207列車 六甲遠足
5月16日。近畿から家に来ていいかと申し出を受けた。これには来ていいと回答した。
次の週に入ると最終の詰めという感じでダンスの練習は行われた。しかし、5月17日。
「ナガシィ。そろそろ行こう。」
萌が声を掛けてくる。僕はいつも学校へ下げていくバッグを持って、部屋を出た。鍵を閉めてから、下に下り、自転車の鍵を取り出した。そして、またがり、いつも歩く方に向かってチャリを進めた。僕たちが住んでいるところは学校まで10分かからない。そんなところでチャリ通学が認められるはずはない。ではなぜチャリに乗っているかというと今日は行く先が学校ではないからだ。
時計を見てみると7時35分。この時間にはもうすでに阪急電鉄千里山駅に来ていた。ここから阪急六甲駅まで。今日は六甲山牧場のほうへ鉄道コース全員で遠足する日なのだ。
乗りつくしも兼ねて、阪急六甲にはタダではいかないことにしていた。まずは阪急千里線に乗り、終点の北千里まで。来た車両は相互乗り入れをしている地下鉄堺筋線の車両66系。この車両で北千里まで揺られ、折り返し天下茶屋行きの列車で阪急京都線と接続する阪急淡路で下車。そこから阪急梅田方面に向かう列車に乗り込んだ。その列車はたくさんの人が乗り込んでいた。僕たちもその列車に乗り込んだけど、乗ると後ろから人が押してきて、どんどん中のほうに追いやられていった。と言ってもまだドアの近くで済んだのが救いだっただろう。その状態が御堂筋線西中島南方と接続している阪急南方まで続き、その先は少し車内に余裕が出た。阪急の3大本線が集結する阪急十三を無視して、阪急梅田まで揺られる。鉄道雑誌の中には神戸本線の特急は阪急梅田発車の時点で、結構余裕があるそうだ。座るのだったら十三ではなく梅田からだろう。
確かにその通りだった。僕たちが乗った特急新開地行き(阪急7000系10両)はガラガラの状態で梅田を発車した。次の十三でも、そんなに状況は変わらず。先に先発している普通列車に重しをされながら、途中駅で抜き、阪急西宮北口に停車。この先阪急岡本まで行って、そのあとさっき抜いた普通(阪急8000系)に乗ってもいいが、僕たちはここで普通を待つことにした。その阪急8000系普通阪急三宮行きに乗って、途中の阪急六甲で下車。ここまで運んでくれた阪急を代表して、8000系をホームで見送り、改札のほうに向かった。
「さて・・・。集合場所のナズナってところ。近くには見当たらなかったけど、どこにあるのかなぁ・・・。」
と僕は萌に聞いた。昨日までの間に阪急曽根と阪急千里山どちらが近いのかということと阪急六甲には朝方一本(9時26分)急行が停車。そのほかの時間帯は夕方に通勤急行と快速急行が停車するだけということを調べておきながら、それだけ調べていないのだ。
「・・・とにかく改札のほう行ってみよう。」
萌がそう言うので、改札に行ってみた。改札のところへ行くとすぐに答えが出た。目の前にあったのだ。
「おはよう。起きれたよ。萌ちゃん。智ちゃん。」
瀬野の近くまで歩いていくとそう言った。そうそう。今瀬野が僕のことを「智ちゃん」と言ったように内山と蓬莱にも「智ちゃん」で通るようになっている。
「アハハ・・・。眠そうだね。」
「だってさぁ・・・。結構早く来ちゃったから・・・。でも、一人いてくれてよかったけどさぁ・・・。」
と瀬野は近くにいた人を見る。1年生ではなく2年生だ。ちょっと前に2年生と1年生の交流を深める目的で、2年生が歓迎会を催してくれた。確か名前は・・・。
「えーと・・・。三木先輩だったっけ・・・。」
「うん。もし、三木先輩いなかったらあたしここ通り過ぎてたか、自信持てなかったよ・・・。」
「アハハハ・・・。」
この後集合時間までしばらく時間があった。そこで、僕たちは専門の電車の話で盛り上がっていった。この頃鉄道業界研究の授業では列車進行方向前は白。後ろは赤のライトを点けているということを習ったばかりだ。僕と萌にとってはそんなこと当たり前だが、瀬野はそういう方面にはあまり知識がない。(阪神電鉄(車両のみ)は例外。)だから、どちらに進むかわからない写真を見せて楽しんだ。どういう写真かと言ったら、白と赤どちらも点灯しているものだ。
「ねぇ、ちょっと・・・。」
その話で盛り上がっていると三木先輩が声を掛けてきた。三木先輩は帽子を深くかぶっているから、目がほとんど隠れてしまっている。
「1年生の阪急班のリーダーまだ来てないみたいだけど、何してるかわかる。」
「えっ・・・。」
今日は阪急電鉄に乗ってくる人と阪神電鉄に乗ってくる人で別れている。それぞれリーダーが決まっていて、阪急のリーダーは草津。阪神のリーダーは近畿がやっている。
