表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
76/86

第34話 猛毒赤ずきん

「な……僕が悪いだと……?」

「全部っ! 全部全部全部!! ハルが悪いのに!!」

「あぶなっ! 何すんだよ!?」


 乱雑に振り回された腕を掴んで拳を防ぐ。」


「っ!」

「この! 何がしたいんだよ!」


 すかさず振り下ろされた腕も受け止めて両腕の自由を奪う。

 僕の方も抑えるので手一杯なので、お互いに両腕が使えない状態になる。


「こっちのセリフだ!」

「はあ!? マジで意味わかんねえんだよ! この猛毒女!!」

「ふざけんな!! わたし猛毒じゃない!!」

「いいからとっととどっか行けよ!」

「やだ! ハルが謝るまで絶対に嫌だ!」


 両腕を掴まれてもなお、麻央は暴れるのをやめない。


「なんで僕がお前なんかに——」

「勝手に野球部入って、わたしのこと避けるようになったのはハルじゃん!!」

「え……は?」


 胸の内に小さくてするどとげが優しく突き刺さる。

 小さな棘でも、それは僕が目を逸らしていたことに気づかされるには、あまりにも効果的すぎた。


「ずっと一緒だったのに、中学生になってからハルは変わった!」

「な、なに言ってんだよ……僕は変わってなんか」

「じゃあなんでわたしのこと避けるようになったの!?」

「避けてなんか……」


 避けたつもりはない。

 それは嘘じゃない。


 嘘じゃないんだ。


 ただ僕は——。


「僕は……麻央に新しい友達がたくさんできたと思って——」


 言葉をつむいでいるうちに僕は気づいてしまった。

 弱かったのは麻央だけじゃない。

 僕は小学生から中学生になるにつれて、元から可愛かった麻央がどんどん可愛くなって、男子から次々とチヤホヤされるのを目の当たりにし続けた。


 野球は好きだった。そこに間違いはない。でももう一つだけあったんだ。

 僕は麻央が手の届かない場所に行ってしまうのを見たくなかった。


 当時の僕は失うことの悲しみや苦しさを知って、誰よりも人と深く繋がるのを恐れていた。

 思い出の女の子『みさき』が突然いなくなった時のように。

 また繰り返したくない、見たくない、変わっていく麻央を見たくない。

 ずっとずっと隠していて、知らないうちに記憶まで塗り固めていたのだ。


「わたしに黙って野球部に入ったハルが悪い!」

「……で、でも麻央だって、中学入ってから全然話さなかったじゃないか」

「ハルは何もわかってない……」

「麻央……?」

「ハルがわたしを避けるようになったから、何か嫌われるようなことしたんじゃないかって、ずっと怖くて訊けなかったんだよ! 訊きたくても何を言われるかわからなかったし、これ以上嫌われたくかったからずっとずっと不安でおかしくなりそうだった!」

 

 麻央の小さな手が震えている。


「わたし……ずっとずっと待ってたのに! ハルが話しかけてくれるのずっと! 怖かったから自分から全然いけなかった……全部壊れたら耐えられないから」

「なんで僕なんか気にして……」

「黙れクソハル! 言い訳なんか聞きたくない!」


 叫び過ぎて声が枯れていく麻央に気押されて押し黙ってしまう。


「クソうざい部活が終わってから勇気出してハルの家に行った。不安だったけど、ハルは昔みたいに喋ってくれて、わたし嬉しかった」

「……っ」


 胸の奥がまたチクリと痛む。


「嬉しかったから毎日行くの我慢できなかった。また避けられたら怖いと思ってたけど、全然止められなかった。だってハルと一緒にいるの楽しいんだもん」

「……じゃあなんで橋田と」

「黙れ喋んな。前にも言ったじゃん、しつこかったって。悪いことしたと思ってるけど、あっちにも非はあるんだよ」

「なんだよそれ」


 ちゃんと自分が悪いのも認めてるじゃないか。


「わたしだっていっぱい苦しい思いして大変だったんだから、これぐらい許してよ。またわたしと幼馴染してよ。どうしてわたしだけ悪者なの? 猛毒女なんて言わないで嫌いにならないで」

「麻央……いきなりそんなこと言われても……僕もどうしたらいいかわかんないんだ」


 自分の中に眠っていた弱さ、僕が麻央にした大きな罪。麻央と橋田の罪。

 全部ぐちゃぐちゃになって、どうしたらいいか考えようにも頭が働かない。

 

 麻央の気持ちを真っ向から受け止めたせいで、考える力を完全に失っている。


「やだ! やーだ! ハルに嫌えわれるのも避けられるのもやだ! 離れたくない! やなの!」

「なんで僕にそこまでこだわるんだよ……」


 押さえ込んでいたものがどれほど大きかったのか、麻央の駄々っ子のような吐露とろが物語っている。

 こんなふうにしてしまったのは、麻央に二年も不安をつのらせてしまったのは他ならない僕なのか……?


 ——僕が麻央に猛毒の頭巾ずきんを被せてしまったのか……?

 


「……クソが。帰る」

「は? ちょ……! 麻央!?」

「死ね」

「え……っ!?」


 麻央は隙をついて僕の腕から逃れると、足元に蹴りを一撃かまして去ってしまった。

 

 吐くだけ吐いて冷静になったからなのか、心なしか悪口があまりにも短絡的だった。

 その分発している言葉は他の人に聞かせられないレベルで鋭利だが。


「……なんだよ。自分だけ言いたい放題言いやがって」


 二年間、僕だって言いたいことの一つや二つなかったとでも思っているのだろうか。


「あの幼馴染め」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