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MAIN TRAFFIC  作者: 浜北の「ひかり」
Sasago Vocational College Episode:1
201/779

201列車 クレペリン検査

 4月25日。今日初めて鉄道会社における適性検査の一つをやった。

 内田クレペリン検査。これは横に100列以上並んだヒトケタの数字の足し算をしていくものである。これはいま幅広い会社で行われているということだった。その幅広い分野の内に鉄道会社も入っている。難波(なんば)さんがテープをまわし、テープからクレペリン検査の試験内容が聞こえてくる。僕たちはこの用紙を渡されてから、まだ裏にしている。裏には1から小さい数字で結構な数まで並んでいる。100は優に超して、130ぐらいあるかもしれない。これから推測するにして、クレペリン検査には1列130ぐらいの数字が並んでいることだろう。もちろんその数字には何の規則性もない。

「もし、「はい、次」というまでに1列計算がすべて終了したら、「はい、次」という前に次の行に行って、「はい、次」と言われるまで計算を行ってください。」

(何。これ1分間にやりきっちゃう人いるのか。)

それを疑った。もし130の数字が並んでいるとすれば、129の計算。それを一分間に行ってしまうとなると。そして、2列目に突入するなんて今の段階ではまず不可能だ。

 しばらくするとクレペリン検査の説明が終了し、僕たちは用紙を表にした。まずデモンストレーションで計算を行う。そして、用紙をひっくり返して、次は「サキ➙」と書かれたところが左上に来るようにした。

「それでは鉛筆を持って、はい、始め。」

テープのこの言葉で一斉に全員が問題を開始した。最初の計算は7+5。当然これの答えは12。しかし、解答欄に二桁書けるほどのスペースはない。クレペリン検査は計算して、答えとなった数字の下一桁のみを記載するだけでオーケイ。作業量を測るテストである。

「・・・。」

教室の中には鉛筆でものを書く音しかしない。

「はい、次。」

テープから声がかかった。この声で次の2列目、3列目に移る。恐らく今の段階で3列目に移れる人はこの中にはいないだろう。

(9+4・・・。あっ。13だ。)

まずいと思った。こんなことで引っかかっていてはだめだ。しかし、しばらく計算するとまた引っかかった。こんなことではダメだ。自分にそう言い聞かせながら、計算する。しかし、さっき行った1列目より少しだけど、作業量は増えた。

「はい、次。」

この声で今度は3、5列目に移る。

(5+6は11、・・・3+4は7、・・・9+3は27・・・。いや、12。)

掛け算と勘違いし始めた。こうなったら余計に作業量は低下する。こんなこと考えてはだめだ。これは足し算だと言い聞かせて先に進む。教室の中からは休みもなく書き続ける音しかしない。始めてまだ3分たっていない。ここ3分ならまだ手に疲れは来てないだろう。そのためにスピードが全員早い。

(・・・ダメだ。)

「はい、次。」

また次の行に移る。今までで一番作業をした2列目はおそらく五十数個。最大がこれでは話にならない。さっき終わった3列目は四十数個。確実に2列目より少ないというのが現実だが、その差は5個ぐらいだ。

 4列目。5列目と進めていくうちにだんだん作業量が減ってきた。6列目は最悪。次の7列目で少し作業量は増えたが、8列目で7列目より一つだけ少なくなる。9列目、10列目とさっきの7列目より多くなる。そして、11列目。また低迷。12列目から14列目までまた巻き返して、15列目は8列目の水準で終了した。

 5分間の休憩。この間にテープは1分間に2列目に突入した人、もしくは行飛ばしをしてしまった人がいませんかと説いた。一人手を挙げた。水上(みなかみ)は受験経験者。もしかしたら、2列目まで突入したのかもしれない。

「・・・。」

「2枚目の用紙をもらった人だけ聞いてください。」

テープが2枚目をもらった水上(みなかみ)に対して、説明を開始した。2枚目をもらった人は次の15分間さっき僕たちがスタートした「サキ➙」というところからスタートする。そして、行飛ばしや2列目に入ることがなかった僕たちは真ん中の線より下にある「アト➙」というところからスタートする。

 5分経った。僕たちはまた鉛筆を片手に計算をスタートする。1列目は60個入ったかもしれない。次の2列目で50数個。3列目は50代の前半で終わった。恐らく40代後半ぐらいまでは計算をしただろう。しかし、その先からは低迷が続いた。

(クソッ。)

目を向いた。計算する鉛筆のスピードが上がるはずがない。しかし、ここで上げなければ・・・。これをもし60歳まで続けたいとなれば・・・。このふるいを12回通らなければならない。しかも、これで合否の50%が決まってしまうというから・・・。

 さっきの8列目は7列目よりあげた。しかし、9列目で再び8列目を下回る。これではダメだ。しかし、前半の15分間で確実に腕は・・・。痛いがこれを言ったらできるわけがない。それを我慢してひたすら書き続ける。

 結局10列目で上げてから11列目から15列目はどんどん下がっていった。しかし、それほど下がったわけではない。10列目からすれば10個以内の誤差で終了した。

「はい、次。」

テープはまだ終わっていない。僕はこのときまだ15列目に到達していないと思った。もちろん、これをやっている間に行を数えるなんて無理な話だ。上でいっていることはあくまでも経過なので、載っている数字はあくまで、僕がそう思ったところだと思ってほしい。

