217列車 隠したい
夏休みまであと1日となった7月4日。今週は近畿と犀潟が六甲のほうへインターンシップで行っているため、いつもより二人少ない人数で授業が進められている。
英会話の授業が終了すると僕は7階の学生ホールのほうへ向かった。ここで勉強するためだ。夏休みの課題を終わらせるためにもそこで勉強している。
「ねぇ、ナガシィ。この夏プリ何ページぐらい終わった。」
萌がそう聞いてきた。
「えっ。もう35ページぐらい終わってるよ。」
「早っ。あたしも早く終わらせないとなぁ・・・。ねぇ、ちょっと見せて。」
「バカ。自分で解けよ。」
「ケチ。」
「ケチだよ・・・。」
そう言いながらも手を進めた。今やっているのは時計の問題。これは鉄道関係の仕事に就く人にとって最低限必要なものだ。これは完全にしなければ・・・。
「・・・。」
「ねぇ、ナガシィ。日本が独立を回復した条約って何。」
萌がそう聞いてきた。萌はいま歴史のプリントをやっているみたいだ。
「えっ。うーんと・・・。」
しばらく考えた。この頃考えなければ上がらなくなってきている。こういう面では僕も老化は進んでいるか。鉄道研究部にいたときは誰がこんなことを言っていたっけ。忘れたけど18歳になったらおじいちゃんになるみたいなことを聞いていた。
「サンフランシスコ平和条約じゃなかったっけ。」
「やっぱりそれ。」
「確認・・・。」
「だって自信ないんだもん。」
「自信ねぇ。そこはあえて間違えて、自分のものにするっていうのも勉強じゃないの。」
僕はそう思って勉強している。再提出になるのはできるだけ避けたいけど、間違えるのも勉強の一つだ。それは間違っていないと思う。
「間違えて再提出になるのいやじゃん。」
「そりゃ嫌だけど、間違えなきゃ覚えないだろ・・・。」
「じゃあ全部間違えろっていうわけ。」
「そうは言わないって。分かるやつはちゃんととけよ。」
僕はそう言うとまた時計の問題に没頭した。時計問題は全て終わるかなぁとは思っていたが、萌に話しかけられたりしていて、予想以上に時間を取った。そのため残り1枚となったところで時間となった。
8限目の授業が終了したので、僕たちは下に下り、管理者対策の授業を受けている人たちが終わって出てくるのを待った。最初に千葉が出てきて、そのあと5分ぐらい経ってから、内山、草津、栗東、瀬野が出てきた。
「なぁ、智ちゃん。みんなでサウンドファンに行こうっていう話になってるんだけど、来るか。」
栗東がそう話しかけてきた。
「よし、行こう。」
僕が答える暇もなく萌がそう言った。なんか強制的についていくことになりそうだ。・・・まぁ、仕方ないかぁ・・・。
御堂筋に出て、桃山台方面に向かって少し歩くとこのごろよく足を運んでいるサウンドファンが見えてくる。サウンドファンに入るとなぜがそこには羽犬塚たちがいた。ここで遊んで時間をつぶしているらしい。
さて、そこでみんな思い思いにゲームをするけど、僕と内山はそういう気になれない。ゲームセンターが嫌いな人達ですから・・・。みんながゲームをしているところを傍観するのが僕たちのやる仕事に半分なっているけど、ずっと立ったままでいるというのもしんどい。椅子に腰かけて休憩をしていた。
「智ちゃん。お菓子でも食べる。」
内山が聞いてきた。
「お菓子・・・。」
「うん。」
そう言って内山が取り出したのはソフトキャンディという宣伝をやっているものだった。まぁ、僕にとっては未知のお菓子だけど、食べることにした。一つ口の中に入れて、もう一つ口の中に入れて・・・。一気に二つ食べた。だが、内山が持っているソフトキャンディはまだまだたくさんある。大きめの袋に入っているのだ。僕は掛けている眼鏡を眼鏡ケースに入れた。眼鏡ケースはいつも持ち歩いているわけではない。帽子をかぶるようになってから、眼鏡をずっと掛けないようになった。ワイシャツの時は胸ポケットがついているからそこに入れることがあるのだけど、ふつうのシャツの場合は胸ポケットがないから、そういうわけにはいかない。その時に持っているのだ。今日はワイシャツを着ているけど、胸ポケットが小さいから、眼鏡が入らないという理由でもっているだけだ。
「ねぇ、智ちゃん。智ちゃんは萌ちゃんのことどう思ってるの。」
「えっ。」
内山がそんなことを聞いてくるというのに驚いた。
「どう思ってるって・・・。」
「だから、智ちゃんは萌ちゃんのこと好きなの。」
危うく食べているソフトキャンディを吐き出すか、そのまま飲み込んでしまいそうになった。ちょっと待て。今までこういわれて、こんな風になったことはないぞ・・・。
「えっ。」
