216列車 参考
6月26日。夏休み前の授業も残すところあと一週間ちょっととなった。ここで夏休み分の毎日提出する課題をもらう。そして6月29日。授業数が残り一週間を切った。
「今日だよねぇ。サービス接遇の合否出るの。」
木ノ本がつぶやいた。
「ああ。そうだったねぇ・・・。」
「そう言えば、永島達は受かってたのか。」
「えっ。まだ見てない。ていうか、見るのが怖い。」
僕はそう答えた。
「見るのが怖いかぁ。まぁ、確かにそうだよなぁ。あれ結構ボロボロだったもんなぁ。」
暁がつぶやいた。
「えっ。暁結果見たのか。」
「ああ。まぁ、多分ギリギリで受かったんだろうけどなぁ・・・。」
と言った。ということで暁がサービス接遇検定の2級に合格したことが明らかになった。
「見るのが怖いっていうのは分かるよ。俺だってインターネットで合否確認するとき手が震えてた。これでもし落ちてたりしたら、どうしようって。最後のワンクリックがなかなか踏み出せなくてさぁ・・・。多分1分ぐらい迷ってたかもしれない。」
「へぇ・・・。」
学校でもこんな話をされたので、自分も合否が気になってしょうがなくなった。しかし、今合否を気にしたら、いろいろと不都合が生じると思ったので、まだ合否は気にしないことにした。と言うよりも、見たくなかった。自分の中ではこれは当然落ちたと割り切っている。そうすれば、検定に落ちたときでもまだまだ反動がやさしい気がするからだ。
サービス接遇の授業が終わった後僕たちには空き時間がある。その間に栗東が接遇の合否を持ちかけてきた。
「なぁ、永島。接遇の合否見る。」
「えっ。・・・合否なんて見ないでよ。
「・・・分かった。じゃあ、僕だけ見るわ。そして、それで何か言ったら合格ってどう。」
「そ・・・それは別な意味で嫌だ。」
「もう、何やってても臆病なんだから。ねぇ、平百合君そのスマホ貸してくれない。」
萌が平百合に頼み、検定の合格速報ページを開いた。なんかこの場にいたくない僕はちょっとだけの間、その場を離れた。しばらくたったと思って上に戻っても、まだ萌が合否のことを調べていた。やっぱりこの場所にはいたくない。どうしても悪い方向にしか考えられないのだ。
「あっ。ナガシィ。これ見てみれば。」
萌が僕に平百合のスマートフォンを差し出してきた。
「やめて。やめて。」
「・・・そんな悪いことばっかじゃないって。」
萌がそう言ったので、どういうことというツッコミが心の中でとんだ。
「ほら、ナガシィ合格してるよ。」
「えっ・・・。」
まさかそんなはずはない。画面を見てみた。しかし、画面の一番下の欄には確かに「サービス接遇検定2級合格」と書いてある。ウソだと思ってもう一度画面を見てみた。しかし、いくら数秒画面を見なかったからと言って落ちているなんて言うことはあるはずがない。次の瞬間、
「・・・ヤッター。」
右手を思いっ切り高く突き上げた。
「ヤッター。ヤッター。ヤッター。」
「よかったねぇ・・・。」
「えっ。萌は受かってたの。」
「うん。」
ブイサインを作って僕に見せてくれた。そのあと手を広げて、ハイタッチへと変わっていった。
「はぁ・・・。これで心置きなく浜松に帰れる。」
「よかったなぁ。」
(こんなに嬉しいことってあるんだ・・・。スゲェ幸せ・・・。)
ここで思うことではないかもしれない。
しばらくの間何もできなかった。嬉しすぎて、うれしすぎて。ただ椅子に座ったまま天井を見上げていた。それを遮るように萌の顔がのぞいた。
「そんなに嬉しがってもしょうがないでしょ。ていうか、ナガシィ、今日夏プリ持ってきてる。」
夏プリとは夏休みに課題として出されたものである。僕は昨日までに37ページ終わらせていて、その先はまだやっていない。しかし、ちょこちょこ進めていくつもりで、7月31日までには完全に終わらせようと考えている。
「あっ。」
そう言う反応をすると萌は僕の頬をつねってきた。
「持ってきてないのね。」
「い・・・痛いなぁ。」
「つねるなよ。」
近畿が止めに入ったが、それだけで萌がやめてくれるとは思っていない。萌はしばらく僕をつねって遊んでいた。別に僕が受かって萌が落ちたわけでもないのに・・・。
「なぁ、萌。お前さぁ、本当に不満とかないのか。」
「無いよ。」
萌の顔は少し睨む感じになった。絶対あるだろこれと思った。しかし、何がその種なのかが相変わらずわからない。
「無いわけないでしょ。絶対あるって。」
「無いって言ってるでしょ。しつこいなぁ。」
そう言うとさらに萌は頬を引っ張った。
「イッターッ。」
引っ張られて、頬が赤くなったかもしれない。
8限目。普段8限目はホールルームの時間となっている。ここでは結構いろいろなことを決めてきた。ブログを書く順番。9月の下旬にある学校のスポーツデイという日に出場するバレーボールチームとチーム名。そして、今日行うのは内定をもらった先輩たちからのありがたい話である。
先輩たちのクラスは全員で15名。内定をもらっているのはそのうち9名ほど。そのうちの5人から話を聞く。話をしてくれる先輩はオープンキャンパスでもおなじみの名張一翔先輩。遠足に行った時に阪急班リーダーを担当した三木桜花先輩。名張先輩と同じ会社から内定をいただいた天野北登先輩。鉄道コース数少ない女性で、パーサーになれる近道を切り開いた大畑真智先輩。そして、誰もがいこうと思う東海から内定をいただいた天童宰先輩だ。
話を聞いて共通していたのは何事もコツコツ積み上げていくということだった。特に勉強法などという質問をしたときは先輩たちは決まって毎日プリントを毎日少しずつやることを言っていた。そのほかのことは少しずつではあるが違っていた。
(毎日プリントかぁ・・・。)
先輩たちの話はとてもためになった。そして、自分のためにも・・・。萌を蹴落としてでも、自分のやりたいことを貫き通していかなければならないということを改めて実感した。
話が終わると家に帰る前に少しだけみんなで集まった。これは感想を書いている人を待っていたからである。
「さて、早いところ帰るか。」
「えっ。うん。」
僕は萌を誘ってさっさと家路についた。
「ナガシィ。家帰ったらビジネス検定の勉強教えてくれない。」
「えっ。いいけど・・・。」
「何か不都合なことでもあるわけ。ナガシィらしくないなぁ・・・。」
(いや、それは普段お前がそうさせてないんじゃないんだっけ・・・。)
僕は少し歩みを止めた。しばらくするとどうしたのかという感じで萌も歩みを止めた。
「どうしたの。」
「えっ。ああ。なんでもない。」
(ここに恋愛感情は不要だ・・・。)
ここに来てからずっと言い聞かせてきたことを強くした。
笹子観光外国語専門学校鉄道コース2年生
名張一翔 誕生日 1992年10月10日 血液型 B型 身長 173cm
天野北登 誕生日 1993年1月1日 血液型 O型 身長 181cm
大畑真智 誕生日 1992年6月2日 血液型 A型 身長 162cm
天童宰 誕生日 1992年8月23日 血液型 B型 身長 170cm




