208列車 面談と伝言
「えー。今日8限目のホームルームで個人面談を受ける方。」
難波さんがそう言う。今日のホームルームから3週間くらいかけて個人面談が行われる。そのため、個人面談がない人は7限目のパソコン実習で終了するのだ。僕、萌、留萌はその内。今日面談があるのは暁から草津までだ。
パソコン実習が終了すると、
「面談やる場所は409号室だって。」
暁がそれを言いに来た。難波さんに聞いてきたのだ。
「あっ。了解。」
それに木ノ本が答える。
「じゃあ、僕たちは先にダンスの練習場に行ってるからな。」
「あっ。うん。・・・っていうか萌たちもダンスの練習見に行ってるんだ。」
「・・・暇だからねぇ。」
「・・・あたしも面談終ったら見に行こうかなぁ。」
「来たければ来てもいいよ。」
「・・・じゃあ、私もちょっと見て行こうかなぁ。面談終る時間までいるんだろ。」
それに頷いた。木ノ本は分かったと言ってから僕たちと別れて、僕たちはいつもダンスの練習をやっている場所に行った。
面談は暁から出席番号順に行われた。そして、木ノ本の順番が回ってくる。
「どうですか。学校始まってもう1か月たちましたけど、慣れましたか。それと一人暮らしにも。」
(暁がこういうこと聞いてきたって言ったけど・・・。)
「あっ。はい。何とか生活できてますし。」
「そうですか。・・・じゃあ、こちらのアンケートのほうに入っていきたいと思いますけど。」
難波さんはそうことわった。これは先週の金曜日に行われたアンケートだ。
「第1が東海さんということですけど、将来運転士ということですけど、榛名ちゃんは在来線か新幹線どちらの運転士になりたいと考えていますか。」
「あっ。具体的にはまだ決まっていませんけど、今は在来線のほうを強く考えてます。」
「・・・。」
そう言うと難波さんは少し考える格好を取った。
「東海さんはですねぇ、専門学校卒の人っていうのは大体新幹線の方に行くっていうのが今までの流れなんですよ。もちろん在来線の運転士になれないと言うわけじゃないんだけどね、在来線の運転士になるためには、新幹線の方で経験を積んでから、移動して、在来線のほうに行くか、ここの専門学校を卒業してから、大学に通って、在来線に入るしかないんですよ。」
と説明をした。
「えっ。そうなんですか。」
「まぁ、そういうことは今知ったことだと思うんですよ。」
確かに。これは今知ったことに変わりはない。専門学校からダイレクトで在来線に入れないということはこの先重要になると思われる。
「それにねぇ、この希望の中で書いてある鉄道会社の中でねぇ、東海が一番専門学校から入りやすいって言うのもあるんですよ。他の西日本とかだと入れないわけじゃないんだけど、専門学校の倍率が30倍とかってなって厳しいからね。ていっても東海の方だって、まず学校内推薦10人を通ってから30倍、50倍という倍率になることは変わらないんだけどね。」
「・・・。」
この先第5希望まである鉄道会社のこと。雇用関係のここ最近の動向などを聞いた。それ以外にも専門学校で自分に不都合はないかとか、得意・不得意科目はなんだとか。面談的には結構ソフトな話で終わった。
面談を終えてダンスをしているところに行ってみると自分よりも先に終わった近畿がまとめて、ダンスの練習をしていた。
「よーす。ていうか永島と萌は何してるんだ。」
「ああ。クラスの中でもいいカップルだから、難波さんと山城さん役をやってもらってるんだって。」
と答えたのは留萌だった。確かに。クラスの中で一番いいカップルだろう。ダンスはちょうどサビの手前だった。全員で真ん中にいる永島達に手を振る動作。
「ありがとうございます。清き一票をよろしくお願いします。」
と永島が言っている。こういうノリは関西人と勘違いしてしまいそうだ・・・。
「・・・あれ言い始めたの栗東君なんだけどね。」
と留萌が付け加えた。
(あっ。永島じゃないんだ・・・。)
サビに入ってから結婚式に参加しない永島達も一緒に踊った。曲が終了すると、
「いやな。なんで新郎と新婦まで一緒に踊ってるんだよ。」
「いや、そこ関係ないだろ。」
