」
「ううん。まぁ、翼の頭じゃ専門学校がちょうどいいんじゃない。」
「人をバカ呼ばわりするな。」
「あっ。ごめん。・・・なんかこうして一緒に旅するのも最後だろうなって思っちゃうとなんかさびしいね。」
「えっ。」
「だってそうじゃん。高校卒業したらみんな別の道行っちゃうんでしょ。もし、入った会社が偶然同じだったっていうことももうないんだろうし。」
「だからなんだよ。」
「えっ。最後ぐらいみんなでパーッと盛り上がることしたいなぁと思って。」
(盛り上がることかぁ・・・。)
しばらくその場で固まった。
「翼は誰か好きな女の子でもいる。」
「はっ。」
翼の顔が赤くなった。
「いや。いるかいないかだけでいいから。」
「・・・。ああ、いるよ。」
と言ってから翼は声を小さくして、
「目の前に・・・。」
それからまた声を大きくして、
「ていうかなんでそんなこと聞くんだよ。なんでそんなこと言わせるんだよ。」
そういって席を立ってどこかに行ってしまった。まぁ、ここから立ち去るときに廊下に出るところで壁に肩をぶつけていたけど・・・。
「あーあ。聞いちゃった。・・・。」
隼はそう言うと目の前の机に突っ伏した。顔を隠してから、
(ふっ・・・。ちゃんと聞いちゃったもんね。翼は聞こえないつもりで言ったんだろうけど・・・。)
「目の前に・・・。」
自分の頬が赤いのは夕日のせいかな・・・。




