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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第15話 電話

 陰鬱な気持ちでベッドに倒れ込むと、このままどこまでも沈んでしまいそうな感覚になった。

 麻央と橋田のサポートだけでも嫌なのに、結城栞が付いてくるという、おまけにしてはやり過ぎのありがた迷惑な特典付き。どう転んでもトラブルに巻き込まれる未来しか見えない。


 それにしたって、今日の結城さんのテンションはどこかおかしかった。僕が無視したことに腹を立てたのなら、それは少しだけ申し訳ないと思うけど、あんなに強引にあれこれ約束を取り付けるような子じゃなかったはずだ。


「あっちが本来の性格なのかなぁ……」


 憑き物が取れて明るさを自分らしさを取り戻したのなら、それはそれで良いことだ。出会ったばかりの頃の、辛い過去と美咲との間で揺れて苦しんでたのに比べたら全然いい。


「……あ〜」


 そこまで高級なベッドではないけど、今の僕にはここだけが唯一無二の安寧。

 勉強が待っているのに立ち上がるのが億劫で仕方がない。目を閉じれば絶対に寝てしまうってわかっているのに、瞼は自然に重くなってくる。


「んー? 誰からだ?」


 五分だけ仮眠を取ろうと目を閉じたのも束の間、スマートフォンが聞き慣れた通知音を鳴らした。メッセージアプリ『サイン』に誰かからメッセージが来ていた。


「美咲?」


 画面を開いて表示された名前に僕の心が少し跳ねる。

 結城美咲ゆうきみさき、結城栞の義理の姉で僕の友人でもある。僕はゴールデンウィークに結城姉妹と知り合って、色々とあった結果、崩壊寸前だった姉妹の仲を繋ぎ止めるきっかけを作った。

 僕自身大したことはしていないんだけど、色々と相談に乗っているうちに姉の美咲とはこうして連絡を取り合う仲になった。


 結城美咲と出会ってからの十日間は、今にしてみれば嘘みたいに色濃い時間だった。いい意味でも悪い意味でも、ドラマや物語の登場人物はこんな感じなのかなと考えずにはいられなかった。

 そんな濃い時間を一緒に過ごした美咲からの連絡、特別な気持ちになってしまうのも無理はない。


『今から電話できる?』


 今日は珍しく麻央が部屋を占領していない。準備に非協力的過ぎて皆んなにお灸を据えられているのなら、麻央にとって良い薬、徹底的にやってほしい。

『いいよ』


 親はいつも通り仕事で帰ってこないし、一番厄介な麻央は不在。これとないチャンスだ。


「わっ! 早いな!」


 メッセージの代わりに着信が秒で返ってくる。すぐに出るべきなんだろうけど、一度声の調子を整えて短く深呼吸をした。

 一生忘れられない十日間を過ごした女の子からの電話、特別視するなってのは無理な話だ。緊張も期待もして当然なのだ。

 緑色の受話器ボタンを人差し指で丁寧に押した。


『ねえ、なんで栞のこと無視したの?』

「あ……あ〜〜そう」


 別れ際に栞が姉さんに言うと抜かしていたけど、あれは僕に対する脅しじゃなくて実行宣言だったようだ。

 上がってた気分がモノの数秒で下がってしまった。


「周りに他の生徒がいたからだよ。変に目立つと向こうに迷惑かけちゃうって思ってさ」

『ふーん……』


 第一声がかなり怒りを含んでいたので手に汗を握る。


『ま、いっか』

「ほっ」


 スマホを口元から離して息を吐く。

 僕のそれっぽい言い訳は無事に事態を納められたみたいだ。


『陽也くん久しぶり』

「うん。久しぶり」


 胸を撫で下ろしてベッドに横になる。


『栞から聞いたんだけど、陽也くん文化祭実行委員なの?』

「ううん。環境委員で少し手伝ってるだけ」


 主に会場の入り口設営のみで、間違っても買い出しには付き合わない。


『え? 陽也くんまだ環境委員だったの? もう十月だよね?』

「今回が最後の仕事なんだ。あとは後輩達に引き継いで引退」


 新しい委員長を任命するだけで、引き継ぎと言えるほど大それたことはしない。


『文化祭が最後の仕事って変だね』

「僕もそう思う。なんか担任の先生が変に張り切ってんだよ」

『へ〜、なんかめんどくさいね。うちも来週文化祭なんだけど、全然文化祭って感じしないんだよね』

「文化祭って感じしないっていうと、あまり力入れてないとか?」

『めっちゃ入れてんの。でもね、聞いて? やるのが各クラスで合唱なんだよ? ありえなくない?』

「まあ……一応合唱も文化ではあるからね」


 合唱なんて僕は絶対にごめんだ。以前は気にならなかったけど、自分の下手さを自覚してから微塵も歌う気になどなれない。


『しかも毎日遅くまでクラスで練習すんの。まじで意味わかんない』

「美咲歌上手いから良いじゃん」

『よくないし、全然楽しくないし、疲れるし』

「お互い色々大変だ」


 こうして愚痴を言ってはいるが、言葉の節々に明るさが垣間見える。本当に嫌ってわけではないのが伝わってくる。いざこざがあった時はどうなるかと思ったけど、美咲は普通に学校生活を送れているみたいで安心した。栞とも友好な関係を築けているみたいだし。


『あ、良いこと思いついた!』

「どうかした?」

『陽也くんさ、文化祭終わったら一緒に打ち上げしようよ! いいでしょ?』

「うん……いいよ」


 文化祭が終わったら特別な行事はもうほとんどない。勉強漬けの日常に戻る前に、一度思い切り羽を伸ばすのも必要だ。

 美咲の提案に二つ返事で応えた僕は、にやけるのを押さえるのに必死だった。こういう強引さなら全然悪くない。


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