「だって、萌ちゃんとは小学校からなんでしょ。それぐらいからなら、萌ちゃんのこと好きでもおかしくないんじゃないかなぁ。ねぇ、どうなの。」
(な・・・なんて答えたら・・・。って何考えてるんだよ。俺。)
内山からの疑問にどう回答していいのかわからない。なんでこんなに分からないんだ。今までだって普通に萌のことは彼女として認めてきたけど、なぜかここに来て・・・。まてまて。ふつうに彼女として認めてしまえばいいだけの話ではないか。なのに・・・。
「えっと。その・・・。」
「正直に言っちゃいなよ。好きなんでしょ。」
「・・・。」
そう言われるとなんか余計言いづらくなった。いつもかぶっている帽子のつばをつかみ、いつも以上に深くかぶった。今はとても内山に自分の顔を見られたくなかった。帽子で目元を隠したとしてもなぜか不十分な気がして、右手で顔をさらに隠した。次の瞬間帽子を誰かに取られた。顔を隠したままその主を見てみると瀬野だった。
「どうした。」
「ちょっ。返せ。」
手を出すと僕の今の顔があらわになってしまう。しかし、今僕はそこまで冷静に考えられる状態ではない。何としても帽子が必要だという一心しかない。
「智ちゃん顔赤い。カワイイ。」
(なっ。)
「ホントだ。どうした。萌ちゃんのことでも考えてたのか。」
「・・・。」
「智ちゃん、萌ちゃんのことが好きだから。」
「ちょっ。」
(なんでこんなに恥ずかしいんだよ。磯部がばらす時とまったく違う・・・。)
「へぇ・・・。」
瀬野の目は明らかに冷やかしの目だ。
「なぁ・・・。」
そう言って僕は瀬野がつかんでいる僕の帽子を返してもらおうと手を出した。でも簡単には返してくれそうにない。手を上にあげて、返してもらおうと頑張る手をかわす。何度かそれを繰り返していると、
「アハハ。ナガシィったら、眞実ちゃんにもいじわるされてるんだ。」
(ドキッ。)
萌の声にあわてたため、自分の帽子などどうでもよくなってしまった。瀬野が普段かぶっている帽子を自分の帽子の代わりに頭にかぶった。瀬野はそれを見ると僕の帽子をかぶった。久しぶりの帽子のトレードだ。
「別にいじわるされてたわけじゃないし・・・。」
(認めろよな・・・。)
「・・・。」
ここにいづらいと思ったので、僕はそのままその場所を離れて、レーシングゲームをしている栗東のところに行った。あっちにいれば少しは気持ちも落ち着くだろう・・・。
しばらく時間が経つと卓球のできる場所に行った。そこでちょっとだけ卓球をして遊んだ。時間が8時を過ぎたので、僕はここで帰ると言って帰路に就こうとしたけど、すぐに帰路に就いたわけではなかった。1階に逆戻りし、栗東たちは何をしているのかを見に行った。下には栗東の姿はすでになく、瀬野が一人レーシングゲームで遊んでいた。
「オハァ・・・。」
そう言うと瀬野がこちらを向いた。少々わき見運転状態となったが、バーチャルだからそれほど問題ではないか・・・。
「どうしたの。帰るの。」
「うん。でも何してるのかなぁって気になったから。」
と萌が答えた。
「やっぱり優みたいにはうまくいかないなぁ・・・。なかなか難しいんだよねぇ・・・。」
とつぶやいた。
「それはそうだと思うよ。まずやりこんでる量が違うし・・・。」
「ミッションってギアチェン面倒だからなぁ・・・。」
「そうなんだよねぇ・・・。智ちゃんってもう免許持ってる。」
「えっ。持ってるけどオートマ限定。」
「あっ。じゃあギアチェンやったことないんだ。」
「眞実ちゃんは免許持ってるの。」
「まだ持ってないから、夏に取りに行くつもり。そう言う萌ちゃんは持ってるの。」
「持ってるよ。」
「持ってるんだ・・・。オートマ。」
「うん。」
「じゃあ二人ともギアチェンやったことないんだ。」
さっきから見ていれば、瀬野は運転に集中してしまってなかなかギアチェンジをしないという状況に陥っている。
「ああ。オートマに設定するべきだったなぁ。ミッション無理・・・。」
そうつぶやく。
「ねぇ、誰かギアチェンだけでいいからやって。運転だけで精いっぱいだから・・・。」
「・・・。」
まぁ、普段栗東や水上がやっているところを見ているから、少しは分かっている。僕がギアチェンをやって、瀬野は運転に集中することにした。その二人三脚でそのゲームを終わらせた。
それが終了すると僕たちは3人で帰路に就いた。途中まで来ると僕たちは瀬野と別れた。
「なぁ、二人とも気をつけろよ。変なやつらに絡まれないように・・・。」
「からまれないようにって大丈夫だよ。」
僕がそう言うと、
「いや、特に智ちゃんが一番危険だよ。おじさんとか変なおっさんに襲われないようにな。」
「襲われないってば。」
「じゃ、また明日。」
「バイバイ。」
今日はこれで終了した。




