婚約破棄をしなかった馬鹿王子の生活
私の婚約者がおかしくなった。
熱病から治った後、エーストが入れ替わったようだ。歩くときの重心が高い。扇の使い方が変だ。
それはよい。
そして、何よりも軽くなった。
頭は良いかもしれない。不思議な知識があるかもしれない。
しかし、話す内容は恋愛の話ばかりだ。
とても国家を背負う侯爵令嬢だとは思えなかったよ。
もしかして、化外の民に乗っ取られたのかと思い。
「だから、私は逃げだしたよ。こうしてここで冒険者をしているのだ。かれこれ三年前の話だ」
ここは辺境の酒場、同じテーブルになった奴らに俺の不思議な話をした。
すると、西の国出身の男が話し始めた。こいつは商人か?
「そういや、隣国の王子が・・・留学が急遽取りやめになって、本国に帰ったと、ちょうど、その時期ではございませんか?」
「隣国の王子、ルーズベルトの事か・・・帰る理由はないはずだが・・」
「あたしゃ、ちょうど三年前に王都の冒険者ギルドにいましたが、その時、侯爵家の養子が急遽、ご実家に返されたと噂になったわ・・・」
「ああ、侯爵令嬢フラリスと俺との婚約がなくなって、フラリスが家を継ぐから、実家に帰されたのだろう。悪いことをしたか?」
次々に話が出てきた。
たわいもない話だ。
「大公殿下が急に学園の卒業式に出席したとか?」
「宗主国の皇子が何故か嫁取りに現れたとか・・・だけど、この国では見つからなかったようだ」
「フ~ン。何故だろうか・・・まるで三年前に大物貴公子たちが王都に現れているようだな」
その時、酒場の扉がガン!と開いた。
「はあ、はあ、見つけた!ゲルハルト・・」
「フラリス・・・・何故、ここに?」
ドレスを着ているが、ボロボロだ。まるで喪服のように地味だ。
「早く婚約破棄をしなさいよね!」
「・・・何を言っている。手紙を届けるように言っておいたぞ。婚約は解消すると」
「婚約破棄でなければ意味がないのよ。このゲームはね!フラグがあるの!」
「もしかして、お前、俺が出奔してから誰とも婚約を結んでいないのかよ?」
「そうよ。一応、貴方との婚約は続いているのよ!その間に第二王子も騎士団長の息子も・・・隣国の王子も皆結婚したわ!まだ、隠れキャラが残っているのかも・・」
意味が分からない。
だが、相変わらずだ。とても軽い・・・
だから、俺は・・・素直に聞いた。
「そうか、フラリスとの婚約を破棄する。これでよいか?」
「ええ、そうよ!」
そのまま去りやがった。
だが、これ以降フラリスの話は聞かない。
王族との縁もないようだ。
後にどこかの子爵家に嫁入りをしたと聞いた。
侯爵家はまた別の養子を迎えたそうだ。
「しかし、ゲームとは何だ?」
時々、未来の事が分かる者が来るそうだ。そのことを隣にいる女魔道師に聞いて見た。
「ゲオハルト、もしかして、奴らは神ではないですか?この世界を作った一族」
「まさか・・・・でも、もし、そうだとしたら、一時の恋愛遊戯を楽しむために俺らは作られたのか?」
「どんなあり得ない話でも消去法で残った事実が真実よ」
「はあ、さすが、この辺で一番の女魔道師は違うね。でも、妙に納得できる。この世界は不完全だ。不完全な物が適当に作ったから悪がはこびっているのかもな」
「そんな事よりも稼ぎましょう。あなた」
「はいよ」
実際はただの夢見がちの女の戯言だったのかもしれない。
しかし、俺が危険を感じて逃げたのは確かだ。
故に今、女魔道師と知り合えた。
それでよい。日々、精一杯に生きるだけだ。
最後までお読み頂き有難うございました。




