200列車 放課後の談笑
4月24日。今日は学校生活3回目のスーツの日。全員スーツで揃ったのは2回目。4月17日だけは一人だけ私服で来てしまっていた。
さて、その話はさておき。この時期になってくると学校に慣れてきたり、慣れなかったりとしているけど、僕は学校には慣れてきた。萌もいることだし、楽しいというのは本当である。しかし、将来的に萌まで敵になるというのを考えるとちょっと複雑な気持ちだ。火曜日の授業は必修は7限目。16時10分まで。そのあとは選択授業になり、内容は手話。これを受けない木ノ本、留萌、暁たちはすぐにコーポのほうへ帰っていった。これを取っているのは僕、萌、近畿、瀬野、草津、内山。他の人たちは手話は受けないと言っていた。難しいからって言ってたけど、手話はそんなに難しいものだろうか。一度はまったことがある僕はそうは思っていない。
今日はその中で自分の出身地を手話で表すということをした。僕と萌は同じ浜松。僕のほうが先に回ってきたから萌のほうは何も困っていなかった。僕たちが浜松という手話を講師の生駒さんから教わると生駒さんは、
「浜松って言ったらウナギが有名ですね。あっ、うなぎパイもかぁ・・・。」
手話をしながら、そう言った。僕は生駒さんがやる手話全てが分かるわけではない。しかし、少しぐらいは何を言いたいのかわかる。まぁ、本当のろう者ではないからそういう風になっているだけだろうが・・・。
「えっ。あっ。はい。」
僕が反応すると後ろに座っていた近畿が、
「あれでどうしてうなぎパイになるんだろう。」
近畿はそれが疑問に思ったらしい。すると生駒さんは丁寧に教えてくれた。
「まず、両手を首に持っていきます。これでウナギのえらを表します。後は指文字を使って「パ」、「イ」とあらわす。これで「うなぎ」、「パ」、「イ」となるわけです。」
「・・・うなぎパイ・・・。」
近畿も含め見よう見まねで真似をした。しばらくすると授業が終了した。それで僕たちは荷物をまとめて解散する。
「いやぁ。あれで「うなぎパイ」とは思わなかったなぁ・・・。」
近畿がそうつぶやいた。僕だってあの手話は知らなかった。いや、忘れていただけかも・・・。僕が手話に興味を持ったのは小学校4・5年生ぐらいの話だからだ。
「・・・「うなぎパイ」ねぇ。手話って表情とかも大事になるから・・・。」
「えっ。てことは表情次第で生きてるウナギと死んでるウナギも区別できるってこと。」
「・・・まぁ、そういうことになるけど。」
僕がそう言ったら近畿は今にも死にそうな表情をして同じ「うなぎ」の手話をする。それに「パイ」とあとでくっつけた。
「かぁ。すごいうなぎ。そんなのパイになっても食べたくないわ。」
瀬野がつぶやいた。確かに。こんなウナギは食べたくないは僕だって同じだ。
「・・・そんなうなぎパイ販売されてないから安心して。」
「・・・あれあたし好きなんだよねぇ。でも、広島からだと遠いし、移動するだけでも結構お金かかるんだよねぇ・・・。」
「まぁ、そうだけど・・・。うなぎパイって一本一本包装されてるのが多いけど、わけありで袋詰めになってるのが販売されてるよ。少しは安く手に入るけど・・・。」
「へぇ。そういうのあるんだ・・・。」
「永島。「うなぎ」、「パ」、「イ」。」
「はまりすぎだって近畿。」
「これ明日学校行ったら蓬莱さんとかに見せてみよう。どんな反応するか楽しみじゃね。」
「・・・。」
そう言いながら学校の外まで出てきた。学校から出て、緑地公園駅に通じる方へ降りていく。内山とは緑地公園の前まで来たところで別れ、この場には僕、萌、草津、近畿、瀬野が残った。
「うなぎねぇ・・・近畿お前はまりすぎだって。よくそんなにウナギにはまれるな。」
草津が呆れたように言う。
「お前だって写真撮りにはまってるじゃないか。」
「まぁ、そうだけどさぁ。お前はある意味異常だって。」
「アハハハハ・・・。」
僕が緑地公園のほうを見るとあることに気付いた。袋を提げて、留萌がこちらに歩いてきたのだ。
「手話終ったのか。」
留萌がそう聞いた。すると瀬野が、
「お前さっき言ってたあれ見せてみろよ。」
「えっ。なんで今。」
「留萌だって手話の授業受けてないんだぞ。見せる価値あるだろ。なぁ、これなんて言ってるか答えてみろよ。」
勝手に話を進めていったので、近畿はあの手話をまず留萌に見せることになった。それを見せると留萌のは顔は当然のことながらポカンとした。
「なんだかわかる・・・。ヒントはねぇ。浜松に関係することだよ。」
「えっ・・・。もしかして、う・・・うなぎ。」
「おっ。うなぎは正解。」
「うなぎ死んでるじゃん。・・・蒲焼にするときに確かに生きたウナギ殺すけどさぁ・・・。」
「いや・・・今にも死にそうなうなぎ表現してるんだって。」
「死にそうだったら今すぐ殺してよくない。」
