第13話 下手なドラマより面白いもん
『麻央ちゃ〜ん。そっち持って〜』
『や。めんどい』
『おーし。オレが持つわ』
『いやいや、ここは小鳥遊さんと同じクラスのボクが面倒見るよ。橋上クンは持ち場に戻っていいよ』
『いーや、オレが面倒見る。野上こそ他の困ってる女子手伝ったらどうだ?』
『まず目の前の小鳥遊さんが困ってるからね』
『だったらここはオレに任せろって』
『ねーねー、あたし他の作業するから男子二人でこれ持ってよ』
『『それだけは嫌だ』』
「はい、作る手を止めなーい」
「「「っ!」」」
平山の一声で造花を作っていたはずの全員がハッとなる。
環境委員は例の如く、会場の入り口の装飾を作っていたのだけど、偶然にも隣の教室で文化祭実行委員が活動してるのだ。
廊下からは色々と想像を駆り立てる話し声が聞こえてくるわけで……。
「え、野上先輩と話してるのって誰?」
「サッカー部の橋田先輩」
「ああ、あのうるさい先輩か。小鳥遊先輩と付き合ってるって自慢してる」
「シーっ。聞こえたらどうするの?」
この通り、比較的大人しい人が集まっている環境委員の面々も、外で繰り広げられているいざこざには興味津々のようだ。
それは三年の僕達も同じで、七海さんは明らかにソワソワしているし、平山も何食わぬ顔で廊下を行ったり来たりしている。
僕はというと、麻央が何か問題を起こすんじゃないかとヒヤヒヤしていた。今のだって結構危なかった。半強制的に任命されたとはいえ、実行委員である以上協力はするべきだ。めんどくさい、やりたくないと思っているのは麻央だけじゃないのだから。
「わぁ……小鳥遊さんってやっぱり男子に人気あるんだね」
「そ、そうなのかな」
七海さんが口元に手を当てながら、またしても廊下の方へチラチラと視線を送る。
こういう場面でも黙々と取り組みそうなのに、意外なことに全然作業が手に付いていない。七海さんは案外こういういざこざが好きなのかな?
「だってあの小鳥遊さんだよ? 一年の時に学校の男子全員に告白されたっていう伝説の」
「その伝説には全然信憑性がないな」
ここに一人告白していない人間がいるからだ。会話すらほとんどしてなかったし。
「く、楠君はどうなの?」
「え? どうなのって?」
「小鳥遊さんみたいな子」
なんとも僕にとって答えにくい質問だ。七海さんは軽い調子で訊いたんだろうけど、麻央暴露事件がつい最近あって、幼馴染の僕がここにいて、廊下には彼氏の橋田、そして興味津々の後輩達、絶対にめんどくさいことになる。
この様子だと七海さんは僕と麻央が幼馴染だって知らなそうだ。
なんだか七海さんには知られない方がいい気がするんだよなあ……。というか知られたくない。
「んー……実行委員なのに非協力的なのは良くないと思う」
「……え? そこなの?」
「うっわ……ノッキーマジかよ。ほんとこいつ……」
七海さんは『信じられない』といった表情で口をぽかんと開け、平山に至っては額に手を当てて大袈裟にため息を吐いている。そこまで呆れられる覚えはないのだけど……。
「ノンデリカシー……」
「えぇ!? 七海さんなんで!?」
七海さんはボソッと呟くと、僕の作業スペースに紫色の折り紙を積んできた。
どうして僕が責められる流れになっているんだ? 責められるのは実行委員のくせにやる気の無い麻央だけだろうに。
「向こうもだけど、こっちはこっちでイケるね」
「コーラとお菓子食べながら見物したい」
「ごめんなー後輩達〜、水道水しかなくて」
後輩達が何やらワイワイと無駄話を再開する。何がイケるのかさっぱりだ。平山もちゃんと注意しろよ。なんだよ水道水って。
「……楠君がこれなら心配ないか」
「僕はサボったりしない。ちゃんと取り組むよ」
「ほらね大丈夫大丈夫」
「ノッキーって普通に馬鹿だよな」
「そんなストレートな悪口を言われる覚えはない」
「ねえねえ、先輩達委員会来なくなったらつまらないね」
「せめて結末は見届けたいよね」
「下手なドラマより面白いもん」
女子を中心とした後輩がわちゃわちゃと談笑を続ける。先輩が引退して寂しいならわかるけど、つまらないってなんだ?
『ねえ麻央ちゃん、備品数えるの手伝ってってば〜』
『はいはい。いちにーさんしー』
『全然数えてないー!』
麻央が二組の女子に迷惑をかけまくっているのが廊下から伝わってくる。
いつ他の実行委員が限界を迎えるか心配でしょうがない。文化祭を楽しみにしている人だっているのに、麻央はちゃんと理解しているのか?
気持ちは僕だってよくわかるけど、麻央だけ我儘していい理由にはならない。
「ねえノッキー、一つ訊いてもいい?」
「いいけど」
「小鳥遊麻央と幼馴染ってマジ?」
「「「え!?」」」
なぜか後輩達がオーバーなリアクションをする。
「一応マジ。噂通りだよ」
「ふーん……やっぱりそうなんだ」
七海さんの反応が気になったが、そこまで驚いた様子はない。昨日あれだけ騒ぎになっていたから耳に入っていたのかもしれない。
「へー。実は昔付き合ってたとか?」
「ないない。麻央とは家が隣同士なだけ。昔はよく一緒に遊んでたけど、中学になってからはお互い色々合わなくなったんだ。最近はまた話すようになったけどさ」
偽りのない事実をつらつらと並べた。
一日空けたことで僕も落ち着きを取り戻し、今更慌てふためく必要がないと気づいた。
僕と麻央は幼馴染だけど、それ以上でもそれ以下でもない。昔は仲が良かったけど、あくまで昔の話。それだけだ。
「……」
「七海さん? どうかした?」
「あ、ああうん。なんでもない」
七海さんが僕の顔をじっと見つめていたけど、何かおかしなことあったかな?
今度は廊下の方を気にしてるし。今日の七海さんはどうにも落ち着きがない。
「あ!」
廊下にいたとある人物と目が合い、向こうが馬鹿みたいに大きな声を上げる。
「……」
無視無視。僕も前に手を振ったのに無視されて野上君に揶揄われたのだ。ここで反応しても向こうもいい気分はしないだろう。
美咲の義妹、結城栞まさか文化祭実行委員だったとは……だからどうってことはないんだけど。




