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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第35話 バカザコゴミクズクソハル裏切り者ムカつくうるさいむっつりスケベ大嫌い 大嫌い!

「麻央、入るぞ」


 ドアを控えめに三回ノックして部屋の中に入る。

 入った瞬間に僕の部屋とは全く違う匂いが鼻腔びこうをくすぐり、男子と女子の違いをこういうとこからも実感させられる。

 自分の部屋にノックして入るという意味のわからないことを最近したばかりだが、大丈夫、今度はちゃんと使い方もシチュエーションも合っている。


 部屋の中はカーテンも窓も完全に閉め切っていて、電気もついていない薄暗い空間になっていた。

 閉め切っているからなのか、熱がこもっているようで、暖房をつけていなのに秋らしくない部屋に仕上がっていた。


「麻央?」


 ベッドの膨らみに向かって声をかけるが返事はない。

 少し前にも麻央の部屋には入ったけど、小学生の頃から色々と物の配置が変わっていることに今更になって気づく。昔よりピンク色の割合が減り、ゲーム用のモニターや椅子が設置されている。据え置きのゲーム機の隣にかけてある高そうなヘッドフォンも、恐らくゲーム用の特別性のものだろう。

 

 僕があれこれ部屋の中を見回していると、毛布がモゾモゾと動き、小柄な女の子がむくりと起き上がった。


「……何しに来たの? ママは?」

「おばさんなら普通に入れてくれたぞ?『元気ないみたいだから遊んであげて』って」

「はぁ〜っ………つっかえな」


 ボサボサに広がった髪を手で抑えながら麻央が俯く。

 寝ていたわけではなかったようで、頭はそれなりに回ってそうだ。僕としては願ったり叶ったりだ。


「てなわけで遊びに来た。麻央、ゲームしよ」

「やるはずないでしょ。帰ってよ」

「いいじゃん。好きだろ? ゲーム」

「ゲームは好きだけどハルは嫌い。大嫌い」

「幼馴染なんだからそんなつれないこと言うなって」


 自分の部屋から引っ張り出してきた据え置きゲームをモニターに繋ぐ。


「はあ? さっきわたしに言ったこともう忘れたの? クソハル死ね!」


 ボフっと背中に枕らしきものが当たる。


「おっ。サンキュー」


 偶然飛んできた枕を抱え込む。

 この大きな枕はゲームする時ちょうどいいクッションになるのだ。麻央がそうしているのを何度も見ている。


「返せバカ!」

「じゃあ僕とゲームで勝負だ」

「やらないって言ってるでしょ。ゴミクズハル! わたしのこと猛毒女って言ったくせに! 帰ってよ!」

「あっそ。だったら勝負してくれるまで帰んないぞ? いいのか? 早く帰ってほしかったら、さっさとやっつけちゃった方がいいんじゃないのか?」

「その手には乗らないから」

「へー。負けるのが怖いんだ。たかだか部活と勉強ばかりの僕に勝つ自信がないと。麻央のゲーム好きってその程度だったんだな」

「……カス挑発ウザすぎ」

「そっかそっか〜。麻央ちゃんは大好きなゲームですら大嫌いな僕に勝てないんだね」

「殺す。死ね。いいよ、そこまで言うならぶっ潰してやる」

「言っとくけど、僕はこの時のために仕上げてきたんだからな? 吠えづらかくなよ?」


 麻央の家に来る前に一時間ほど練習した程度だが……ちなみにブランクは三年以上。

 足りない分は気合とセンスでカバーだ。


「楽に負けられると思わないでよ? 来世まで引きずるくらいペシャンコにしてやるから」


 麻央がコントローラーを手に取り、ゲーム用の椅子に腰をかけたところで本体の電源を入れる。


『ぽにょぽにょ!!』


 ポップな丸っこいキャラが画面一面にあふれ、女の子のキャピキャピした声でゲームタイトルがコールされた。


「……なに? ぽにょぽにょで勝負すんの?」

「もちろんだ」


 なんせ僕は昔からこのゲームでしか勝負にならない。他のゲームだとサンドバッグにならないレベルで瞬殺されてしまう。


 それでも一度も勝てたためしがないが……。


「ま、いいけど。わたしが勝つに決まってるし」

「手加減なんていらないからな。小学生の頃と同じと思うなよ」

「ぶっ潰すって言ったじゃん。わたしが勝ったらなんでも一つ言うこと聞いてもらうから」

「臨むところだ」


 と啖呵たんかを切ってみたが、僕の目的は違うところにある。

 勝ち負けじゃない。麻央と一緒にゲームをするのが至上命題なのだ。

 それでも一筋縄ひとすじなわでいかないとわからせてやらないとな。幼馴染は何事も対等でないと。



 **



「ざっこ」


 普通に秒殺されました。


「……くっ」

「『……くっ』じゃないんだけど? 悔しがれる程勝負になってないよね。弱過ぎてこっちがムカついてくる」

「まだ一本とっただけだろ。勝ってから言えよ」

「弱過ぎて力の違いも理解できないんだね」


 ちなみに僕が持ってきたのは落ち物パズルゲームだ。可愛らしいマスコットキャラクターを色ごとに揃えて消していくという至ってシンプルなルール。消していくと相手の場にお邪魔キャラクターが出てきて、最終的に相手の画面を埋め尽くした方が勝ち。

