第39話 気になってたけどさ
「ふう……半年しか集まってないのに、随分しっかりしたお別れ会してもらっちゃったね」
「みんな普通にお菓子持ち出してたのに先生何も言わないし、うちの学校ってそんなに校則緩かったけ?」
「まあまあ、今日はきっと特別なんだよ。多分先生にも許可もらってたんじゃない?」
「それはいいとして、平山の奴、こんな時にも途中から居なくなったよな」
「あ、あはは……」
お菓子や寄せ書きを抱えた七海さんが苦笑いを浮かべる。
文化祭の振替休日の翌日の登校日、放課後になると環境委員の後輩達に呼び出された。委員会活動でお馴染みの学習室に連れて来られると、サプライズでお別れ会的なものが準備されていたのだ。
七海さんの言う通り、たった半年の付き合いだっていうのに、お菓子やジュースだけじゃなく、寄せ書きまでもらった。中には泣いている後輩もいて、環境委員会での活動を思い返えさせられた。
初めは多数決で一方的に押し付けられて、嫌で嫌で仕方がなかった。
でもやってみると意外と楽しいこともあって、七海さんと話す機会もできたりで、気づけばあっという間の半年間だった。
ちょっと大袈裟かもしれないけど、部活と勉強しかしてこなかった僕に新しい時間をくれた。
「でも平山さんがサボったり、途中から居なくなったりするのも含めて私達らしくていいんじゃない?」
「でも最後くらいはなあ……」
「いいのいいの」
言って七海さんはクスクスと笑う。
環境委員になってなってなければ、七海さんとここまで仲良くなることもなかっただろう。話すこともないまま卒業していたと思う。
今だったら絶対に考えられない。
美咲の時もそうだったし、今回も七海さんには色々相談に乗ってもらった。
麻央と付き合ってる噂が流れた時は気まずくなってしまったけど、今はこうして普通に話せている。
「楠君? どうしたの?」
「いや……なんでもないんだ」
「え〜? 怪しい〜」
揶揄うような調子で顔を覗き込んでくる七海さん。
環境委員の集まりがあるうちは喋る機会があったけど、これからは顔を合わせる時間もなくなるよな……。
クラスだって違うし、共通の趣味もない。
小学校も違うし、部活も違ければ、親同士の交流があるわけでもない。
そう、委員会活動でたった一回一緒になっただけなんだ。
入学式の日に僕が声をかけたのもそういえばあったな……全然覚えてないけど。
「あ、そうだ。楠君は寄せ書きになんて書いてあったの? 見せて」
「ん? いいけど多分七海さんと似たような感じじゃないかな?」
身体を寄せてきた七海さんに文字でいっぱいの寄せ書きを見せた。
まだ一つも目を通してなかったから、実を言うと僕も少し楽しみだったりする。
『お世話になりました』とか『受験頑張ってください』とか無難なのがほとんどだろうけど、ここまで色紙いっぱいに書いてもらえると嬉しいもんだな。
「七海先輩と仲良くしてくださいね」
ん?
まあ、あれか。活動中によく怒られてたから、気にかけてくれたのかな?
なぜか七海さんが声に出したのが気になるけど……。
「七海先輩のこと泣かせたら承知しませんよ!」
……だからなぜに七海さんは声に出すんだ。
「楠君、ほらほらそこ読んで」
「また三人で顔出しに来てくださいね」
「ちーがーうー。その上だよ」
やたらと気分が上がっている七海さんに促され、他の書き込みにも目を向ける。
『七海先輩と末長く!』『七海先輩大事にしてくださいね!』『先輩と七海先輩のやりとり好きでした』とほとんどが七海さんとのことが書かれていた。
七海さんが指した書き込みはというと。
『七海先輩のこと大事にしてください!』
「……読むの?」
「っ!」
無言で力強く頷かれた。
ついでに返事の代わりなのか足を踏まれた。
どうやら後輩達の中では僕と七海さんはセットというか、同じ三年なのもあって仲良しでいてほしいようだ。
だったら平山も書かれてそうだけど、やっぱりサボってたのが不味かったんだろうな。
「楠君? 早く、読んで」
「なんか恥ずかしいな……」
「どういう意味?」
「ひっ!?」
ものすごい剣幕で凄まれた。
普段の優しい雰囲気とのギャップがあり過ぎて別人かと思った……。
大人しい人が怒るとこわいと聞くけど、七海さんはその典型なんだろうな。怒るタイミングがイマイチ理解できないけど。
「……七海さんのこと大事に——」
「ハル〜。帰るよ〜」
「あ、麻央」
「……っ」
階段を降りながら気怠げに呼びかけてきたのは麻央だ。
急に声をかけられて驚いてしまったのか、七海さんは身体をびくりと跳ねさせて飛び退いてしまった。
「終わった?」
「うん。ちょうどお開き」
麻央が足早に駆け寄ってくる。
「なにしてたの?」
「環境委員の送別会だよ。ほら、この前の文化祭で終わりだったから」
「お菓子いいなあ」
「僕じゃ食べきれないから後で少しあげるよ」
「やった」
「そうだ七海さん。さっきの続きけど——」
「いいのいいの! さっきのは忘れて! 全部! あ……」
七海さんが両手を前に出した拍子に、手に持っていた物が床に落ちてしまった。
「大丈夫?」
「ごめんなさい……迷惑かけちゃって」
「こんなの迷惑のうちの入らないよ。ほら、麻央も手伝って」
「ん」
落ちてしまったものを全部抱え直すと、七海さんはまた距離をとってしまった。
「ねえハル、あと帰るだけでしょ?」
「うん、カバンとってくるから待ってて。七海さんは?」
「いい……私今日は勉強して帰るから」
「そっか。じゃあ麻央、すぐ行って戻ってくるよ」
抱えてるお菓子や色紙を落とさないようにかつ、足早に階段を駆け上がった。
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「ねえねえ、わたしのことじーっと見てどうしたの?」
「あ、その……なんでもないの。ごめんなさい小鳥遊さん」
「……文化祭実行委員の時からずっと気になってたけどさ」
「?」
「七海さんとわたしって昔どこかで会ったことある?」




