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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第三章 『ガラクタピエロと泣かないシンデレラ』
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第24話 ただいまじゃなくてお邪魔しますだよね

 色鮮やかなイルミネーションが街を彩るクリスマスも、ただでさえ忙しい社会人に火を付けたように追い込みをかける年末も、母さんも父さんも家にいる元旦もあっという間に過ぎてしまった。それが中学最後の冬休みの印象だ。


 気づいたら三学期ってレベルで勉強漬けの毎日だった。クリスマスも年末年始もなんら特別感もなく終わってしまった。


「今日はここまでにしようか」

「さんせ〜い。疲れたぁ〜」


 寒い以外は微塵も冬休み感がない毎日でもこうして真っ直ぐ勉強に向き合えたのは、ほぼ毎日付きっきりで教えてくれた七海さんのおかげだ。

 元々は僕が七海さんのお願いをかなえるはずだったのに、こんなに親切にしてもらえていいのだろうか……。というか親切の域をとっくに超えてるだろ……。


 結局冬休みの間ほとんど欠かさず家に来てくれて手料理も何度も作ってもらった。

 小鳥遊家が冬休みの間ずっと旅行に出てしまったけど、こと食事に関してはこの上なく充実していた。


「明日は始業式だから早めに切り上げよっか。実力テストはケアレスミスのないようにね」


 同級生なのにすっかり先生みたいな口調が板に付いている七海さん。


「今更やる必要あんのかなあ〜実力テスト」

「仕方ないよ、先生達もお仕事だもん。テスト作るのも採点するのも大変なんだよ?」

「だったら尚更じゃん」

「そういうわけにはいかないの」

「なんだか本当の先生みたい」

「やーめーて。たまにお父さんの手伝いするだけなんだから」

「……手伝い?」

「そう、採点とか。あれ? 私のお父さん学校の先生って言ってなかったっけ?」

「いやいや! 今初めて知ったよ!」


 イメージとしてはしっくりくるけど、こんなタイミングで打ち明けられるとは思わなんだ。でもこれで七海さんの頭の良さや教えることの上手さにも納得がいく。


「お邪魔しまーす。七海さん、いつも陽也に勉強教えてくれてありがとね〜」

「私が好きでやってることなので構わないですよ」

「母さん……入る時はノックしてって何度も言ってるだろ」

「はいお菓子。七海さんはコーヒーだよね」

「僕の主張はスルーですか」


 普段から僕の部屋はこうして誰彼構わず勝手に入ってくるので、ノックという当たり前のはずのルールが当たり前のようにない。すなわち僕のプライバシーもない。

 麻央も母さんも僕が思春期男子なのを忘れないでほしいと切実に思う。


「お菓子とコーヒーありがとうございます。いただきます」


 ……なんで僕が缶ジュースで七海さんのコーヒーは高そうなカップなんだ? こんなカップ初めてお目にかかったぞ。


「あ! 私このチョコレート好きなんです! 嬉しいですお母さん!」

「あら偶然。それじゃあ七海さん、陽也のことよろしくお願いします」

「はい。任せてください」

「ごゆっくり〜」


 最低限のやり取りだけして出ていくあたり、バリバリのビジネスウーマンの母さんらしいが、一瞬僕に向けたニヤケ面と余計な一言がウザ過ぎた。


 元旦にも勉強を教えに来てくれたのもあって、七海さんはすっかり僕の両親と顔見知りになっている。勉強もできてお料理も上手、おまけに性格も良いとなれば気に入られる要素しかない。それと七海さんは学校の時は控えめで大人しい印象だけど、コミュニケーション能力が案外高い。明るくてよく笑うのだ。人見知りをするタイプなのかと思いきや、僕の両親ともすぐに打ち解けるし、学校で目立っていないのが不思議なくらいだ。


 しかしまあ……七海さんは勿論だけど、美咲みたいな気まぐれもいるし、麻央みたいな付き合い長くてもよくわらん子もいる。全くもって女の子ってやつはいつまで経っても理解できそうにない。


