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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第16話 気分マーケット

『じゃあさじゃあさ、いつやる? うちの文化祭が二十日なんだけど、並風は?』

「こっちも二十日。多分このあたりの中学と高校はどこも日程合わせてるんじゃないかな」

『なーんだ。陽也くんが演劇出てるとこ見たかったのに』

「演劇なんかやらないって」


 クラスの出し物が演劇になったとしても、僕は絶対にステージには上がらない。そういう目立つ役割は野上君や橋上みたいに相応しい人間がするべきだ。演じる側にとっても観る側にとってもその方がいい。


「それなら僕も美咲達のクラスの合唱に興味あるな」

『え? マジ? 女子校の文化祭に陽也くん一人で来るの?』

「お互い行けないって話の流れじゃなかった?」


 あからさまに引かないでほしい。電話越しにでも伝わるお手本のようなドン引きだ。

 危なかった……美咲は距離感こそ近いけれど、こういった感じで思春期男子の心をナチュラルにへし折るんだった。久しぶりに話したから忘れていたよ。

 ドン引きもそうだけど、僕が一人なのが美咲の中で確定しているのも何気に酷い。


『歌うのも授業でやるような曲だからつまんないよ』

「やっぱお星宮は規則が厳しいんだな」

『ほんっと時代遅れなの!』


 クラスメイトに混じって歌う美咲に結構興味があるんだけど、日程も合わないので想像だけで楽しむしかない。


『ねーねー、演劇じゃなきゃ陽也くんのクラスは何するの?』

「切り絵だよ」

『切り絵?』

「うん。色のついた紙をたくさん切って貼って一枚の絵を作るんだ」

『なんかすごそうだね。どんな絵?』

「確か……赤ずきんだったかな」


 赤ずきんだったのか、白雪姫なのか、記憶が少し曖昧だ。

 ホームルームで文化祭実行委員を決めた後に、続けて出し物の話し合いが行われたのだ。

 実行委員とは対照的に、出し物の方は女子が積極的に意見を出してくれたおかげですんなり決まった。なんでも麻央のイメージとピッタリだとか、赤ずきんだとか、白雪姫だとか色々盛り上がっていた気がする。


 麻央が不機嫌オーラを全開にして黒板の前に立っているものだから、いつ大爆発を起こすか僕はヒヤヒヤだった。おかげで話し合いの内容もうろ覚えだ。


『赤ずきんいいじゃん! いいなー見たいなー。完成したら写真送ってよ』

「うん。元々そのつもりだったし」

 僕が昔観ていた子供向けアニメにも赤ずきんのお話はあった。多分この反応だと美咲も知っているのだろう。

 赤ずきんを被った女の子が悪い狼に騙されて食べられてしまい、おばあさんが狼の腹を切り裂いて助けるという作り物ならではのお話だ。


 クラスの女子は麻央が赤ずきんのイメージにピッタリだと騒いでいたけれど、それなら狼は誰になるのだろう……。

パッと思い浮かんだのが橋田、となれば因縁があるらしい野上君がおばあさん?


「……っ」

『陽也くんどうかした?』

「いや、なんでもない」


 うっかり想像してツボに入ってしまった。

 これはこれで演劇にすればいい感じに笑いが取れて面白かったかもしれない。


『写真は後で送ってもらうとして、あとは打ち上げだよね〜。カラオケはマストで〜』

「え……カラオケ?」


 歌手と遜色ない美咲と、歌下手の僕とじゃまた処刑が始まってしまう。春に迂闊にカラオケに行ってしまったのは苦い思い出だ。


『打ち上げといったらカラオケじゃない?』

「……カラオケでもいいけど僕は聞く専門でいいかな」

『えー。なんかテンション下がってない?』

「サガッテナイヨ。」


 下がってはいないのだが、上がる要素がこれっぽっちもないのだ。


『ま、いいか。あたし達が歌ってれば陽也くんも歌いたくなるでしょ』

「お手柔らかに〜……」


 逆なんだよな〜……。美咲が上手すぎて次に歌う人のハードルが上がりまくりなんだよ。

 嫌味でもなんでもなく、美咲は素でこう思っているから質が悪い。

 ん?

 ……あたしたち?


「あれ? 美咲、今あたし達って言った?」

『言ったけど?』


 そんな『当たり前じゃん?』みたいな調子で言われても! 

 僕ははじめから二人で打ち上げすると思ってたのに、とんだすれ違いだ。


「美咲の友達?」

『もち。あと二人誘っとく』

「あう……うん」


 危うく意識が飛びかけた。僕は文化祭よりも歌の練習をした方がいいんじゃないか?


『やっば。すごい楽しみになってきた! 二人ともめっちゃ良い子だから楽しみにしててね!』

「僕も音楽色々聴こうかな」


 美咲の友達が来るとなれば、僕がアウェーになることは確定。マイクを握らされた時の傷を最小限に抑えるためにも、少しでも歌唱力とやらを誤魔化さなければ……。


『あ、そうだ。陽也くんのことハブにしないから安心してね』

「ん」


 どうやら美咲の中で僕が一人で来るのは確定らしい。こうなったら僕にも考えがある。


「僕も友達誘っていい?」

『……』

「美咲?」

『あっそ。好きにすれば?』


 なんで不機嫌になってんだろう。


「誘ってみないとわかんないから、後でまた連絡するよ」

『別に来なくていいけどね。あたしらだけで十分楽しいし』


 自分は友達誘うの前提で話を進めてたくせに、僕が呼ぶのは気に食わないとか、相変わらず変なとこでスイッチが入るんだよなあ……。

 気分屋もここまでくると規模がデカすぎて気分マーケットだ。


「日程はどうする? 文化祭の次の日が振替休日になってるから、そこがちょうどいいと思うんだけど」

『あ、うん。いいんじゃね? てか友達にサインした?』


 どんだけ適当な返事なんだ。やたら『友達』を強調してたけど、僕に友達がいるのがそんなに意外なのか……。


「まだだよ。スマホ今美咲と繋がってんだから」

『じゃあこれ終わったらダッシュ。早くしてね』

「なんで怒ってるの?」


 気になってはいたんだけど、通話が始まってからずっと美咲側がザワザワしている。外に出ているのだろうか。


『怒ってない! ……はあ!? 恐い!? 違うし!』


 今度は美咲以外の女子の声が混じってきた。


「美咲? もしかして今外にいる?」

『あ、うん。友達とご飯食べてた』

「そういうこと初めに言えって……邪魔しちゃ悪いから切るよ」

『あー待って待って。明日ちゃんと栞のこと手伝ってね』

「……うん」


 と、僕の返事の前に電話は切れた。最後の最後に念を押されて明日の放課後の時間が埋まってしまう。これがきっかけで姉妹喧嘩にもなったら嫌だし、手伝う他なさそうだ。

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