 マスコットキャラを揃えると、自分のキャラが魔法を唱えたりして喋るのだが、これがキャラ毎に個性が合って楽しい。

 もっとも麻央のキャラばかりが喋っていて、僕のキャラは苦し紛れに弱い魔法を撃つだけだ。


『たあっ! フレア! スパーク! ハリケーン! アクアプリズム! ネクロホール! ぽにょにょーん! ぽにょにょーん! ぽにょにょーん! ぽにょにょーん! ぽにょにょーん!』


「で? 何本勝負だっけ?」

「さ、三本……」


 麻央のキャラクターがギラギラした目で魔法を唱えまくっている。

 連鎖は絶え間なく続いていて、麻央はコントローラーを置いてスマホを弄り始めてしまった。


『ぎゃっひぃん!!』


 あまりにも酷いやられザマだったせいか、僕のキャラが聞いたことのないボイスを発する。

 もしかすると隠し要素なのかもしれない。


「ま、まだだ! ここからが本当の勝負だ!」


 コントローラーを握り直して画面を睨みつける。

 目を回してガックリと項垂れているように見えるが、僕のキャラクターもこのままじゃいられないだろう。


『たあっ!』

「バカ」

「な……なに!?」


 麻央の奴、キャラクターのボイスに合わせて僕の悪口を?


「バカ ザコ ゴミクズ クソハル」

「くっそ……! よくも次々と」

「バカ バカ バカ ザコ」

「このっ! わざと連鎖切ってるだろ!」


 だがそのおごりと傲慢ごうまんさが命取りだぞ麻央!


「あ」

「ここからは僕の反撃だ」


 一定以上相手の攻撃を相殺することで突入する無敵モードに入った。

 これで僕のキャラがこの時間に負けることは絶対にない。


「麻央、言っとくけど色々溜め込んでいたのは僕だって同じだからな」

「バカ ザコ」


 連鎖攻撃をさばくのに集中しているから聞いてないってか。それでもいいさ。


「小学生の時、麻央が男子にモテるようになってからすごい置いて行かれた気分だった」

「ゴミクズ」

「中学生になって、それはもっと酷くなった。麻央が変わってしまう気がして、寂しさを紛らわすために野球部に入って麻央を見ないようにした」

「クソハル」

「言うか迷ったけど、麻央に彼氏ができたって知った時は本当に面白くなかった」

「裏切り者」


 僕の赤裸々な打ち明けを悪口で返すなよ。

 というか、裏切り者は僕から言わすと麻央の方だぞ。僕に相談もなしに彼氏なんか作りやがって。

 別れる相談するぐらいなら、付き合う前に相談しろよ。絶対に乗ってやらないけどさ。


「あんだけ一緒にいたくせに、もう僕のことはいらないのかよって麻央にムカついてた」

「ムカつく」

「つーかな。彼氏いるくせに他の男子の部屋に居座るなよ」

「うるさい」

「僕だって普通に中学生男子なんだ。女子が部屋にいて何も感じないはずがないだろ」

「むっつりスケベ」

「でもな……それでも僕は麻央が久しぶりに遊びにきてくれた時は嬉しかった。それだけは伝えたかった」

「大嫌い」

「あと……今までごめん。猛毒とか酷いこと言って本当にごめん」

「……バカ ザコ ゴミクズ クソハル 裏切り者 ムカつく うるさい むっつりスケベ 大嫌い! 大嫌い! 大嫌い!」

「うわっ! それは返せないって!」

「二年も待たせんな!」

「ぎゃああああ!」


 僕とキャラクターの悲鳴がシンクロする。

 結局無敵モード中の連続攻撃も麻央に完璧にしのがれ、その後のカウンターであっさりと負けてしまった。


「は〜。やっぱ強いな麻央、全然勝てる気がしなかった」

「……ねえ? なんでも言うこと聞くんだよね?」

「まあ……僕ができることであれば——」

「なんでもって言ったよね?」

「う、うん……」


 マジで言ってるから断れない。


「じゃあ……わたし、橋田くんに謝りに行きたい」


 麻央のんだ瞳には確かな決意が宿っていた。

 続きは口に出さずとも、僕は何をすればいいのか手に取るようにわかった。


 僕達は幼馴染だから。

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