「なるほど。確かに美味しいかも、このチョコレート」

「でしょ? ナッツとチョコのバランスが絶妙なの」


 とにかく明日からの三学期が中学生ラストシーズンだ。間違いなく受験のことだけであっという間に終わっちゃうんだろうけど、最後はみんな良い感じに終われたらいい。


 今年は例年より寒くて春先のことはイマイチ考えられないけど、ひとまずは目の前の受験。全部やり切った後には良い結果と暖かい春が待っているはずさ。


「……そういえば、広まってた噂ってどうなったのかな?」

「その件では大変ご迷惑をおかけしました」


 七海さんの言う噂とは、映画の帰りに麻央の真似をしたところを同学年の平山達に見られたことだ。平常運転の麻央の真似ならどうということはなかったのだが、やたらと甘ったるい時を真似たのが運の尽きだった。

 見て見ぬ振りなどされるはずもなく噂はたちまち拡散し、七海さんは受験シーズン真っ只中に色恋沙汰に夢中な乙女のレッテルを貼られてしまった。相手が僕の時点でおかしいと誰も思わないのだろうか……。


「なんだか教室に入るのがこわいなあ……」

「だ、大丈夫だよ。冬休みでなんだかんだみんな忘れてるって」

「忘れてなかったら?」

「う……それは……」


 みんな勉強でいっぱいいっぱいで忘れてるとは思うけど、当事者の七海さんは安易に安心できないんだろうなあ……。

 僕にできることがあればなんとかしたいけど、こればっかしは明日学校に行ってみないとわからない。


「ふー。ま、いっか。楠君にまんまと嵌められた私にも落ち度はあるもんね」

「別に七海さんを嵌めようとしたわけじゃないよ。単純にタイミングが悪かったんだ。僕は七海さんの演技を見たかっただけ」

「あーあ。なんで私もっと注意深くできなかったかなあ」


 当然のようにスルーされる僕の言い分。さっき母さんが余計な手本を見せたせいだ。


「ね。どうせなら楠君も巻き込まれてれば面白いのにね」

「こわいこと言わないでよ」


 あれ? でも確かこの勉強会を始める時もそんなこと言ってた気もする。勉強会がメインになり過ぎて何が始まりなのか忘れかけていた。


「例えばだよ? アピールしていた私が楠君と一緒にいるとこを学校の誰かに見られました。その人はどう思うと思う?」

「えっと……」

「あ、ノンデリ禁止ね」

「まだ何も言ってないのに」


 一体七海さんの中で僕はどんな人間に仕立て上がっているのだろう。


「ねえ……どうだろ?」

「そりゃ、アピール成功とか?」

「だよねだよね! それで?」

「それでって……ん? なんでニヤニヤしてんの?」

「し、してない! ノンデリ禁止って言ってるでしょ!」


 七海さんの中のノンデリの基準がイマイチわからない。


「話逸らさないでちゃんと答えて!」


 口元を隠しながら声を出しているから若干もごもごしているのがシュールだ。


「……まあ、付き合ってるって思われるだろうね」


麻央と付き合っている噂が流れた時とは違う感覚だ。あの時は橋上のこともあったから、早いとこ誤解を解かないといけない思いでいっぱいだった。でも今の七海さんとのやりとりは、焦りや周囲のことよりも自分の内側の方が熱を帯びていくような感覚だ。

 なんともいえないもどかしさと、擽ったさが入り乱れて七海さんを直視できない。


 これも七海さんなりの一種の仕返しなのか……?


「ということはね? 彼氏彼女だよ?」

「それぐらい知ってる……」

「もっとはっきり口に出してくれないと聞こえないよ」


 七海さんがゆっくりにじり寄って来る。


「そうなったら七海さんだって困るだろ?」

「さ、さあ? もう私は散々噂になったからそれほどでも? むしろ楠君のこと巻き込めてラッキーかも」

「ラッキーって……」

「……楠君、あのさ——」

「マオちゃん! 今はやめといた方がいいよ!」


 母さんの慌てた様子の声がした瞬間、ドアが勢いよく開いた。


「ハルただいま」

「ま、麻央!?」

「小鳥遊さん……っ!」


 部屋の中に満ちていた妙に緊張していた空気は、母さんと麻央によって簡単に破られた。


「はぷっ!?」

「はいハルお土産」


 モフモフした何かに顔を覆われる。


「……久しぶり小鳥遊さん。普通ただいまじゃなくてお邪魔しますじゃない?」


 謎のもふもふに阻まれて二人がどんな顔して向き合っているのかは知らないけど、少なくとも僕はもう少し顔を埋めておいた方が良さそうだ。

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