第14話 キャラ消滅
「先輩見つけたああああ!」
「し……結城さん?」
昇降口でスニーカーに履き替えると、背後からものすごい勢いで走ってくる女子一名。
委員会で顔を合わせたばかりの結城栞だ。
僕の記憶が正しければ、こんなハイテンションで突っ走ってくる後輩じゃなかった気がするんだけど……。
しっかり者で後輩って感じもしない、どちらかというと近寄りがたいタイプだったはずだ。まさか向こうから声をかけてくるとは思わなかった。
「なんで無視するんですか!」
「無視?」
「委員会の時ですよ! 絶対わたしに気づいてたじゃないですか!」
「無視したつもりはないんだけど」
「したじゃないですか!
「してない」
「先輩がしたつもりでなくてもわたしは無視されたんです」
「じゃあごめんね」
「なんですか『じゃあ』って。ものすごく腑に落ちません」
久しぶりに話したけど、こんなにめんどくさい奴だったかと疑問が生まれてくる。あのタイミングで何かしらの反応をしたら周りに丸わかりだし、栞もそれはわかっているだろうに。
「あのな。あまり掘り起こしたくないんだけど、僕だって前に結城さんに無視されてるんだよ」
「へー。無視って認めるんですね」
何か悪いものでも食べたのだろうか……心配になるレベルで絡みがめんどくさい。昔流行ったヤンキーとやらもこんな感じだったのだろうか。
「もう無視した僕が全部悪いでいいんだけどさ、結城さんだって前に僕を無視したんだから、これでおあいこでしょ」
「わたしが無視するのはいいんです。でも先輩がするのは認められません」
「結城さんの中で僕が相当低い位置に置かれてるのがわかったよ。じゃあまたね」
「あ! 逃げるんですか!? 話はまだ終わってませんよ!」
「うへぇ……」
口から変な声が漏れ出た。疲労感が濃縮されていて重苦しい。
「ちょっと待ってくださいってば!」
「わかったからもう少しソフトに接してくれ」
「なんですか? 変態するつもりですか?」
「結城さん、キャラ崩壊にも程がない?」
なんというか、原型がなくなってキャラ崩壊どころかキャラ消滅だ。
走って置き去りにしたいとこだけど、後が怖すぎるので仕方なく昇降口を出て立ち止まる。
栞はスニーカーに指を入れて隙間を作ると、トントンと足元を鳴らして靴を整えた。
「お待たせしました」
「ん」
全然待ってないけど。
「先輩環境委員だったんですね」
「言ってなかったっけ?」
「これっぽっちも」
まあ、言う必要もこれっぽっちもないんだけどさ。
「結城さん文化祭実行委員になってたけど、学校行事好きなの?」
「内申点稼げそうなのでやってみただけです」
「だいたいみんなそれが目当てだよな」
麻央みたいに文化祭どころか、内申点も気にしない人もいるけど。
「環境委員って準備手伝ってくれるんですよね? これから準備期間は毎日顔を合わせることになりますね」
「いや、環境委員はあくまで会場の入り口の装飾だけだよ。あくまで文化祭の主役は実行委員と各クラス」
「先輩もこっち手伝ってくれていいんですよ?」
「楽しそうなとこ邪魔しても悪いし」
これ以上面倒事に巻き込まれたくない。主に橋田と麻央、ついでになぜか橋田と仲の悪い野上君、そして僕の隣を歩いている結城さん。
パッと思いつくだけでもトラブルの予感しかしない。
「遠慮しないでください」
「僕じゃ力になれそうにないから他を当たってくれ」
「おっしゃる通りですが、これは自分自身の成長に繋がりますよ?」
セリフの使い方としては間違ってないけど、使い所を思いきり間違えてないか?
「他の男子に頼ってくれ。僕はやらない絶対に手伝わない」
「その男子が問題なんですって——!」
「おっすノッキー先生、今帰り?」
「まあ見ての通りだよ」
「ほーん……」
「ん?」
橋田は僕と栞を交互に見ると何か思案し始めた。
「やっぱやるねえノッキー先生」
「想像しているようなめでたいことは全くないぞ。ね? 結城さん」
「あ、あうぅ……」
「は?」
は? なに黙ってんだこの後輩。
「いきなりキレんなって。そうだ! ノッキー先生耳貸して」
「え? なに?」
肝心な時に役に立たない栞の横を抜け、橋田が僕に耳打ちをする。
「明日文化祭実行委員で買い出しに行くんだけど、ノッキー先生も来てくんね? オレとハニーを良い感じに……な?」
「えぇ……自分でやってくれよ」
「野上の奴を適当に相手してくれるだけでいいんだよ。詳しくは明日学校で話す。じゃまた」
「僕まだやるとは言ってないよ」
聞く耳も持たず橋田は上機嫌で去っていく。
麻央と仲良くなるチャンスができたのがよっぽど嬉しいのか、舞い上がっているのが火を見るより明らかだった。
「聞こえましたよ先輩」
「聞いてたのかよ」
橋田がいなくなった途端元気になったな。
「よかったですね。参加する口実ができたじゃないですか」
「参加しないし。つーかさっきなんで黙ったんだよ。変な勘違いでもされたら結城さんも困るだろ?」
「だって三年の先輩って怖いっていうか、緊張するんです」
「僕も三年の先輩なんだけど」
「楠先輩は最低さが勝ってるので平気です」
それなら手伝いもさせなきゃいいのに……。
「さて、わたしは先輩が小鳥遊先輩にちょっかい出さないか見張ってますね。小鳥遊先輩には橋田先輩いがいるんですから」
「なんで僕がまお……小鳥遊にちょっかいかけるんだよ」
「いいえ信用できません。姉さんに七海先輩、ほら! もう今の時点で二人いる!」
「なら手伝わせなきゃいいんじゃない?」
「それだと橋田先輩達が可哀想です」
「僕が一番可哀想だと思うんだけど……」
「サボったら姉さんに言いつけます」
「もう明日学校休もうかな」
いやマジで。




