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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第7話 自意識過剰

「おかえり」

「ただいま〜……ておい!」

「ノリツッコミ滑ってるよ?」


 あまりに自然すぎる出迎えについ『ただいま』と返しちゃったけど、いたよ麻央……。


「……麻央、なんでここにいるんだ」


 他にも問い詰めたいことは山ほどあるけど、学校にカバンまで置いて僕の部屋でゲームって意味わからん。


「学校終わったから」

「そりゃそうかもしれないけど!」

「なに今日のハル。うるさ」

「あのな! 彼氏はどうしたんだよ! 麻央のことずっと待ってたんだぞ!?」

「あーそう」


 目線をゲームから一瞬も離さずに麻央が返す。


「もっとあるだろ色々!」

「はあ……先に帰るって言い忘れてたんだってば」

「用事があるならちゃんと伝えとけよ。橋田が可哀想だろ」

「だから忘れてたんだって」

「……明日ちゃんと謝っとけよ」

「はいはい」


 まるで反省する素振りも見せず麻央が寝返りを打ち、足をバタバタさせて僕の枕をボフボフ叩き始める。偶然そこにあるんだろうけど、埃が舞うから直ちにやめてほしい。


「ねえ」

「なんだよ」


 麻央がこっちを見ようともしないので、僕も同じように目を合わせずに返す。

 どうせ気にもしないだろうから、ついでに制服から部屋用のジャージに着替える。


「遅かったけど何してたの?」

「委員会だよ。それから橋田に付き合わされたんだ。つまり僕の帰りが遅いのは麻央に原因があるんだよ」

「で?」

「僕に何か言うことあるんじゃないのか?」

「付き合わないでさっさと帰ればいいのに。馬鹿なの?」

「彼氏忘れてた奴がよく言うよ」


 どんな理屈を並べようと勝手だが、今回悪いのは間違いなく麻央だ。麻央がちゃんとしていれば、僕も橋田も待ちぼうけを喰らうことはなかった。付け加えると、橋田にウザ絡みされることも、面倒な事を頼まれもしなかった。そこはちゃんと断ったけど


「ま、いいや。そこに座って」

「なんで」

「いいから」


『そこ』と言われても、麻央は依然体勢も目線も変えないから、どこに座ればいいのか全然わからない。


「座ったけど」

「ベッド」

「ならそう言えって」

「普通にわかるでしょ」


 ベッドの脇に腰を下ろす。

 というか僕が麻央に説教するはずなのに、なんでこっちが怒られてんだ? 

 まるで帰りが遅かったのが悪いみたいな。ほんと意味わからん。

 このまま話をほじくり返しても意味がなさそうなので、仕方なく僕の方から折れてやる。変に刺激して枕をこれ以上蹴られても嫌だし。


「あれ? 麻央、今日は私服なんだな」

「今更なの? あとこれ部屋着」

「僕に違いがわかると思う?」

「ごめんなさい。わたしが間違ってました」

「こんな時だけ普通に謝んなよ……」


 うつ伏せになってんだから気づかなくても無理ないだろ。

 大きめの黒いパーカーに、白とグレーのチェックのミニスカート、膝上丈の白い靴下といった女の子らしい服装だ。スカートが短くて危なっかしく感じるが、今日はしっかりとガードされているので僕も安心だ。


「……あ、思い出した! 麻央! 僕と幼馴染だって彼氏に教えたろ!?」

「で? 教えたけどなに? 今日のハルうるさいマジで」

「いいのかよ? 幼馴染だって知られて」


 僕は気まずいだけかもしれないけど、麻央にとってもこの関係を知られるのは都合が悪いだろう。

 今までだってそうだけど、橋田は一体どんな気持ちで僕に話しかけたりしていたんだ……。


「別に。わたしの彼氏そんなこといちいち気にしない」

「そ、そうか」


 一瞬麻央の声に怒気が篭った気がして竦んでしまった。

 自分の彼氏を見くびられていると感じたのかもしれない。だとしたら今のは僕に落ち度がある……。


「いちいち気にしすぎ。自意識過剰」

「ごめんって……」


 僕とは関係ないところで麻央と橋田には彼氏彼女の距離がある。

 二人には二人のペースや過ごし方があって、それを部外者がいちいち指摘するのはお門違いだと麻央は言いたいのだろ。

 相談されたとはいえ、僕が首を突っ込んでいい領域じゃない。橋田は気にしていたけど、顔には出さないだけで麻央も彼氏彼女の関係は大切にしている。そんな気がする。

 

