219列車 差
7月10日。夏休みが始まって2日目だ。今どこにいるのかというと学校にいる。なぜ学校にいるかと言うと自主勉強のためだ。今勉強しておかないと絶対テストでいい点数は取れない。難波さんが言うとおり最後の夏。ここに本気で取り組もうと思った。
その本気に付き合ってくれるのは近畿だ。鉄道実習室にいるのは僕と近畿だけ。他のメンツは何をしているかというと上で補習授業を受けていたりしている。しかし、大半は来て勉強すらしていない。
「なぁ、永島。」
近畿が話しかけてきた。
「今日草津たちはどうしてるんだ。」
「草津。多分上で補習でも受けてるんじゃないかなぁ。」
「補修かぁ・・・。じゃあ、午後になったらここ来るかなぁ。」
「来るんじゃないの・・・。」
「そうかぁ・・・。にしてもさぁ、草津と瀬野さんと水上以外ほとんど学校来て勉強してないよなぁ。」
と言った。本当はここの実習室に顔を出していないだけで来ているのかもしれないけど、昨日と今日でここの実習室に来たのは草津、瀬野、内山、水上、千葉、高槻ぐらい。他の人はどうしているのかはわからない。そして、昨日勉強に少しだけ付き合ってくれた高槻も今日は来ていない。
「そうだよなぁ・・・。まぁ、家で勉強してるのかもしれないけど。」
「家かぁ。よく家で勉強に集中できるよなぁ・・・。」
(集中かぁ・・・。)
ふと萌のことが頭をよぎった。だが、すぐに首を振った。萌のことはこの間は忘れよう。
「永島。話変わるけど、難波さんの夏プリどこまで進んだ。」
「えっ。もうあと一ケタ。・・・何ページ残ってたっけ。」
ヒトケタなのは覚えているのだけど、何ページ終わっているのかは完全に把握しきれていない。取り出して確認してみた。
「えーと・・・。あと8ページ。」
「あと8。早っ。」
「まぁ、夏休みはいる前からやってたし。今週中に一通り終わらせる目標でやってたから。」
「・・・。」
「まぁ、終わるかどうかわからないんだけどねぇ。特に平野と盆地で手こずっててさぁ・・・。」
「それ絶対坂口さんに見せてって言われるよなぁ・・・。」
「言われるだろうねぇ・・・。」
そう言いながら夏プリを普段持ってきているカバンの中にしまった。
一方、
(はぁ。昨日も今日もどこ行ってるんだろう・・・。)
そう思いながら、本屋の鉄道ジャーナルを立ち読みしていた。今年は東北新幹線が開業して30周年の記念の年。雑誌の中身も東北新幹線の特集が組み込まれていた。読んでいると肩をポンとたたかれた。見てみると木ノ本の顔があった。
「よーす。何してるの。」
「・・・。」
それからすぐ近くにあるマックスに移動した。
「いやぁ、こうして食べるのって久しぶりだねぇ。」
「そうだね。」
「どうしたの。普段は永島と一緒なのにさぁ・・・。」
「ナガシィ。きのうも今日もどこか行っちゃってて部屋にいないんだよねぇ。」
「いない。まぁ、駅に行ったわけじゃないよねぇ・・・。てなったらどこかチャリで。」
「ナガシィのチャリはちゃんとおいてあります。」
「あっ。じゃあ、何してるんだろう。大阪市営でも乗り行ったのかなぁ・・・。」
「市営なんて1日あれば乗り切れちゃうでしょ。それに市営に乗ろうとかって思ってたら、絶対にナガシィは私のこと誘うと思う。一人はつまんないと思うから。」
「・・・。」
しばらくの間ハンバーガーを頬張って、
「じゃあ勉強でもしてるんじゃないかなぁ・・・。」
「えっ。ナガシィが勉強。あり得ないって。ナガシィ直前にならないと頭に入らない人だよ。そういうのがこんな時期からテスト勉強なんてするかなぁ・・・。」
「いや、そういう意味で勉強してるんじゃなくて、電気代を笹子に払わせるために学校に勉強しに行ってるとか。」
「・・・確かに。難波さんそう言ってたけどさぁ・・・。でもそれって結構無理やりすぎない。」
「無理やりじゃないでしょ。あり得なくない。ここにいる人って全員仲間だけど、敵じゃん。敵を蹴落とすためならどんなことでもしようって考えない。」
(蹴落とすかぁ・・・。でもナガシィに限って・・・。)
木ノ本と話すとますます心配になった。学校の近くには来ているけど、後でそれとなく聞いてみようと思って今は部屋に帰ることにした。
実習室では、
「なぁ、近畿。」
「何。」
「午後・・・キツイなぁ・・・。」
「ああ。いくら水上たちに勝ちたいからって言ってもきついなぁ・・・。これ腕に来るぞ・・・。」
