第29話 わざとらしい一体感
「「「せーのっ!!」」」
クラスメイト全員の掛け声と共に一枚絵が立て掛けられる。
真っ赤な頭巾を深く被った幼い顔立ちの少女が、緑生い茂る森をバッグに振り返っている。
少女のポカンとした表情はどことなく麻央に似ている。
一枚絵のテーマを赤ずきんに決めた時も、麻央のイメージとピッタリという理由だ。
実際に見比べてみると、女子達が口を揃えていたのも頷ける。
ちょうど狼に声をかけられているところなのだろう。お話ではこの後ズル賢い狼に言葉巧みに騙され、まんまと食べられてしまうのだけど、うちの赤ずきんは狼を毒舌で再起不能にしそうだ。
「ほらほら楠も麻央ちゃんと一緒に見なって」
「いや、僕はここでいいよ」
「いいから!」
クラスメイトの女子にぐりぐりと背中を押され、麻央の傍に押しやられる。
「おっす」
「お、おう……」
近くで見ると益々雰囲気が似ている。意図的に似せて顔の造形をしたのではないのだろうけど、本人の可愛らしさや小柄なのも相俟って、まるで赤ずきんが絵の中からやってきたみたいだ。
「楠クン、前日に作品を会場に運ぶの任せてもいいかい?」
「え? 僕一人で?」
責任が重すぎる。落としたりしたら一生クラス中から恨まれてもおかしくない。
「もちろんあと三、四人残ってもらうよ。ボクは用事があって残れないけど」
「まあ一人じゃないなら」
「楠が適任だよなー」
「あとは麻央ちゃんもね」
「ん。いいよ」
「は?」
一人素っ頓狂な声をあげてしまい、クラス全員の注目を独り占めしてしまう。
逆になんでみんな驚かないんだ? 前は些細なことでも非協力的だったってのに、二つ返事で了承するとは……。
以前の行いを反省したのなら喜ばしいが、麻央がそう簡単に心を入れ替えるとは思えない。
「楠クンどうかした?」
「いや……なんでもない。麻央に力仕事できるか心配で」
「そこは楠がカバーしてあげなよ」
「それな」
「ハルよろしくー」
「そういうことで楠クンは当日すぐに帰らないように」
「流石にそんな薄情なことはしないけどさ」
なんなんだこのわざとらしい一体感は……。
事あるごとに普段あまり話さないクラスメイトも便乗してくる。特に女子からのプッシュがまあすごい。まさかこれは環境委員の時と同じで、この後とんでもない面倒事を押し付けられてしまうのでは?
「……さて、うちのクラスは手際が良かったから結構時間が余ったね」
「去年の先輩達は遅くまで残ってたらしいよー」
「まあこれも野上君が的確な指示を出したからかな」
流石は強豪陸上部の部長を務めた生徒。リーダシップを発揮させれば右に出るものはいない。
「いやいやいや。楠と麻央ちゃんでしょ」
「え……僕は何も」
「謙遜すんなって。な? 小鳥遊さん」
「ま。ハルにしてはよくやったんじゃない?」
「麻央どうしたんだよ? 熱でもあんのか?」
如何なる手を尽くし、様々な角度から多彩なバリエーションで乏してきた麻央が褒めてきた!?
絶対にこれは何か裏がある。
「あ! じゃあ楠測ってあげたら?」
「「「おー?」」」
「ほらほら! おでことおでこで!」
「誰がやるか」
「うっわ……古っ! 楠ツンデレじゃん!」
「さっきからなんなんだよ……」
今日はやたらと僕にあれやれ、これやれと吹っ掛けられる日だ。
「まあまあ、ひとまず作品も完成したところで一旦解散しよう。ボクも用事があるからさ」
「僕も解散したい」
どうにも嫌な予感がする。
この場にいちゃいけないような、言葉では言い表せられない妙な気持ち悪さがある。
「それじゃあ解散! またね!」
号令をかけると野上君は誰よりも早く教室を出て行った。よっぽど時間が押していたのだろう。
「ほら、あたしらも帰るよ! 空気読んで!」
「わかってるって!」
派手目なグループの女子が残っている男子を次々と引っ張り出し、教室の中はあっという間に片手で数えられる程度の人数になってしまった。
「……なんだったんだ?」
その中には僕と麻央も含まれている。
「ん……」
「……なんでおでこ出してんの?」
「熱測るんじゃないの?」
「測らない。保健室行け」
クラスメイトの悪ふざけを真に受けるなんて、どう考えても今日の麻央はおかしい。
「ちぇっ」
「ん?」
指をパチンと鳴らし、そそくさと教室を出る男子生徒が一名。
麻央だけではない。どうも今日は朝からクラス全体の雰囲気が浮き足立っている。普段は僕のことなど気にも止めない人達も、何かあればことあるごとに名前を出してくる。
今朝は麻央の要求通り学校の近くまでは一緒に来たけど、それなりに距離を置いていたので見られてどうこうならないはず。
他に今日変わったことといえば、二組の橋田が学校を休んだことだ。
僕としては麻央と一緒にいるのを見られたら一番まずい相手なので内心胸を撫で下ろしている。
そういえば橋田が学校を休んだのは、小学校を含め今日が初めてだったらしい。
熱があっても学校に来ていたので少し心配だ。
「あ」
廊下の方に目をやると、カバンを背負い直していた七海さんと目があう。
前に手を振ってもらったことがあったので、今度は僕の方から手を振ってみた。
「……」
「あれ……」
顔を背けられた。それどころか逃げるように走り去ってしまった。
「ハル何してんの?」
「悲しんでんの」
「楠結構肝座ってんなあ」
男子生徒がよく分からないことを呟く。
なんで今日はこんなにクラスメイトに絡まれるんだ?
まるで意味のわからないノリに首を傾げながら帰り支度を始めた。