 それに僕はちゃんとした相談を受けてはいない。とはいっても無下にはできないから話を聞くぐらいはしてあげよう。本当にそれだけ。

 僕はもっと離れた位置でそっぽを向いて、耳だけ貸すくらいでちょうどいい。


「ハルどしたの? 急に黙って」

「いや、なんでもない。勉強してるから用があったら呼んでくれ。それと昨日みたいに遅くならないようにな。おばさんも心配するし」


 ベッドから立ち上がり、勉強机に置いてあるワイヤレスイヤホンを手に取る。

 音楽はそんなに聞かなかったけど、スマホを使うようになってからは勉強のお供になっている。


「待って。話まだ終わってない」

「勉強に支障が出ない程度で頼む」

「ん」


 麻央がベッドをボフボフ叩く。だからホコリが舞うからそんなに叩かないでほしいんだよな。

 さっきまで麻央の足元にあった枕は、いつの間にかベッドから追い出されて床に情けなく落ちてるし。

 攻撃範囲に入りたくないのでベッドの隅っこに腰を下ろす。


「それで話って?」

「週末なんだけど、用事ある?」

「ないけど……強いて言うなら勉強かな」

「暇なら一緒に買い物来てよ」

「え、嫌だ。暇ではない」

「じゃあ明後日、駅に十一時ね」

「今のやり取りの流れ普通におかしくない?」

「おかしくない」


 受験勉強があるのに暇と認定されるとは思わなんだ。あまりにも僕の意思が無視されているので、麻央一人でやりとりが完成してしまっている。


「こういう時こそ僕じゃなくて彼氏を誘えばいいだろ」

「はぁ〜……さっきから気になってたけど、ハルが『彼氏』て呼ぶのキモい。なに? ハルが付き合ってんの? 違うよね? あいつはわたしの彼氏だから」

「……橋田君と行ったらどうですか? 麻央様魔王様」


 蹴られた。攻撃範囲には入っていなかったのに、いつの間に接近してやがったな。

 僕としては幼馴染より適任がいるって意味で『彼氏』と強調したんだけど、どうやらお気に召さなかったようだ。その証拠に毒舌がいつもより強力で、単発から連発式になっている。

 麻央の前で橋田の名前を出すのは今後避けた方がよさそうだ。


「はぁ……ゲームも調子悪い」


 ブツクサと文句を垂れながら麻央が身体を起こす。


「それでなんで僕なんだ?」

「新作のゲームの特典が欲しいんだけど、一人だと一セットしか買えないの」

「僕にも一セット買えと?」

「うん。お金はわたしが払う」

「僕にどんなメリットが?」

「今よりもっと優しくなれる。ケヒっ」

「うっわぁ……」


 そんなドラマのワンシーンみたいなセリフを言われてもな……つーか作り笑い下手過ぎる。シンプルにびっくりした。なるほど、魂に相応しくない言葉を使うと、人間こんな拒否反応を起こすんだな。

 優しさのカケラどころか微粒子もなさそうだもんなあ……この魔王様。


「ハルの涙腺が崩壊したとこだし晩御飯食べようよ」

「崩壊したのは麻央の表情筋だって」


 無理な作り笑いで右と左で表情がバラバラになってエライことになっている。


「いこ? ママがご飯作って待ってるよ」

「いやいやいやいや、締めくくるな締めくくるな」


 会話のキャッチボールどころかフリーバッティングだよ。

 麻央が明後日の方向に次々と悪い打球を飛ばしているだけだ。僕は買い物を了承してないし、夕食に至っては初耳だ。


「……ねえハル」

「よかった。ようやく落ち着いたか」


 自分がいかに暴走していたか気づいてくれたみたいだ。


「わたしとじゃんけんしよ?」

「……なんで?」


 嫌な予感がする。


「学校にカバン忘れちゃった。わたしが勝ったら取ってきて」

「その勝負を受ける理由が僕にはな——」

「出さなきゃ負けよ?」

「やめろそれ!」


 可愛らしくコールしてるのに中身がえげつない。


「あ、わたしに勝ったらもう一回遊べるから頑張ってね」

「勝ち負けに意味が無くなってる!」


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