「よく分かりませんけど・・・。もしかしたら、途中で何か写真でも撮ってるのかもしれません。」
(よくやるなぁ・・・荒天の草津・・・。)
「そう・・・。」
と言ったところで草津も集合。後は高槻と木ノ本、暁が揃えば1年生は全員集合だ。
何とか時間通りには全員集合して、バスのほうに回った。バスにはもちろんのことながら、一般のお客さんも乗っている。一度では行くことができないと先輩たちは判断したため、僕たちは三木先輩と一緒に、阪神のほうからやってきた人たちが乗ったバスに乗り、六甲山のほうに向かった。
ここからお世話になるのは六甲山ケーブル。僕はケーブルカーには初めて乗る。いくらいろんなところに行っているからってすべての鉄道を乗ったわけではない(ここでは鉄道に部類される乗物)。ケーブルカーで山上まで来たら、その先はバス。ちょっとレトロ・・・いや、おしゃれなバスに乗り込み、六甲山牧場前まで来た。
「ちょっと記念撮影したいと思います。」
と言って、摂津さんがカメラを構えた。僕たちは思い思いにポーズをとる。
「もう1枚行きます。次はウェイティングポーズをしてください。」
また1枚。
「次は敬礼してください。」
でまた1枚。
「今度は変顔してください。」
変顔・・・。どうすればいいのか。変顔なんてまずしないし・・・。結局どうすればいいのかわからないままだったけど、先輩たちもこれ以上写真を撮られることを渋ったため、変顔写真は取られないことになった。しかし、ブログに載せるという写真を撮るためにもう一枚の写真撮影をすることになった。
それから六甲山牧場に入場。この先どうしようか・・・。
「うわっ。」
誰かが帽子をかぶせてきた。僕だった帽子をかぶっているのに・・・。瀬野が後ろにいた。
「やっぱり似合うよなぁ・・・。智ちゃん女の子みたいだから似合うんだろうなぁ・・・。」
「・・・。」
「眞実。こっちいかない。」
蓬莱が呼んでいる。
「あっ。うん。じゃあね。」
瀬野はそう言うと僕がかぶっている帽子を取ってかぶり、蓬莱と内山がいるほうに歩いていった。
「・・・。」
「・・・今度の誕生日プレゼントはそういう帽子にしようかなぁ。」
「やめて。」
(結構似合ってるみたいだけど・・・。)
「内心かぶりたいって思ってるくせに。」
「・・・おい。」
「かぶりたかったらお母さんにこっちに送ってもらうけど。私もこういう帽子持ってるし。」
「話進めないで・・・。」
そのあと園内を散策する。しかし、結構長い時間経っているから、足は限界に来ていた。チーズの製作体験をしている建物のところに来ると平百合と千葉がいた。
「おっ。永島。ちょっとこれ食べてみろよ。」
平百合はしきりにこっちに来いと手を振る。言ってみると平百合が何かを手に持っているのが分かった。
「食べろって何をだよ。」
「チーズだよ。チーズ。」
「これマジうまいよ。なんかチーズっていう感・・・。」
千葉がそう言いかけると、
「そうベラベラしゃべるなよ。」
と平百合が制した。そして、平百合は余っているチーズを僕たちに渡した。
「とにかく食べてみなよ。」
そう言われるがままに食べてみると確かにチーズを食べているという感じではなかった。まずでタルトのないチーズケーキを食べている感じがした。
「えっ。何これ。・・・これってチーズって呼んでいいもの。」
僕が感想を言うと、
「ホント。チーズケーキ食べてるみたい。」
萌が続けた。
「でしょ。」
この後僕はこのチーズを買おうかとは思ったけど、財政的に・・・。しかし、普段食べないアイスクリームを買った。お昼の時間になったので、売店が揃っているところに行ってみると瀬野や草津たちとも会った。というか1年生のほとんどの人が集結していた。
集合時間が近づいてきたので、入場ゲートの近くに集合。14時に解散が発せられる。これからダンスの練習がある人は全員ロープウェイのほうへ。この先何もない人はケーブルカーのほうへと別れた。
「はぁ。ちょっとここまで来たんだし三宮の方でも行ってみるかなぁ・・・。」
と瀬野がつぶやいた。
「私たちも三宮行ってみない。暇なのも事実じゃん。」
「・・・。」
「ナガシィ・・・。」
「・・・分かったよ。」
ケーブルカーに乗り朝来た道を戻る。阪急六甲に着いたとき阪急三宮行きの普通が発車してしまったため、僕たちは次の阪急三宮行き(阪急5000系)で三宮まで行った。僕たちのレベルで車両を見分けたいと思っている瀬野はしばらくホームで観察してみると言っていたけど、僕たちが目的としている8000系(特急梅田行き)が来たので、朝以来入れ替わっていた帽子をもとに戻して、僕たちは帰路に就いた。
今回からの登場人物
笹子観光外国語専門学校2年生
三木桜花 誕生日 1992年12月15日 血液型 B型 身長 167cm




