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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第3話 幼馴染の彼氏

 今日一日出番のなかった英語の教科書を鞄に入れる。

 部活をしていた頃はテスト期間以外絶対に持ち帰らなかったが、受験生となった今では荷物が増えるとは言ってられない。そう遠くない未来に後悔しても遅いのだ。


「や、楠クン。今日はもう帰り?」

「ううん、今から委員会。野上君は塾?」

「これから病院でリハビリ。塾は明後日だね」

「そっか。色々大変だね」

「高校でも陸上したいからこれぐらいはしないと。ただでさえ怪我で出遅れてるし」


 野上君は最後に『じゃ』と短く済ませると足早に教室を出ていった。

 二学期に入ってから野上君はずっとこんな調子だ。これまでは揶揄ってきたり他愛のないことでちょっかいをかけてきたけれど、受験勉強に加えて膝のリハビリが本格化してきたらしく、目に見えて忙しそうだ。

 勉強はともかく、野上君はずっとリハビリをしたかったんじゃないかと思う。一年間も走れない状況が続いて、チームメイトがひたすら競い合っているのを目の当たりにし続けていたのだ。きっと誰よりも歯痒い気持ちでいただろう。

 僕に手伝えることなんか無いかもしれないけど、友人として影から応援させてもらおう。


「うぃーっす。ハニーいるー?」

「……」


 教室内に響くやったらと上機嫌な声から面倒事を察知し、意図的に顔を背ける。


「お! ノッキーいるじゃん! ノッキー!」

「うげっ……」


 気づかれてしまった。放課後とはいえ、他所のクラスでもお構い無しに一人の男子生徒が教室に入る。スキップステップはいウザい。

 

「ノッキーグッモーニン」

「うっす」

『今は放課後だろ』とベタなツッコミはしない。この調子の良い男子生徒は、隣のクラスの上位カーストグループの一人だ。

 橋田秀はしだしゅう元サッカー部のムードメーカーにて中心人物。サッカー部のエースが無口なので良いコンビなんだとか。

 そこそこ高い身長に、長めの髪をやけに目立つカチューシャで上げたヘアスタイル。もちろん校則違反である。授業中は外しているらしいが、放課後になるとこうしてお洒落に走るようだ。

 持ち前の明るさといつも話題の中心になっているのもあって、女子からの人気もそれなりに高い。しかし、二学期になった途端カチューシャをつけ始めたり、テンションが若干くどくなったのが原因でちょっぴり引かれている。工夫が必ずしもプラスを生むわけではない良い例だ。

 でもカチューシャはともかく、テンションが暴走気味に上がってしまうのは仕方ないのかもしれない。

「ハニーは?」

「知らない。ま……小鳥遊ならどっか行った」


 何を隠そう、橋田秀の彼女とはあの麻央なのだから。

 性格と言動のパラメーターマがイナスに振り切ってるとはいえ、麻央は十人中十人が可愛いと称する、文句の付け所がない正真正銘の美少女だ。他校も含めれば告白して葬られたのは百人を軽く超えるらしい。


「行き先知らない?」

「知らない」

「だめだなノッキー。女子のことをちゃんと把握してないとモテないぞ?」

「……はは」


 そんな難攻不落の美少女と付き合えたとなれば、自己肯定感が爆上がりして調子に乗るのも無理はない。このテンションはムカつくし、この上なくウザいけど。


「ま。帰ってなさそうだし、待つか」


 言って橋田は前の席の椅子を引いて腰を下ろした。

 え? ここで待つの?


「恋バナしようぜノッキー」

「僕より野上君の方がいいんじゃない?」

「あいつのモテ話聞いてもオレがつまんねーだろ」


 環境委員を押し付けられた仕返しをしようとしたが、中々うまくいかないものだ。

 普段野上君とはこの手の話はほとんどしないんだけど、女子の多い陸上部所属でおまけに高身長。野上君がそれなりにモテているのは知っている。

 こうは言ってるけど、橋田も以前は野上君に負けず劣らずで普通に女子から人気があった。運動もできるし、顔だって目鼻立ちがくっきりしている。誰にだって明るく接するから人気があるのも頷ける。最近は自己肯定感上がりまくり故ウザ過ぎて見る影もないが……。


「橋田だって女子から人気あるだろ」

「まあオレ彼女いるし? 付き合ってんのはあの小鳥遊麻央だし?」

「……はは」


 フォローするんじゃなかった。決して悪い奴じゃないんだけど、こいつやっぱウザイよ。


「てなわけでさ、ノッキーってどんな人がタイプなの?」

「え? 僕?」


 話の前後があまり繋がっていない気がする。てか恋バナするのはもう確定なんだな。委員会まで少し時間があるから構わないんだけど、暴走気味の橋田と二人きりは結構疲れる。

 橋田とはそこまで仲が良いわけでもないのに、それでもこうして自分から話を振ってくるってことは、恋愛とは人を簡単に変えてしまうようだ。


「オレは勿論ハニー……」

「あー待ったまった。僕から喋らせて」


 何を語るか考えなくともわかるので、若干強引にでも差し止めておく。

 このノリで一方的に彼女自慢を聞かされては、委員会前に気力を根こそぎ持って行かれてしまう。


「んだよ?」

「楽しみは最後にとっておきたいんだよ」

「それもそうだな。やるじゃん」

「ま、まあね……」


 なんで男子同士の恋バナでこんな綱渡りしないといけないんだ。


「それで? どんな子がタイプなん? つーか誰? 並風の生徒?」

「いや誰が好きってのはないけど……そうだな。やっぱり自分の意思をはっきり持ってて前向きな人がいいかな」


 パッと思い浮かんだ特徴を並べた。

 今年の春に色々とあって、過去の思い出とキッパリ決別した僕だけど、理想くらいはそれなりにある。一瞬一人の女の子が頭に過ぎったけど、恋愛対象として好きかどうかはまた別の話だと思う。なんにせよ今はそこまで深く考えなくていい。


「ふーん。可愛い系? 美人系?」

「……両方かな」


 一見美人で大人びたとこもあれば、子供っぽい可愛らしいとこもある。

 ……なんであいつの顔が浮かんでくるんだよ。


「二股かよ。意外とチャラいんだなノッキー」

「違うって! 好きなタイプってだけで特定の人物じゃない! 大人っぽいようで可愛い一面もあるって意味! それとノッキーって呼ぶな!」


 環境委員のサボり魔委員長、平山なつきに付けられたあんまり嬉しくないあだ名だ。定着しないと確信していたのに、一部の生徒からはすっかりお馴染みになってしまっている。


「普段は可愛いくないのにたまに可愛いって意味? 結構マニアックなんだな」

「違う違う! 普段も可愛いんだって! それで些細なことで可愛さが跳ね上がるっていうか」


 特定の誰かに向けたものでもないのに、うまく伝わらないのがなんだかもどかしい。

「なら普通に可愛い系でよくね?」

「いや、そうなんだけどさ……」


 もっと色々あるんだけど、思ったように続きが出てこない。


「じゃあ次オレの番な。オレは勿論マイハニー!」

「あ! 悪い橋田、もう委員会の時間だ!」

「え!? マジ!? ごめんな話し込んじゃって」

「いや大丈夫。教室近いし」

「また恋バナしような〜」


 片手を控えめにあげて応える。彼女自慢は確かに鬱陶しいけど、強引に話を切り上げたことに僅かながらに罪悪感を覚える。


「悪い奴ではないんだけどなあ」


 それこそ麻央と付き合っているのが気の毒なくらいに。

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