「はい、やめ。」

(えっ。)

明らかに1分たってない。しかし、テープが「やめ」と言った以上、これ以上先に進めることはできない。鉛筆を置き、用紙を眺めた。

「・・・。」

用紙を見ていると学校で少し練習していたが、自分の出来の悪さに絶望すら感じた。

「はい。皆さんお疲れ様でした。それではですねぇ、さっき鉛筆をこちらから持って行かれた方、使ってない鉛筆をこちらのほうに戻してください。使った鉛筆はまだ戻さないでくださいよ。」

難波(なんば)さんがそう言う。お疲れ様でしたの意味はいまがダメでも何となくわかる。僕の作業量はおそらく40×30行の1,200。30分間に1200の計算だけでもしんどいものだ。

「・・・。」

「それではですねぇ、次の時間ですが、みなさん疲れているでしょうから、5分遅らせて授業を開始します。それでは解散してください。」

難波(なんば)さんはそう言ってから、教室から出て行った。僕たちは次授業が行われる教室に教室を変えた。

「ナガシィ。どうだったクレペリン。」

(もえ)がそう聞いてきた。

「ダメだった。1分間でできた数が50何個じゃダメだ。もっと上。60個ぐらいできるようにならないと・・・。」

 休み時間が終了すると、難波(なんば)さんは5分遅れて教室にやってきた。これでクレペリン検査の採点をする。と言っても下準備をするだけだ。クレペリン検査の用紙には「サキ➙」、「アト➙」と書いてある間に太い黒と白の線が入っている。そこにはそれぞれ上と下に向かって太い筋が入っている。その筋は上下同じ位置からのびているわけではない。すべてずれて書かれている。そこから延びている方向に向かって青い筋を一本引く。上下各4本引いた。

 次は1分間に計算した両。最後に計算した個所の右側に位置している数字に赤い丸を付ける。これを各サキ15、アト15とする。しかし、アトでやった数は16。難波(なんば)さんが言うにはこの最後の16列目は無視していいらしい。上で述べたことを一つでも間違えると再検査になるので注意と言っていた。

 最後に赤い丸を付けた数字どうしを線で結ぶ。ここで気をつけなければいけないことはサキ15列とアト15列を線で結ばないことだ。これだけを気を付けて、クレペリン用紙の採点の下準備を終了した。

「はい。そこまで終了したら、今度は用紙を縦にしてください。「サキ」というのが自分の左下になるように紙を置いてください。そしたら、隣同士で、どうなっているのか確認してください。」

僕の隣は(もえ)だ。(もえ)の用紙を覗いてみた。ちゃんと引けているからオーケイだな。1列の作業量は僕と同じぐらいだった。

「では、これで、青い線が引かれたところありますね。」

難波(なんば)さんはそう言ってから、Dからアルファベットを書きはじめた。青い線を越すにつれて、C、B、Aとなっていく。そして、Aの上はⒶ(マルエー)だ。難波(なんば)さんはこれを書かなくていいと言った。僕のところは下から数えるとB評定の中にほとんどの赤丸がある。A評定の中にある赤丸は前半の8個と後半1列目の1個だけだった。

「これⒶ(マルエー)評定かA評定に全部収まっているっていう人。手あげてください。」

手を挙げたのは水上(みなかみ)だった。さすがにさっき2枚目をもらっただけある・・・。そして、もう一人いた。それは意外にも栗東(りっとう)だった。栗東(りっとう)もできるのか・・・。

「そう言う人は、夏に補習授業を行いますけど、参加しなくて結構です。ほぼ確実に合格するという人です。今度は手あげなくていいです。DとかC評定の方。そういう人はまず採点してもらえません。ブラックゾーンです。今度はB評定の方。その方は合格したとは言えません。ダークゾーンです。」

(・・・ダークゾーンかぁ・・。ダークゾーンだと切られるか切られないかわからない。でも、確実に切られるって思ったほうが・・・。)

「今、D評定の方いらっしゃると思います。今の2年生の中でもそういう人いました。しかし、今はみんなA評定以上になってます。ですから、皆さんもそうします。」

難波(なんば)さんが強くそう言った。

「・・・。」

「それでは、またこの用紙を回収したいと思います。僕は私は確実にD評定だと思う方から回収しますから、来てください。」

僕は前半8個がA評定の中に収まっていても後半で14個がB評定では・・・総合でB評定と判断されることだろう。僕はB評定だと思うところで用紙を提出した。提出をしているところでチャイムが鳴り、僕たちは教室から出て行った。

「はぁ、疲れた。」

近畿(きんき)が口を開いた。

「にしても水上(みなかみ)すごいな。あいつ2列目行ってたぞ。」

「・・・。」

「すごいなぁ・・・。」

「にしても疲れた。あれはきつい。あれでⒶ(マルエー)評定に行くなんて不可能だろ・・・。」

確かに、不可能かもしれない。しかし、今の先輩たちはA評定以上にいるのだ。当然Ⓐ(マルエー)評定をもらっている人たちだっているだろう。

「・・・。」

僕はそうなるためにここに来た。それを再認識した・・・。


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