2品目②
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それからルーベルとアルフはよく話す仲になった。
頭を打つ前のルーベルをアルフは知らない。だからこそ話しやすかった。
未だにアルフが普段何をしているかどこにいるのかも分からない。
しかし、アルフは決まってルーベルが一人の時にやって来る。
留守番をしているルーベルはアップルパイを焼いていた。
すると鳴る筈のない店のドアチャイムが鳴る。
ルーベルがキッチンから顔を出すとそこにはアルフが立っていた。
「アルフさんこんにちは。ちょうどパイが焼き終わった所なのでそこに座ってください。今持ってきますから」
「…」
アルフは何も言わず席に着く。
ルーベルがパイと紅茶を机に並べていつものようにアルフの向かい側に座る。
「…アップルパイだ」
アルフがパイを見つめてそう呟く。
「?はい」
話すようになった始めの頃、アルフがアップルパイを焼けるか聞いてきた。
ルーベル自身お菓子作りはあまりやって来なかったが、パイであればと思い作ったのだ。
「どうですか?実はあまりお菓子は作ったことなくて…」
「…うまい」
「良かったです!」
(最近はちゃんと美味しいって言ってくれるようになったんだよね)
アルフはもぐもぐと食べ続ける。
アップルパイはあっという間に無くなり、アルフはその皿を見つめた。
「アルフさん、まだパイあるので、もし良かったおかわりしますか?」
「…食う」
ルーベルは切り分けた2つのパイをテーブルに置くと何かを決心したように口を開く。
「あの…アルフさんって魔術師何ですよね?」
「あぁ」
「もし知っていたら教えて欲しいんですけど、人の体に他の人の意識?を入れることってできるんでしょうか?」
「できるぞ」
「え!?できちゃうんですか?」
「一応な。ただそのためには魂を混ぜる必要があるから、他人の体を乗っ取るというよりは、一つになるって感じだな」
「…どうして魂を混ぜる必要があるんですか」
「体から魂を抜けばその瞬間、それは死体になる。死体に魂を入てもその死んだ体は戻らず、腐敗する」
「でもアンデットは?」
「アンデットも最終的には骸骨になってんだろ。そもそも人間じゃねーし」
「言われてみれば…」
「何?そういうの興味あんの?」
アルフはニヤニヤしながらパイをフォークで切る。
「…説明が難しいんですけど、頭を打ってから、私が本当に私なのか、分からなくて。だから、その…」
「別におかしい所ないけど」
「へ…」
その言葉に俯いていた顔を上げる。
アルフはまた一つパイを食べ切った。
「そういうのは見れば分かるんだよ。まぁ俺天才だから」
アフルはそう言うと片足を組んでふんぞり返った。
「本当に…?」
「何をどう弄っても、手を加えたものは二度と同じものにはならない。…それがどれだけ似ていてもな」
(何で見ただけで分かっちゃうのとか、聞きたいことたくさんあるけど、アルフさんが嘘を言っていない事は分かる)
「ほんとう、に…」
「だから、そう言ってんじゃん!何だよ、疑って…はぁ!?お、おまえ何泣いてんだよ!!」
いつの間にか流れた涙は止まる事を知らず、泣い噦りになっていく。
「えっ…俺のせい?え?」
ルーベルは、言葉を詰まらせながら言った。
頭を打つ前の記憶に朧げなものがあり、両親や幼馴染の会話で噛み合わないことがあること。
誤魔化してながら両親や幼馴染と距離を置いていることが息苦しくて辛いこと。
両親や幼馴染に今の私を否定されると思うと悲しくてどうしようもないこと。
そして、私が他人の人生を奪ってしまったのではないかと悩んでいたこと。
「…それ気にし過ぎだし、考えすぎだろ」
「わたしはっほんとうになやんでっ…」
「あー。分かった分かった。頭の怪我で記憶がとぶのはそれなりに聞く話だろ。魔術で記憶を弄るのだってそう簡単なことじゃない」
「…?」
伝えたい事がよく分からずにいると、アルフはフードの上から頭を掻く。
「つまり!…ルーベル。お前は頭を打った後も何も変わっちゃいない。何よりその魂がその事を証明してる。…だからもう気にする必要はないんじゃねーの?」
「…なまえよんだ」
「そこかよ!?…ハァ、気を遣って損した」
アルフは最後のパイを食べ切ると「ごちそーさま」と言って、ダルそうに立ち上がると店を出ようとドアに手を掛ける。
