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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第18話 歪んでるのは……

「おっつー」

「当たり前のように入ってくるんだな」

「だって鍵持ってるし、おばさんから許可もらってるし」

「僕のプライバシーってどこにあるんだろ」

「探さないと見つからないようなら、ハルにプライバシーなんか存在しないんだよ」

「麻央は優しさを探す旅を始めたらいい」


 といっても手遅れな気もするが……。

 麻央がペシペシと僕の肩を叩き、ベッドから退くよう要求してくる。

 たまに忘れそうになるけど、ここは僕の部屋で麻央は客人のはずなのだ。あまりに横暴な態度のせいで、どっちが部屋の持ち主か分からなくなってくる。

 ちょうど勉強を始めようと思ってたから別にいいんだけどさ。


「麻央、脚」


 ベッドの上に早速だらしなく寝転ぶ麻央。

 彼氏持ちの立場なんだから、脚を開いて寝転ぶのは指摘しとくべきだ。


「ん」

「いって! 脚をこっちに寄越せって意味じゃないよ!」


 指先に麻央のキックがクリーンヒット。

 利き手と逆だからよかったものの、これは確実に突き指してる。下手なペットよりよっぽど獰猛だよ。


「マッサージしてくれるんじゃないの?」

「自分でしろ」


 学校指定の白い靴下に包まれた脚がぷらぷらと揺れて何やら主張している。

 生憎僕はマッサージ師でも世話役でもないので、無視を決め込んで机に向かう。

 ここ最近の委員会の手伝いで遅れていた分を取り戻さなければならないのだ。


「あー疲れた」

「おやすみ」


 麻央のわざとらしい独り言に適当に返し、参考書と問題集を広げる。僕の立場をようやく理解してくれたのか、麻央はそれ以降は何も言ってこなかった。もっぱらゲームでも始めるのだろう。


 こうして少しはやり取りをするが、ある程度すると僕と麻央はそれぞれの時間に入る。

 慣れてきてしまえば勉強自体に大きな支障はないのだけど、これが当たり前になってはいけないのも十分理解してる。


 幼馴染とはいえ、麻央には彼氏がいる。家が近いからだと思うけど、ここでくつろいで当然と思われてはダメだ。と声を大にして言いたいけど、どう伝えれば納得してくれるのか良い考えが浮かんでこない。

 下手に橋上やら彼氏とキーワードを出すと『関係ない』と一蹴されるし……。どうしたものか。


 勉強は滞りなく進んでいるはずなんだけど、こういう考えが頭の根幹に残っているうちは効率落ちているんだろうなあ……。

 勉強の邪魔だと注意すれば『邪魔してない』とか『わたしのせいにすんな』と返ってくるし。

 しかしまあ、麻央の奴何を考えているのかさっぱりわからない。


「あれ……」


 区切りのいいとこまで進めて麻央の方に目を向けると、ゲームをしている様子はなく、小学校のアルバムを開いていた。


「今日はゲームしないんだな」

「うん。今日はいい」


 年中無休でゲーム三昧の人間のセリフとは思えない。明日の天気が不安だ。


「アルバムなら自分の部屋で見ればいいのに」

「いいの、ここで」

「はいはい」


 椅子をくるりと回して机に向き直る。ゲームをしてないだけで、特に邪魔をするわけでもないので問題ないだろう。


「ねーハル」

「お菓子とジュースなら後で持ってくるから少し待ってて」


 次の区切りまで進めてからだ。受験勉強をするようになってから実感したけど、休憩を入れた後の再開は意外と難しくて集中力がいる。脳が勉強に中々切り替わらないのだ


「今日くっついてた後輩と仲良いの? いつ知り合ったの?

「ゴールデンウィークのちょっと前かな。一応言っとくけど、くっついてたわけじゃないから」


 くっついてたってのが如何にも麻央らしい適当な言い回しだ。

 厳密には超密着型の監視を受けていただけだ。僕からしたら迷惑以外のなんでもない。

 向こうは向こうで喋る度に心を削ってくるしで最悪だった。美咲に釘を刺されていなければ、今日だって僕は絶対に参加していない。


「ああいうの目立つからやめたら?」

「ああいうのって?」

「人前でくっつくの」

「向こうが勝手にしてくるんだ。僕じゃなくてあっちに言えば?」

「ふーん……」


 麻央はどうでもよさそうにペラペラとアルバムのページを捲った。

 委員会の士気が下がるとでも言いたいのだろうか。非協力的だった麻央に言われたくないけど、ようやく実行委員の自覚が芽生えたのかもしれない。


「ハルさあ、なんか変わったよね」

「変わったってどういうふうに?」

「小学校に入る前に少し近くなったっていうか」

「そんな昔のこと覚えてないって」


 それは僕が幼稚になったって意味なのだろうか。だとしたら相手が麻央とはいえ、結構ショックだぞ。


「今日だって小学生の頃のハルだったら絶対参加しない」

「こっちにも色々と事情があんの」


 橋田とか栞とか美咲とか。一体何人に圧かけられてんだよ僕。


「小一のゴールデンウィーク覚えてる? あ、ハルじゃ覚えてないか」

「妙に捻った毒舌やめてくれ」


 僕の記憶力をバカにしたいだけだろそれ。


「わたしが旅行から帰ってきてからかな。ハルが違う人みたいになってた」

「なに? ホラー話?」


 怪談は暑い季節にするものだ。


「なんかロボットみたいだったよ? 行事も適当だったし、クラスでもあまり喋らなくなったし」

「麻央って結構見てるんだな」


 もっと関心がないと思っていた。

 それより小一のゴールデンウィークって、随分と古い話を引っ張ってくるんだな。


「まあ、わたしはハルのこと独占できたからいいんだけど。奴隷として」

「麻央の思い出歪んでない?」


 昔話に花を咲かせたいのかと思ったけど、どんな感情してたらこんな話出てくるんだろう。


「……歪んでるのはハルの方だよ」


 麻央が何か呟いた気がするが、また悪態だろうから聞き流してペンを走らせる。

 この問題を終えたら答え合わせをして、菓子でも持ってくるとしよう。昔話をするのはそれからでいい。


 小一のゴールデンウィーク……麻央が旅行に行ってる間に僕は——。


「わたし、橋田秀と別れたい」


 僕が昔を思い出しかけたところで、それはまた深いところへ沈んでいった。あまりにも

唐突に発せられた麻央の一言によって。

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