第7話 同じ女の子だから
「ごめん待った?」
「ううん。僕もさっき来たとこ」
「お腹空いてる?」
「朝ごはん食べたの結構前だからそこそこ空いてる」
「じゃあ先にご飯にしよっか」
「いいね。賛成」
七海さんが歩き始めるのを見計らって隣に並ぶ。
昨日の宣告通り、僕は演技のなんたるかを教えてもらうことになったのだが、まさか二人きりで映画を観に行くことになるとは……。
土曜日なのもあって、ショッピングモールは人で溢れかえっている。
中の装飾はもちろんクリスマス一色。赤と緑のリースだけじゃなく、イルミネーション用の煌びやかな電飾もちらほらある。
冬休みばかり気にしていたけど、クリスマスもすぐそこまで来ているのだと気づかされる。
「何食べたい?」
「カレー……あ、オムライスいいな」
パッと浮かんだのはカレーだが、目に入ったオムライス専門店の看板が僕の興味を上書きした。このショッピングモールには何度も買い物に来ているけど、このお店にはまだ入ったことがない。
「ここにする?」
「うん。七海さんもオーケー?」
「私も大丈夫。オムライスすっごい久しぶり」
意見も合致したところでお店の中に入る。
まだお昼時なのもあって人が多く、受付で名前を書かされはしたが、十分も待たないうちに席に案内してもらえた。
「わぁ〜何食べようかな〜。あ、ピザとかもあるみたいだよ」
「これにしよ」
「え、はやっ!」
「もう絶対これ。これが食べたい」
メニューを開いて真っ先に目に入った、大きなハンバーグの乗ったオムライス。デミグラスソースがたっぷりとかかっていて、想像せずとも美味しいのがわかる。ハンバーグとオムライスの共演とか最高に決まってる。
「私はどうしようかな〜。同じのにしようかな、でも食べ切れるかな……」
「ゆっくり決めていいよ」
僕とは対照的に七海さんは迷っている様子。
オムライスだけでもかなり種類があるみたいなので、あれこれ迷うのも無理はない。僕みたいに稲妻が落ちる衝撃的な出会いはそうそうない。
「楠君って、外食の時は迷わないでスパッと決めちゃうタイプ? 意外」
「ううん、どちらかというと迷うタイプ。今日がかなり特殊」
「ふーん。ハンバーグ好きなの?」
「好き」
「〜〜っ」
「七海さん? どしたの?」
普通に答えたつもりなのだが、七海さんは目を背けて注文用タブレットで顔を隠してしまった。
もしやハンバーグが好きで子供っぽいと思われた?
でも男子ならみんな好きだよね? ハンバーグ。
「ふぅ……私これにする。注文しちゃうね」
「よろしくー」
カコカコとタッチパネルを操作して注文を送信する七海さん。
何を頼んだのか気になるが、どのみち料理は遅かれ早かれ運ばれてくる。今は待っている時間も楽しむべきだろう。話したいことも気になることもたくさんあるのだから。
「楠君はカレーとハンバーグだったらどっちが好き?」
「ハンバーグ」
「シチューとハンバーグは?」
「ハンバーグかな」
「気持ち良いくらいの即答だね。なるほどなるほど」
そう呟いて七海さんは口元に手を当てて何やらぶつぶつ呟き始めた。
これまで学校では顔を合わせていたけど、こうして休日に七海さんと会うのは初めてだ。
というより、同じ学校に通う女の子と遊びに行くこと自体初めてだ。麻央は幼馴染だから別として。
制服や体操着姿でイメージが固まっているせいか、私服姿だとちょっと不思議な感覚だ。
「そういえば楠君の私服姿初めてだ」
七海さんがじっくり見てくるので僕もお返しする。
トップスは暗い色のニットカーディガンで、中に見えるシャツは明るいボーダー柄だ。ボトムスは緩めのデニムパンツで全体的に冬らしい格好だ。髪型はいつも通りでメガネもかけているけど、学校の時とは全然雰囲気が違う。
「そういえば今日観る映画について話したっけ?」
「少し。七海さんの好きな女優さんが出てるんだよね」
「そう、男女共学の高校が舞台の恋愛ものなんだけど、お話はシンプルだからすぐに入り込めると思うよ」
「恋愛ものかあ……僕ドラマでもそんなに観ないんだけど大丈夫かな」
「大丈夫大丈夫! 全部私に任せて!」
「そ、そう……」
七海さんが演じるわけでもないのに何を任せればいいのやら……。
ネタバレは勘弁してほしいなあ。
「学園恋愛ものだから今の小鳥遊さんが演技なのか本音なのか比較できると思う」
「そうかなあ……七海さんも知ってるだろうけど、麻央ってかなり変わってるから当て嵌まらない気もするんだけど」
「え? 何? 観る前から言い訳かな?」
「いや、そんなつもりはないけど」
「何度でも言うけど小鳥遊さんは絶対に本心だよ」
「だったらこっちも何回だって否定するけど、絶対に僕を揶揄ってるだけ」
「いいえ違います。同じ女の子だからわかりますー」
なるほど。僕の幼馴染という言い分に対して、七海さんは同姓であることをぶつけてきたか。覆し用のない事実なだけに手強いな。
「じゃあ逆に聞くけど、麻央が僕にそこまで……その、甘い感情を持つ理由がある? ないと思うんだよね」
「いや普通にあるでしょ」
真顔で即答された。
「あ、お料理来たみたいだよ」
配膳用のロボットが頭にオムライス二つを乗せたまま待っていた。
「食べよっか。この続きは映画の後でね」
「そうだね」
早速ハンバーグとオムライスをソースと絡めて一口……。
「うまっ!」
「ふふっ。楠君子供みたい」
少し恥ずかしいけど美味しいのだから仕方がない。




