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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第一章 『ガラクタピエロと裸足の人魚姫』
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第19話 プレゼント

「ねーねー」

「んー?」

「今更だけど、陽也くん何買いに来たの? 服? あ、買わないか……」

「おい。微妙に馬鹿にしてないか?」

「だって陽也くん、服買うイメージ全然無いし」

「……僕を一体なんだと思ってんだよ。確かに今も学校の制服だけど、僕だって私服の一つや二つ買う時はある。今日は買わないけどさ」

「じゃあ何買いに来たの?」

「プレゼントかな」

「あたしに?」


 美咲が目をキラキラと輝かせて詰め寄ってくる。その手に持っている色々とトッピングされたタピオカミルクティーをもう忘れたか。ジュースならなんでも奢るとは言ったけど、まさか五百円以上するものを奢らされるとは……。タピオカミルクティーに色々トッピングする人って実在したんだな。話には聞いていたが、呪文の類としか思えない注文もしっかりしていた。かくいう僕も「同じ物で」と魔法の言葉を使ってしっかり堪能しているけどさ。

 食感的にはグミみたいだけど、実際のところはイモの仲間らしい。粒がそこまで大きくないから、そのまま飲み込んでしまいそうだけど、喉に詰まらせて大惨事になりかねないから注意が必要だ。


「最終的にはそいうことになるのかな。違うとは言い切れない」

「あーもう焦ったい。陽也くんさあ、前から言おうと思ってたけど、その遠回しな返し方やめてくんない? もっと簡単に出来るでしょ。あたしの? そうじゃないの? 誰の?」

「……美咲のではない」

「へー、あっそ。じゃあ誰の? なんであたしに選ぶの手伝ってほしいの?」


 美咲があからさまに機嫌を悪くしてタピオカを啜る。そんなに一気に飲むと絶対体に良くないだろうに。それとストローを噛むんじゃない。潰しちゃったら太めのストローの利点がなくなる。ただでさえ飲みにくいのがますます飲みにくくなって、タピオカも底に残っちゃうだろ。


「僕が買うんじゃなくて美咲が買うんだよ」

「はあ? なんであたしが」

「言ったろ妹さんと仲良くなるきっかけ作りって」

「……ふーん、それで?」

「美咲、栞さんにプレゼントを渡してみないか? 別にそれだけでどうこうできるとは思ってない。でもきっかけには最適だろ?」

「陽也くんにしては悪くないかもね」

「ただきっかけの一つに過ぎない。やっぱり僕は二人には話す時間が必要だと思うんだ。姉妹同士ちゃんとさ」

「……」

「あながち間違ったことは言ってないと思うぞ」


 美咲の顔色を伺いながら言葉を選んでいく。この買い物は美咲次第、つまりは美咲の機嫌が悪かったり、美咲にその気がなくなればプレゼント自体が無くなってしまう。そうなれば姉妹二人の関係の修復も遠のいてしまう。


「ど、どうかな?」


 美咲はというと、僕から少しも目を逸らさずに、睨んでいるとも取れない微妙な顔もちのままタピオカを啜っている。


「……あたしもそんくらいすぐに思いついたし」

「おおっ! てことは何をプレゼントするか目星ついてるのか?」

「それが決まらないから今まで出来なかったの」

「真剣に考えてる証拠だな」

「当たり前じゃん」


 美咲が如何に栞のことを大切に思っているか伝わってくる。本当に少しでいい、少しのきっかけで二人の冷めた関係は終わるはずなんだ。


「あのさ、そこまで自信満々に連れて来るからには知ってんだよね?」

「な、何が?」

「栞の喜んでくれそうなプレゼント」

「もちろん! 美咲が一所懸命選んでくれたものならなんだって——」

「はぁ?」

「ひい!?」


 ものすごい形相で睨まれた。僅かに僕の方が背は高いはずだけど、今の美咲は迫力があり過ぎてつい見上げてしまう。

 おかしいな……七海さんと全く同じアドバイスなのに最悪の反応だ。


「聞こえなかったんですけど? もう一回言ってみ?」

「……た、お菓子はどうでしょう?」

「はあ……ベタ過ぎてしらける」

「な……! なに言ってんだよ。大きく外すことはないだろ?」


 良くも悪くもなく、最悪の結果になることはないだろう。仮に栞の好みを外したとしても、また違うお菓子を〜だとか栞の好みを教えて〜だとか次の機会の口実にもなる。


「食べ物って……旅行帰りじゃないんだからさ」

「僕だって真剣に考えたんだぞ?」

「でも陽也くんなら仕方がないか」

「酷い言われようだ!」


 ここで飲み物をプレゼントすると言い出したら倍返しにして罵ってやる。


「こういうのって、すぐに無くなるものじゃなくて形に残るものにしたいんだよね」

「形に……」

「独りよがりかもしれないけど、栞の傍に残ってほしいっていうか……」


 らしくなく美咲がたどたどしく言葉を繋いでいく。僕には女子の気持ちはわからないけど、もし栞の立場なら、ここまで大切に思ってくれていると伝わったら嬉しく思うのだろうか。

 独りよがりと美咲は言った。でもそれは自分本位から生まれたものじゃなくて、栞を想う気持ちから生まれたものだ。だったら独りよがりじゃないと僕は思う。美咲がした選択を否定したくない。


「良いんじゃないか? 形に残るもの」

「陽也くんもそう思う?」

「野球と勉強しかしてこなかった僕が選ぶよりずっといい」

「栞も喜んでくれるかな?」

「もちろん!」


 僕はらしくなくに親指を立てた。栞だって美咲の前じゃあんな態度を取っていたけど、それは家族を想う部分が悪い方向に暴走してしまっただけ。美咲が自分のためにプレゼントを選んでくれたと知ればきっと喜んでくれる。

「じゃ、じゃあさ! あたしここに来てからずっと気になってたお店あるんだけど」

「それなら話が早い。いくらでも付き合うよ」


 ここは僕が知る中で一番大きなショッピングモール。一時間二時間ではじっくり回れない数のお店がある。美咲が気に入って、栞が喜ぶ物もきっと見つかるはずだ。

 駆け足気味でどんどん進んでいく美咲の少し後ろを歩く。美咲が急に行き先を変えてもすぐに見つけられるように。

 夕方から夜にかけてのショッピングモールは、学生だけじゃなく、サラリーマンや主婦、家族連れがわんさかいて賑やかだったけど、その中でも美咲の存在は一際目立っていた。

 僕は一生懸命プレゼントを選ぶ美咲の姿を目に焼き付けた。

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