「だって見てるだけってつまんないんだもん。」
「まあまあ。来るか来ないかは別にして、二人とも踊りたいだけなんだから好きにさせとけばいいんじゃないの。」
近畿がそう言う。
それからまたダンスの練習。何回かやって最終の詰めとなった。
そして、しばらくの間近畿、僕、萌、木ノ本、暁、留萌で話をして、8時ぐらいに解散した。と言っても方向は全員同じなのだけど・・・。緑地公園駅の近くにある24時間営業のマックスによってから、コーポのほうに帰った。近畿を僕の部屋に招き入れて、近畿と僕で近畿がネットの中で探したネタ動画とかいろいろ見ていた。当然それには萌も交じってきた。
そんなことをやっていて、近畿が3時30分ごろにダウン。僕は4時ぐらい。萌もそれぐらいにダウンした。それで目が覚めたのは7時ごろ。起きるとフラフラで、これだと本当に倒れるのではないかと思った。8時ぐらいに朝マックス。近畿はそれから11時ぐらいまでいて、帰っていった。
「・・・。」
ベッドの上に横になる。こんなことをしていたら、絶対に眠くなる。このままでいたら、いつか眠って夜またすごいことになってしまうと思っていたが、今これは仕方がない状況。このまま眠っても何も言えないと思った。
うつらうつらして、どれぐらい時間が経っただろうか。インターホンが鳴った。
(誰だ・・・。萌じゃないよなぁ・・・。)
ドアを開けてみると、
「えっ。父さん。」
「おはよう。何とかやってるみたいだな。」
そこには父さんが立っていた。
父さんを中に入れる。父さんは何を死に来たかというと冬物の服と夏物の服を取り換えに来たのだ。会社の経営があるのに・・・。と言ってもそれは副社長に任せてきたのだ。
「なんで父さんがそんなことしにこっちに来たの。」
と聞いてみた。今日はほとんど寝てないから、ちょっと迷惑そうに言ってやった。
「お前に伝えることがあってきたんだ。」
そう言うと父さんは床に腰掛けた。
「伝えたいこと・・・。それって何。」
「お前。将来どこに行きたいって思ってる。」
「・・・東海。東海だけど。」
「・・・東海か・・・。よかった。」
(よかった・・・。)
「第2は。」
「西日本。」
「・・・第3は。」
「阪急。」
「第4は。」
「四国。」
「第5は。」
「江急。」
「・・・。お前それどれぐらいの気持ちで第5狙ってるんだ。」
(どういう意味だ・・・。)
僕にはそれの真意が分からなかった。これと言って狙っているわけではない。というかむしろ最終手段として考えている。だから、第5希望に入っていても僕にはいく気はさらさらなかった。
「最終手段。」
と答えた。
「・・・最終手段か。」
そう言うと父さんは立ち上がり、
「お前が卒業するときの求人のこと。今考えていることを伝える。その年に3人。団塊の世代の人たちが退職することが決まっているから、こっちとしてはその3人の穴を埋めてもらうっていう形で採ろうと考えている。」
「・・・。」
「その3人のうちにお前は採らない。」
「えっ。」
別に驚くことでもないかもしれない。しかし、最終手段と考えているところで採らないというのは・・・。
「どう・・・。」
「厳しい世界だ。東海に行きたいんだったら東海でも行け。自分が思ってる最高の場所に行け。最終手段なら、最初から無い方がいいだろ。きたくないんだろ。」
僕が言おうとした時父さんは言葉を並べた。
「・・・。」
「お前のためを思って言ってる。きたくない場所に来られてもこっちは迷惑だ。」
「・・・。」
「それだけ言いに来ただけだ。」
「・・・。」
「あっ。これはお前には直接関係はないけど、俺が会社を継がせるなら、淳平おじさんだと考えてる。」
淳平兄ちゃんは宗一の長男浩次の息子だ。これにはだからと言いたくなった。
「・・・文句ないよな。」
「あるもないも関係ないし。」
そうだ。僕は勉強するのが嫌だった。だからこっちに来た。机でかじりついた仕事ははっきり言ってしたくないからだ。
「・・・そうだったな。」
父さんはこのことも伝えたかったらしい。とりあえず、身内のことだし。それと宗一じいちゃんの1年忌には僕は参加しなくていいということも伝えたかったそうだ。