「おまえ怖っ。」
ここで最後にやっていた手話まで種明かし。うなぎパイを表現していたということだったが、留萌もあきれていた。留萌に対してこれで笑いを取るということは難しすぎたようだ。
「ふぅん。もういい。」
「あっ。いいよ。ごめんね。買い物の帰りなのに。」
留萌が去ってから、
「もうウナギの話やめにしようぜ。」
「そうだな。」
「でも、何話す。」
「ナガシィが鉄研部でどこが言った時の話でもいいんじゃない。それだったらネタ尽きないでしょ。」
「でも、あれは・・・。萌ほとんど聞いてるし、面白くもなんともないだろ。」
「私は確かにそうだけど、瀬野たちは聞いたことないんだから、別にいいんじゃない。」
「そう言えば、お前結構いろんなところ行ってるよなぁ。」
瀬野がつぶやく。
「・・・。でもあれほとんどが過酷だったからなぁ・・・。そんなにいい話じゃないね。」
「行ったところある場所って、博多と青森と富山だろ。」
草津が思い出すように言う。
「その過酷な思いでいってくれよ。」
瀬野がその話をしろと促す。僕の頭の中にはそれよりももっと面白いネタが浮かんだので、そっちを話すことにした。まず、全員に断わってから、
「臨地研修の話とはまた違う話になるんだけど、僕と木ノ本と留萌は鉄研部入ってたから、共通の話題になるんだけど、こっちの方が面白いからこっち話す。俺たちっていろんなところに展示しに行ったことがあるんだけど、・・・。」
それで話し始めた。
「ふぅん。結構いろんなことやってるんだな。あたしは模型持ってないからわかんないけど、走り悪いとそれは確かに腹立つよなぁ・・・。暴言吐きたくなるのも分かる気がする。」
「暴言吐きまくりじゃないか。」
「いや、それは僕が吐いてたわけじゃなくて、後輩が吐いてるだけで・・・。」
「・・・。他にもこういうことあったよねぇ。」
今度は萌が話に入って来た。
「ナガシィったらさぁ・・・。」
「あっ。その話。」
数分後・・・、
「うーん。そういうことでいちいちもめるわけねぇ・・・。」
「223系の1000番台か2000番台。をどっちが走らせるかかぁ・・・。まぁ、それでもめるんだったらまだわかるなぁ・・・。」
「じゃあ、お前の家にはメチャクチャ大きい模型があるのかぁ。うらやましいなぁ。俺はそういうことできないからなぁ・・・。」
「結構車両持ってるんだろ。阪神電鉄とか持ってないの。」
瀬野が言った。
「えっ。」
「あっ。あたし車両的には阪神電鉄が好きでさぁ。やっぱ赤胴車いいよね。」
「赤胴車なぁ。あれこのごろ赤じゃなくなってきたけどなぁ。」
「あたし的にはあの方が好きなの。5500系も223系もいいけど、一押しはやっぱ1000系と9300系でしょ。」
「・・・へぇ。瀬野は阪神電鉄派なんだ。俺は阪急電鉄派だなぁ。中でも「額縁」はいいじゃん。」
「「額縁」・・・。」
近畿の言葉に疑問を持った萌が聞き返す。
「あっ。知らないの阪急の「額縁」。8000系のことなんだけど。」
「ああ。8000系の初期かぁ。確かに。言われてみるとあれ「額縁」に見える。」
「やっぱ永島分かってる。お前阪急だったら何系好き。」
「えっ。俺はやっぱ8000系の「額縁」。あれ好き。他の8000系系列も好きだけど、一番好きなのはやっぱ「額縁」。」
「「額縁」かぁ。さらにいうと俺はあの8000系の中でも8008が好きなんだよな。8000系の中じゃあ唯一のシングルパンタ車じゃん。だからあれ好き。他の9000系とかはちょっと微妙。・・・他にも321系とかも好きだなぁ。」
「あっ。王寺に住んでるんだったら221系のほうだと思った。」
草津が口をはさむ。
「いや、あれも好きだよ。でも、お前「アメニティライナー」知ってるとはなぁ・・・どんだけ詳しいんだよ。」
「「アメニティライナー」知ってるやつは知ってるよ。」
「ああん。話し戻すけど、家には阪神とか私鉄系の模型はほとんどおいてないんだ。」
「ほとんどってことは少しはあるんだ。どこの会社のやつ。」
「GREEN MAXの名古屋鉄道だったかなぁ。「パノラマスーパー」おいてるのは知ってる。」
「「パノラマスーパー」って全車特別車だった1000系のほう。」
「うん。それの今の形態のやつがあったと思う。」
「ふぅん。」
そのあとも模型の話。みんなが体験したりした電車の話。特に僕に意外だったのが中学生ぐらいでやったと思う職業体験のこと。広島のほうは最初から体験先が決まっているわけではないと聞かされて、うらやましいと思った。僕だって自由だったら自分のところに行きたかったぐらいだった。
翌日。近畿が昨日言っていたことを教室でやっていた。これにメチャクチャ受けていたのは木ノ本だった。
今回からの登場人物
笹子観光外国語専門学校
生駒重樹 誕生日 1960年10月13日 血液型 A型 身長 170cm