さっきから僕たちは文字を書きっぱなしである。もう腕が痛くて痛くてしょうがない。
「ちょっと休憩するか。」
近畿がそう持ちかけた。
「だな。いくらなんでも続かない・・・。」
そういうと僕は持っていたシャープを机の上に投げ出した。そして、背伸びする。
「にしても、お前ルーズリーフいっぱいに熟語書いてるじゃん。疲れないか。」
近畿がのぞいてきた。
「ああ。高校1年の時はこれが3ページまとめて出したのがあった。1ページだけでも死ぬのにさぁ。」
「お前結構頭いいし、それ出してたのか。」
「ううん。全然一度も出したことない。」
そう言ってから僕は隣の机の椅子を引き出した。そして、僕が座っている椅子に少しだけ引き寄せてから、横になった。
「イテッ。」
骨の場所に椅子のポールの部分があたった。
「で寝るのかよ。」
「ちょっとお休み。」
そう言って、椅子の上で寝返りをうったら、ちょっとの間そのままでいた。近畿は僕がそうしている間イヤホンを取り出して、音楽を聞き始めた。
何分この状態が続いただろう。ドアが開いた。近畿はその音で目が覚めたけど、僕はこのとき完全に眠ってしまっていたから、それに気づくことはない。
「あれ。智ちゃん大丈夫。」
「ああ。ちょっとたたき起こしてやれよ。」
いや、たたき起こされる前に目が覚めた。目を開いてみるとそこにいるのは瀬野だった。補修が終わったのだろう。
「おはよう。智ちゃん。」
「オハァ・・・。」
眠そうな声で答えた。
「とにかくお前どこから出るんだその声。」
「声帯・・・。」
「・・・草津たちってくる。」
「ああ。そのうち来るよ。」
瀬野がそう答えると同時にまたドアが開いた。さすがにこのときには体を起こした。確かに、瀬野の言ったとおり草津、水上、内山が実習室に入って来た。
「なんだ。今日も彼女とは別行動かよ。」
「草津・・・。」
草津はそういうとすぐに僕の後ろの席に行った。そして、勉強道具を広げる。広げたのは難波さんの夏プリだった。
「あっ。草津はそれどこまで終わったんだ。」
「えっ。あと2ページ。」
「あと2。」
「草津君も智ちゃんも早すぎだろ。もうすでに残りがヒトケタってなんだよ。」
「じゃあ、草津は平野と盆地やったの。」
「ああ。でも2番と3番がどっちかわからなくてさぁ。多分これは詰まった。」
「だよなぁ。あれって結構微妙なところ指してるからさぁ。地図で言ったら2番は広尾とか帯広のあたりで、3番は池田あたりだもんなぁ。」
「フッ。こういう時、駅名便利だな。」
草津はそう言ってから、残ったページをやり始めた。
「でも、広尾っていう程したじゃないから、中札内あたりじゃないか。」
やりながら草津はそう言った。
さっきから飛び出している地名は帯広で分かったと思うが全て北海道だ。その問題は全国の平野や盆地などの名称をこたえる問題で、2番は広尾線あたりに。3番は池田など。帯広のちょっと東に位置している。そこの平野の名称を応えろというものだ。そして、草津が駅名が便利と言ったのは、駅名を知っていて、なおかつその場所を知っていれば、ここにあるからこれだということを言うことができるからだ。
「・・・。」
「なぁ、終わってるなら平野と盆地のところだけでも見せてくれない。」
水上がそう言ってきた。
「さすがにそれは却下。自分で解けよな。」
「いや、これマジ分からんから。」
「・・・ザ・平野。」
そのあと僕たちは目立った勉強をしたわけではない。草津も夏プリが終了したら、僕たちの話に加わっていた。そのまま5時ぐらいまでずっと話していた。そろそろ退散するかということになったため、それから戸締りをして、部屋から退散した。鍵を難波さんに返してから、僕は部屋に戻った。
部屋に戻ると萌が入って来た。
「ナガシィ。きのうも今日もいったいどこに行ってたわけ。朝早くからこんな時間まで。」
「ああ。学校に行ってた。」
「学校。なんで学校なんか行ってるのよ。」
「えっ。エアコン代を笹子に払わせるために。」
(理由ひどいなぁ・・・。)
「まぁ、それはその名目での勉強だけどねぇ・・・。」
「・・・。」
言葉を失った。そして、前に聞かされたあの言葉が脳裏をよぎった。
(・・・そんな。絶対にそんなことなんてさせない。でも・・・悔しいよ。気持ちでもナガシィに負けてるなんて・・・。)
(萌を・・・。いや、草津も水上も。この夏で蹴落としてやる・・・。)
萌を見てまた新たに決心がついた。




