第27話 幼馴染コンビネーション
「ただいま」
「おかえり〜」
「あのな、麻央は『お邪魔します』だろ」
「じゃあハルもわたしの家に来たら『ただいま』って言って」
「『じゃあ』の使い方がおかしい。それとなんで僕だけ強制なんだよ」
お互いの両親が昔から口癖のように『自分の家だと思っていい』『うちの子でもあるんだから』とは言っているけど、こういった線引きはちゃんとしておいた方がいいと思うんだよな。
そのうち進路の関係で離れる可能性だってあるんだし。それこそ両親の仕事の都合で、急な引越しがあってもおかしくないのだ。
中学に上がって疎遠になったように、高校に上がって同じ事が起こらないとは限らない。
僕達が望まなくとも、高校が違えば自ずと距離ができるだろう。
そういえば麻央って高校どこ受けるのかな……。
「ハル〜、わたしココアが飲みたい」
「僕に持ってこいと?」
「ハルの部屋あっためといてあげる。幼馴染コンビネーションね」
「よく言うよ」
昨日はクラスの輪を危うく崩壊させるとこだったってのに。
麻央はパタパタとスリッパを鳴らして階段を上がって行った。
見られて困る物があるでもないけど、僕の帰りが遅い時とか、あんまり勝手に部屋に上がってほしくないんだけどなあ。
迷惑どうこうよりも、幼馴染のとはいえ、異性の部屋に対してもう少し警戒というものを覚えてほしい。この生活はいつまで続くのだろうか……。
「さて、ココアだっけ。ホットでいいのかな」
ココアなんてしばらく目にしてないけど、ひとまずキッチンの戸棚を探してみることにした。
「よし。お菓子確保」
母さんが用意しといてくれたのか、個包装されたバームクーヘンを発見。これとココアならば麻央も文句はないだろう。
「……結局麻央の召し使いみたいになってる!」
身についた習慣というのは恐ろしいもので、どうすれば麻央に満足してもらえるかお菓子まで真剣に選んでる。
今日だって結局一緒に帰ってるし、こうして家にまで上げてしまっている。身についた習慣が奴隷寄りの世話焼き係とは、悲しきかな僕の習慣。二年近く関わってなかったのに、半年もせずにここまで仕上がっているとなると、ずっと交流があった世界線を想像すると寒気がする。
周りから小鳥遊麻央専属の召使いと呼ばれていたかもしれない。
「うわぁ……絶対無理」
一瞬でもイメージした自分を呪う。あまりにも強烈な絵面だったので夢に出てきそうだ。
「ダメだダメだ! 今日こそ絶対にビシッと言うんだ!」
頭をブンブンと振り、召使いになった忌々しい姿を振り払う。
このままいい様にこき使われてなるものか! 僕の在り方は僕が決める!
「麻央! 入るぞ!」
まずは麻央のペースに飲み込まれないよう、とにかく強気で自分を保つのを第一とする。
「あ、きたきた」
「ココアとお菓子持ってきたぞ!」
……あれ? なんか語気が強いだけでやってることいつもと変わらなくね?
「ん」
「あのさ、頼まれたもの持ってきたんだけど」
「知ってる。二回も言わなくていい」
これだ。人が持ってきたのに『ありがとう』の一つもない。
持ってきてもらうのは当たり前『だってわたしは王女様なんだから』と態度から滲み出てる。実際のところは野上君すら恐れる傍若無人の魔王のくせに。
「置いといて」
「……はあ」
わざとらしくため息を吐き、ココアとバームクーヘンの乗ったトレーをカーペットの上に乗せ
る。
「ハル、ため息すると幸せが逃げるよ?」
「逃す奴が目の前にいるからな」
「……ハルの幸せってわたしに関係ある?」
「あるだろうね」
こういったやり取りの中で僕の何かが擦り切れても、麻央からしたら全然関係ないんだろうなあ。
「……で? 例の進捗どうなの?」
「なんでそんなに偉そうなんだよ」
「だってハルの仕事でしょ?」
「んなわけあるか!」
「わたし言ったじゃん。協力してって。ワンチームなんだから頑張ってよ」
「……知ってると思うけど、ワンチームってワンマンチームとは全く別の意味だからな」
「え? うそ? 恥ずかしい……」
「僕は別の意味で驚いたよ。ほんと恐ろしいな」
協力とか抜かしといて全部やらせるつもりだったのか……。
なんで部外者の僕が二人の問題に首を突っ込んであれこれして、当事者の麻央が傍観する側になってんだよ。
「ま、いいや。ココア〜」
「淹れるの初めてだから文句言うなよ
ココアの袋に書かれた通りに作ったから不味くはないはず。というかココアなんてどう淹れても変わらない気がするけど。
「甘味が足りない」
「言ったそばから文句ですか」
「率直な感想」
「僕には文句にしか聞こえない」
「自分に嘘はつけない」
「僕には嘘でも気遣いしていいんだぞー。つーかしろ」
「まあ、ハルが淹れたならこんなもんか」
「麻央。僕は慣れないココアまで淹れて、気を利かせてお菓子まで持ってきたんだぞ? 普通ここまでやらないからな?」
ここで引き下がったらまた好き放題される。多少口調が荒くても麻央に言い聞かせる他ない。
「なに? お世話できる人アピール?」
「……はあ〜。なんでみんなこんな邪悪な奴……ほんっと物好きだよな。言っとくけど、ここまで好き勝手させて、面倒見てくれるのなんて僕くらいだからな?」
あ。橋田もか?
「……なにその言い方」
「あ、いやこれは……」
やばっ……ちょっと言い過ぎたか?
でもいい加減自分の身勝手さを知るべきだろ。
「遠回しなプロポーズ? きも」
「いやいや違うって」
もしこれを本気でプロポーズと思い込んでいるとしたら、今の返事だけで相手さん確実に毒殺できるよ。
麻央、これが本当のプロポーズじゃなくてよかったな。ちょっと変則的だけど殺人未遂だよ。
「ん? 電話だ」
麻央の多彩な言葉の暴力にうんざりしていると、助け舟かのようにスマートフォンが鳴った。
「誰から?」
「えっと……あ、ごめん麻央少し抜ける」
「だから誰?」
逃げるように部屋から出て一階に降りた。
画面に表示されている名前は『結城美咲』
明確な理由はないけど、この通話を聞かれるのはマズイと僕の本能が激しく訴えていた。