「アルフさん、ありがとう」
ドアを開き少しだけこちらを見る。
「ひでー顔」
焼いたパイは全てなくなっていた。
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今日はティーフが泊まりに来る日
だからルーベルは両親とティーフに話をした。
あの日からのことを。もちろん、前世の記憶については触れずに。
両親からは気づかなくてごめんねとティーフは、忘れてしまった思い出の分まで新しい思い出を作ればいいと言ってくれた。
ルーベルはまたちょっと泣いてしまったが、その涙に悲しみはなかった。
「もっと早く言ってくれれば良かったのに」
「ごめんね。言いづらくて…」
「…そうだよね、教えてくれてありがとう。ルーベル」
その優しい表情と声に安心感を覚える。
(同い年でこの抱擁力…。前世を足したら私の方が年上なのに。何だか申し訳ないなぁ)
「そういえばルーベルは明日暇?」
「明日の予定はお店の手伝いくらいかな」
「おじさんとおばさんがせっかくの休みなんだからルーベルと出かけておいで、だってさ」
「え?せっかくの休みだかこそゆっくり休んだ方がいいんじゃない?」
「学園に入学してから一緒の時間が減ったから出かけたいなって思ってたけど、迷惑だった?」
「そんなことないよ!」
「そう?なら明日は3区に行こうよ。ルーベルあそこに出てる露店好きでしょ?」
「3区!?ダメ!3区はダメだよ!」
3区はルーベルが人攫いに襲われた場所だった。
しかもあの場にいた憲兵の腕章はⅢ。つまり3区の憲兵は人攫いと繋がっているということになる。
「どうして?」
「だ、だって3区はその…最近人攫いが起きてるら!ティーフも聞いたことあるでしょ?最近人攫いが起きてるって」
「3区で?」
「うん」
(ティーフのためにも、ここは嘘を付かずに言った方がいいよね)
「へぇ。3区で人攫いねぇ」
(…あれ?ティーフの様子が…。これはもしかして怒っる?なんで?)
「人攫いが出てるのは、5区と6区のはずなんだけどなぁ」
「えっ?そうなの??」
(そういえば、街で人攫いが出るって事は知ってたけど、何区かは聞いてなかった…!)
「3区で出るなんて聞いたことないよ。ねぇ…何でルーベルは知ってるの?」
ティーフはぐっとルーベルに近づき、顔を覗き込むとその真っ黒な目でルーベルを見つめる。
(あぁー!めっちゃ怒ってるー!!)
逃げ場を失ったルーベルは素直に白状した。
「ふーん。それで何で今まで黙ってたの?」
「え、えっと、話すタイミングがなくて…」
「おじさんとおばさんは知ってる?」
「心配かけたくなくて言ってません。…でもそれ以降3区には行ってないから…」
「へぇ」
「…すみませんでした!」
「ルーベル。僕は謝罪が欲しい訳ではないよ」
「うん…」
「今回は助けてもらえたけど、もしかしたら攫われていたかもしれないんだ。そしたら僕は…」
「ディープ?」
ティーフはルーベルを抱きしめた。
「そう言う事はちゃんと教えて。ルーベルに何かあったら、僕どうしていいか分からないからさ」
「うん…ごめんね」
「ところで、ルーベルはその人攫いの顔は見た?」
ティーフはルーベルの髪を優しく撫でる。
「…見た」
「教えて?僕が後から憲兵に伝えておくから」
3区の憲兵と2人の男について話す。
その間もティーフはルーベルの髪を撫でていた。
「ありがとう。今から伝えてくるよ」
ティーフはそう言うとルーベルから離れる。
「えっ!今から!?」
窓の外は真っ暗だった。
「うん。早いに越した事はないし」
「それはそうだけど…」
「すぐ戻ってくるから大丈夫。ルーベルは先に寝ててね。あ、最後にもう一つ聞きたいことがあって…」
「何?」
「ルーベルを助けてくれた人ってどんな人?」
振り返りこちらを見たティーフはニコッと笑う。
「アルフさんって人。赤いローブを着た魔術師だよ。フードを被っているから顔は見たことがないけど。ディープよりも背が高いかな?」
「…そっか。ありがとう。おやすみルーベル」
「う、うん。おやすみ」
部屋の明かりが弱いせいだろうか。
最後に見せたティーフの表情を読み取る事が出来なかった。
(なんか久しぶりにちゃんとティーフと話したけど、あんな感じだったけ?でも最近私の方からティーフのこと避けてたし。怒ってるのかな…。明日もう一回謝ろう。それでお出かけ楽しもう!!)
