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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第三章 『ガラクタピエロと泣かないシンデレラ』
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第5話 誰かがいてほしい図書室

 担任の先生の挨拶と同時にチャムが鳴り、帰りのホームルームが終わりを告げる。

 放課後になった時に生まれるこの独特の開放感は、学校という特殊な環境下ならではと思う。特に金曜日となればクラスメイトの談笑も三割り増しで賑やかな気がする。

 

 冬休みまであと少しもないことも関係しているのだろう。

 受験勉強でいっぱいいっぱいになってしまうのは目に見えているけれども、長期休みというのはどうしても気分を浮つかせてしまう魅力があるのだ。


「ハルー、帰るよー」


 ここに平日も土日も冬休みも関係なく、ゲームに明け暮れる困った女子が一人。

 半年前だったら麻央が僕に声をかけた時点で大事になっていたのだが、文化祭以降、幼馴染という関係が学校中に知れ渡ってからは当たり前になっている。人間の適応力の高さに感服だ。

 他のクラスの生徒も『あの二人ねー』『はいはい幼馴染幼馴染』とすっかり関心がなくなっている。やはり噂というのは一時的なもので、人間必ずいつかは飽きが来るのだろう。


「ごめん。今日は残るから先に帰ってくれ」

「少しなら待ってるよ」

「ちょっと長くなると思う。待たせるのも悪いからいいよ」

「ふーん。あっそ」

「また週明けな」

「照り焼きハッピーバーガーでいいよ」

「え……埋め合わせするって意味じゃないんだけど」

「ソース多めでサイドメニューはポテトね」

「聞いちゃいない……しかもセットかよ」


 一緒に帰らない埋め合わせにハンバーガーを奢れとはとんでもない要求だ。大昔にあった通行手形もいいとこだ。これじゃ小遣いがいくらあっても足りやしない。

 学校指定のバッグを揺らしながら麻央が教室を出る。たまには一人で帰る日があっていいと思うのだけど、どうやら麻央はお気に召さなかったようだ。


「さて、僕も出るかな」


 バッグを背負って教室を出る。昇降口には降りずにそのまま廊下を進む。

 麻央にこんなこと言ったらハンバーガーが一個増えてしまいそうだが、先生に呼び出されたわけでも何か目的があるでもない。ただ、今日は真っ直ぐ家に帰る気になれなかった。

 これといった明確な目的もないのだけど『こうだったらいいな』とか『こうならないかな』といったちょっとした願望みたいなのはある。


 ——例えば、誰かも学校に残っていないかなとか。


 すれ違っていく他のクラスの生徒の様子は様々だ。

 授業で疲れ切っていたり、週末の予定を友達と和気藹々と話していたりと、いかにも放課後って感じの雰囲気。

 僕はそんな賑やかな空気に当てられながら、ちょっとずつ静かな方へと進んでいく。

 ポツリと佇んでいる図書室が目に入る。昨日もここで少し勉強してから帰ったけど、今日は調べ物や勉強で訪れたわけじゃない。


 ——誰かがいたらいいな。


 少しの希望的な願望というか、側から見たらちょっと気持ち悪い行動だったりする。

 はっきり言ってめちゃくちゃ不純な動機だ。

 中を覗いてすぐに心臓が主張するのを感じる。

 自然な様子を装うために、僕は一呼吸入れてから中に入った。


「失礼しまーす」


 声のボリュームを絞れるだけ絞った。

 他に一人しか生徒はいないけど、教室と同じノリで入るのは違うと判断した。


「あれ? 楠君?」

「こんにちは。七海さん勉強?」

「うん、そんなとこ。楠君も?」

「そんな感じ」

「……」


 軽く言葉を交えて僕は本棚に目を向ける。

 普段全く読まないような本がずらりと並んでいる。はっきり言ってこの空間に用があるだけなので、本棚を眺めるのは全くの無意味なのだ。


「……バッグ重くない? 下ろしたら?」

「あ! そうだね! 確かに!」


 昨日は普通に話せていたのに、どうにもぎこちなくて仕方がない。

 完全に二人きりというシチュエーションが僕の調子をこんなにも崩している。意識するなって方が無理な話だ。


「ここ座っていい?」

「どうぞ」


 口元を押さえながら七海さんが小さく頷く。

 ホッと短く息を吐いて僕は腰を下ろす。

 七海さんのスペースに入り込まないよう同じように勉強道具を広げる。

 環境委員で隣同士の席ではあったけど、こうして向かい合わせに席に着くのは初めてだ。


「なんか環境委員の時思い出しちゃうね」

「僕も同じこと思った」

「ね。花壇の手入れした時もこんな感じだったよね」

「懐かしい〜結構大変だったよね。そういえば僕、初日に一人で教室の掃除させられたっけ」

「違うよー。楠君が教室やってる間も私は真面目に廊下の掃除してました」

「え〜」

「え〜じゃありません」


 さっきまでの微妙な緊張はなんだったのか、一度会話に入るといつも通りの雰囲気になれたことに胸を撫で下ろす。


「……七海さんは放課後は学校で勉強してるの?」

「ううん。私はすぐに帰る人」

「そっか。じゃあ今日はちょっと特別なんだ」

「楠君は? あ、訊くまでもないか」

「う、うん。まあね……」


 七海さんが途中で訊くのをやめたのは他の生徒同様、僕が麻央と登下校しているのを知っているからだろう。


「昨日の続きの話をしたくてさ、ちょっと残ってみたんだ」


 頭で整理できていないのに口から勝手に出てくる。

 そうさせているのは、やっぱり昨日の七海さんの思い出が原因なんだと思う。


「図書室に七海さんいないかなって……実はちょっと探してた」

「私も、楠君が最近図書室で勉強してるって聞いて……待ってた」


 僕は勿論だけど、七海さんもどこか変なのかもしれない。

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