04
幽霊に怯える日々を過ごしていたある日、私はひどい風邪をひいた。それも普通の風邪ではなく、喉が腫れ高熱が出て、水分さえ飲み込めないくらいのひどいものだった。布団に横になっているのに目が回り、平衡感覚がなくなるような感じだ。このまま呼吸もできなくなって死ぬかも、とそんな気持ちになった。
夜中にあのおじいさんに首を絞められた感覚が蘇り、意識がなくなっては目覚めてを繰り返した。熱が出ている間は様々な幻覚を見ました。部屋の中に、日本兵のような格好をした人たちが寝ている私を覗き込んでいたり、その人たちが歩く足音がザッザッザッザッ……と聞こえたり、それはもうずっと続いてうなされていた。
そうして解熱剤だけで乗り切りって七日目、ようやく熱が下がった。うなされていたときに見たあれは、幽霊なのか幻覚なのかもう今はわからない。私は限界だった。
「引っ越したい」
私は泣きながら夫に申し出た。今までのことが理由で……と話すつもりだった。しかし……。
「この仕事を辞めたいんだ」
夫もそう言って項垂れたのだ。仕事から帰ってきても眠れず、精神的に追い詰められていたという。
二人でそう決め、すぐに引っ越す準備を始めた。しばらくは貯金を切り崩すことになるが、もうこの部屋には住めないと感じたのだ。
結局は部屋を変えても同じ幽霊が出る。きっとマンションそのものがだめだったのだと思う。
ほとんど荷物のない私たちは、すぐに引っ越し先を決めて逃げるようにマンションを出た。引っ越し先で夫が仕事をしながら私も就職先を探すことになった。それからは一度も霊現象を体験していない。あのマンションは幽霊マンションだったのかもしれない。
おわり