214列車 台風と立場逆転
6月19日。大阪には台風4号が近づいていた。僕と萌はそれぞれの部屋にいたけど、途中から萌が僕の部屋に押し掛けてきた。まぁ、今日朝からの休校はないと思っていたので、時間が来たら、二人ともスーツに着替えた。鉄道基礎をやっている教室は実習室。実習室はいま2年生がつかっている。そのため、まだ入れない。近くに自動販売機とかが置いてある場所に固まっていた。
2年生の授業が終了するのと岩かわりに、僕たちは教室に入った。僕と萌はなんか固定みたいで、いつも隣同士になっている。荷物を置いてから、実習室にある電車を模した実習設備のほうに行った。
「ナガシィ。これかぶって。」
と萌に言われてかぶされたものは女性用の制帽。
「・・・いや、智ちゃんがそれかぶっても全く違和感ないんだって。ふつう男の子でそれは似合わないはずなんだけどね。」
瀬野がそう言った。自分でどうなっているか見れないから、どれぐらいに合っているのかはわからないけど、基本僕に帽子は似合うらしい。普段かぶってきている萌からもらった帽子は何のためにかぶっているかというとあんまり人に顔を見せたくないからだ。これは自分が女の子よりの顔をしているからという理由ではない。純粋に顔を見せたくないのだ。だから、帽子はいつも深くかぶっている。
「智ちゃんカワイイ。」
続けて内山の声。
「似合ってるよねぇ・・・。」
今度は蓬莱の声。
「・・・このごろ永島が女に見えてしょうがないんだけど・・・。」
と木ノ本の声。
「えっ。高校の時っていつもこんな感じじゃなかったのか。」
瀬野が聞き返した。
「いや、高校の時はもっとしっかり男だってわかったんだよねぇ。結構オタクなところあったから。それが何。今こっちに来たら、そんなにオタク度高くないし、よくよく見たら、顔女だし、声女だし、髪型女にできるし、萌ちゃんとアクセサリーとっかえ可能だし・・・。なんか男っていう感じじゃなくなったんだよねぇ・・・。」
これには留萌が答えた。
「なっ。お・・・お前らまで・・・。」
「だから、そういう声がさぁ・・・。」
「お前ほどギャップの激しい男もいないと思うぞ。」
「でも、スーツ着てたら、まだ男だってわかるんだけどね・・・。」
木ノ本がそう言った。僕的には何の慰めにもなっていないけど・・・。
「なぁ、永島。ちょっとあれやって。あれ。」
平百合にそう呼ばれた。あれをやってとはおそらくこういうことだ。僕はアナウンス用のマイクを握り、音声が客室のほうに流れるよう、スイッチを入れた。
「ご乗車ありがとうございます。今日もJR西日本をご利用いただきまして、まことにありがとうございます。この列車は「特急サンダーバード1号」富山行きです。途中の停車駅は新大阪、東淀川、吹田の順に終点富山まで各駅に止まってまいります。・・・次は新大阪、新大阪です。新大阪を出ますと、次は東淀川に止まります。」
「クハハハハ。どこも特急じゃねぇ。そんな特急あるかよ。」
「じゃあ、次な。」
これはいっている自分でも笑えてくる。
「今日もJR西日本をご利用いただきまして、ありがとうございます。この列車は各駅停車、京都です。途中京都までの停車駅は神戸、三ノ宮、大阪です。途中舞子、須磨には停車いたしませんので、ご注意ください。」
「うわぁ。迷惑な各駅停車。」
瀬野がつぶやいた。これは女子でも分かることだろう。各駅停車と言われたら、すべての駅に停車していくだろうと思うだろう。しかし、この列車は各駅に止まっていないにもかかわらず、各駅停車と名乗っている。これは実際あり得ないことだ。もちろん、先に行った特急が各駅に停車することも99パーセントあり得ないことだ。それはある区間限定で例外が存在するからである。
「うんじゃあ、これにしょうか。」
そう言うと、笑いをこらえながら、アナウンスに入る。
「今日も新幹線をご利用いただきまして、ありがとうございます。この列車は「こだま、631号」名古屋行きです。途中の停車駅は品川、新横浜、小田原、熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松、豊橋、終点名古屋です。」
「えっ。」
こういったのは留萌、木ノ本、萌。
「こらぁ。どこが「こだま」だ。」
「あれ、今なんか通過した。」
平百合が聞いてきた。平百合にはちょっとわからなかったみたいだ。
「そんなもん簡単だろ。」
高槻が口をはさんだ。
「高槻がこたえると面白くないだろ。」
答えを言おうとする高槻を制してから、僕が答えを言った。
「うん。通過したよ。三河安城を。」
「・・・なんだよその「こだま」。つうか「こだま」じゃねぇよ。やたら停車駅の多い「ひかり」じゃないか。」
「・・・じゃあ、今度は「のぞみ」作るかぁ・・・。」
「やめろ。」