ルーベルは部屋の灯りを消した。
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次の日ルーベルとディープは3区に来ていた。
「何だか憲兵さん達、忙しそうだね?」
「そうだね、何かあったのかもね」
慌ただしく動き回る憲兵を見ていると、声をかけられた。
「おや、ルーベルじゃないか。久しぶりだねぇ」
「おばさん!久しぶりです!」
「最近全く来なくなって心配してたんだよ」
「す、すいません、お店の手伝いが忙しくて…」
「あら、偉いわねぇ。それにしてもティーフ、見ないうちに随分男前になったんじゃない?」
「そうですか?ありがとうございます」
お店のおばさんはティーフに久しぶりに会ったこのが嬉しいのかたくさん話しかけているが、ティーフは困ったように相打ちを打っていた。
それを見かねたルーベルは話題を変える。
「そうだおばさん、なんか憲兵さん達忙しそうだけど何かあったの?」
「ん?あぁそれがね、昨晩憲兵の詰所が襲撃にあったらしいのよ」
「え!?憲兵への暴行は重罪なのに…」
「まだ犯人は捕まってないみたいみたい。でもまぁ3区の憲兵は嫌われているから、驚きはしないわ」
「そうなの?」
「そうよ!横暴な態度で恩着せがましい。こっちからしたら、お前達の給料は私達の税だぞって感じよね。それにここだけの話、…3区の憲兵は裏の人間ど繋がっているってうわさもあるのよ」
「えぇ!?」
(それうわさじゃなくて、本当です。実際攫われかけました…)
「さ、それよりもあなた達お腹空いてない?今日は具材をサービスしてあげるわよ」
「買います!」
2人は買ったもの片手に街を歩く。
「何か見たいものはある?」
「ティーフは?」
「僕はルーベルといるだけで楽しいから」
「またそんなこと言って…。それなら色々見て回ってもいい?」
「もちろん」
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日が傾き始めた頃、ルーベルはふと立ち止まる。
「あれ?ここに使われなくなった教会がなかったけ?」
「うん。昔はあったけど、浮浪者とかが居座るようになったから、取り壊したらしいよ」
「そうなんだ」
「どうかした?」
「昔ここでさティーフとかくれんぼしたよね?」
「…」
「でもティーフ隠れるのがすごく上手で…」
「ルーベル泣いたんだよね」
「だって、暗くなってもティーフ見つからないんだもん」
「…置いて行っても良かったのに」
「え?ダメだよ、一緒に帰らないと…」
「どうして?」
ティーフを見ると表情はいつも変わらない、優しい顔をのはずなのに少しだけ寂しそうに見えた。
「私たちは家族だから」
「血の繋がりもないのに?」
「そうだよ。私もお母さんもお父さんもティーフの事が好きだから大切だから。それだけのことだけど、それで十分だと思う」
「…」
黙ってしまったディープの手を握る。
「だから一緒に帰ろう。今度は日が暮れちゃう前に」
ディープがルーベルの手を握り返す。
「そうだね。今度は怒られないようにしないと」
日の位置が低くなり、ティーフに影がかかる。
黒髪も相まって闇に溶けていくように見えた。
ルーベルは手を引く。
「それからもう一つ。ティーフと家族でいる理由」
「?」
「ティーフ。あなたといると、幸せになれるから。こんなに幸せだから。…だからありがとうティーフ、私たちの家族になってくれて。私たち本当に幸せなんだよ」
(幼い時の記憶の中にはいつもティーフがいた。きっと忘れてしまった思い出の中にもティーフがいる。血の繋がりがなくたってそんなのもう家族同然だよ)
「…僕も幸せだよ」
そう言って笑うティーフはいつものような隙のない完璧な笑顔ではなく、幼さを残した少し不恰好な笑顔だった。
ありがとうございました!!