平百合がそう言う。時計を見てみるともうすぐ授業が始まる。授業が始まるまではもうあと15秒ぐらいしかない。15秒の間にやろうとするのは困難だ。自分の席に戻って、授業の準備をした。今からやる摂津さんの授業のスタートは左手で右手を隠した状態で前で組む、接客業ならではのスタイルで男子もスタートする。態勢をとることはきつくないのだけど、笑顔を作るのが少しきつい。どちらかというと僕はしゃべっているときのほうが笑顔ができていると感じている。
さて、それが終わって摂津さんの授業がスタートする。やっている内容はこのごろ暗い話になって事故のこととなった。鉄道としてはとても重要な事故だ。桜木町事故と三河島事故だ。どちらも死者を100人以上出した鉄道事故である。恐らく皆さんの記憶からすれば、福知山線脱線事故のほうが理解しやすいかもしれない。なお、どのような事故かというと桜木町事故は列車火災。三河島事故は信号無視から始まる列車多重追突である。
そんな暗い話は前回の授業で脱出して、今回からはまた明るい話題も入って来た。昭和39年には東海道新幹線が開業するなど輝かしい歴史もある。
この授業が終了。次の時間も摂津さんの授業でやる場所はここ。移動する必要はない。また実習設備のほうで今度はさっき作れなかった「のぞみ」を作ってやろうとした。
「ご乗車ありがとうございます。今日も新幹線をご利用いただきまして、ありがとうございます。この列車は「のぞみ1号」博多行きです。途中の停車駅は小田原、熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松、豊橋、三河安城、岐阜羽島、米原、西明石、相生、新倉敷、新尾道、三原、東広島、新岩国、徳山、厚狭、新下関、終点博多です。」
「「ひかり」以下だ。お前。「のぞみ」迷惑すぎる。」
留萌が言った。
「だって、主要駅だけ通過して、どうでもいい駅に停車してるんだもん。」
「だからと言って、新大阪まで通過すな。」
「「名古屋飛ばし」もやめろ。」
平百合、木ノ本の順で文句が帰ってきた。その文句を受け付けていると、今度は学校の校内アナウンスが流れた。
「・・・台風が接近しているため、電車が動いているうちに速やかに下校してください。」
鉄道学科ではない他の学科の生徒が「ヨッシャー」と言っているのが聞こえてきた。よっぽどうれしいのかな・・・。
すぐに摂津さんが戻ってきて、全員にすぐに帰るように促していた。僕の方だってすぐに帰ることにした。こんな雨でスーツではたまったものではない。部屋に変えると今度は萌がまた僕の部屋に押し掛けてきた。
「ナガシィ。あたしは対抗して、東北でめいわくな列車作ってみたよ。」
いったい何を作ったのだろうか・・・。
「「あおば」新青森行き。」
「はっ。」
思わずそう言ってしまった。今東北新幹線に「あおば」という愛称は存在しない。「あおば」は東北新幹線開業当時に存在した、東京から仙台までの各駅停車の愛称だからだ。今は「やまびこ」、「なすの」にとってかわられている。
「もちろん停車駅は上野と大宮と仙台と盛岡と八戸だけね。」
「クッ。「あおば」じゃないよ。「はやて」だよ。」
それでは今出てきた「はやて」の説明に入ろう。「はやて」は現在の東北新幹線速達列車の一つである。「はやて」の途中停車駅は原則、上野、大宮、仙台、盛岡、八戸である。そして、列車によりいわて沼宮内、二戸、七戸十和田に停車する。(朝夕には仙台からの各駅停車も設定されている。)さっき萌が言った「あおば」は停車駅だけ見れば「はやて」である。
「はぁ、だったら「はやぶさ」各駅にするかぁ・・・。」
「フフ。そっちは「なすの」じゃん。」
「あっ。さっきの「あおば」はもちろん200系のオリジナルだからね。」
(どんだけ時代さかのぼれば気がすむんだよ・・・。)
しばらくの間こんな話で盛り上がった。と言っても半分知らなければ盛り上がれないかもしれない。そのあと床屋できった髪もある程度伸びてきたので、それは萌のおもちゃになった。そんなに僕はおもちゃにしやすいのだろうか・・・。そうは思ったけど、今日はやりたいことがあったから、僕はパソコンを開いて、インターネットでゲームをしていた。何か侵略するゲームだったりすると、僕の場合容赦しないというのが癖。戦力が最大になってから出ないと攻撃を仕掛けないというのがある。それをしてからパソコンを閉じた。これ以上やると視力がさらに低下する。まぁ、夏に帰った時に眼鏡は十中八九変わると思うしいいかぁ・・・。ではダメかぁ・・・。
近畿地方は台風の暴風域に入っていたのだけど、暴風域とも思えない風と雨。雨に至ったらほとんど降っていなかった。それに腹を立てて萌が、僕をくすぐるのは言うまでもないことだった。




