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5. 性・子どもの事情

約1,500字でお届けします。

 ふと、私は考えたことがある。


 いや、それほど大仰なことではないが、個独が確立されたこの社会において、自分以外の人と一生出会うことのない環境であることから、はたして人は存続できるものなのか、である。


 もっと簡単に言えば、子どもはどうやってできるんだ、ということだ。


 この答えはAIから既にもらっていて、答えはYESである。つまり、人は何の問題もなく存続しているし、子どももできているということだ。


 どうやって、もAIは教えてくれた。


「朝か……」


 徐々に明るくなる明かりとともに、アラームが鳴り響く。私が起きているよと言わんばかりの仕草や動きをすると、AIはそれに反応してアラームを消したり、私を包み込んでいたふかふかのシートの形状を変えたりしていく。


 その後、一旦卵型の装置の中から出て、トイレを済ませてから再び装置の中へと戻る。起床はまだ終わっていない。


 その証拠に、私の左手首に身に着けているデバイスには「セイエキヲカイシュウシマス」という表示が出ている。


「はあ……」


 ある歳を境にして、ほぼ毎日の精液採取が日課になった。私はこの作業がどうも苦手なようで、自分でもびっくりするくらいの溜め息が思わず出てしまう。


「仕方ない……健康チェックでもあるし、生活スコアにも響くしな……」


 私が渋々と自分の性器を取り出すと、AIが反応して、先端に管の付いた筒状のデバイスを用意してくれる。そのデバイスで性器を覆うと作業の開始だ。


 筒状のデバイスは中が柔らかく、粘性のある液体で濡れており、微弱な振動を性器に与える機能がある。それがぐにぐにと私の性器を刺激して、膨張させ、精液を吐き出させるのだ。


「うーん……」


 正直、気持ち良さと気持ち悪さが両立した作業である。少なくとも楽しくはない。


 その昔は男女で直接まぐわいあうことで性的な興奮を得つつ、性的な行為をつつがなく終わらせていたようだ。


 しかし、性の多様性や異性間での折り合いが悪くなったことが重なって、子どもが一時期激減したこともあり、最終的に個の尊重という名目の下、他者との性的な行為そのものがほぼ廃止の一途を辿ってしまったらしい。


 それに拍車を掛けたのは、技術の発達によって、体外受精および人口胎盤や人口子宮の技術が確立したことだ。これらの技術は自然受精よりも受精確率が上がり、女性への負担も減ったという偉業だった。


 さらに、自由恋愛による子孫の形成では成し得ることのなかった様々な精子と卵子の遺伝子の観点から見た受精をも可能にし、それは種の多様性を確保できるようにもなったことを意味していた。


「くっ……そろそろ……今日は思ったよりも早く終わりそうだ……」


 こうして、人類は技術によって種の存続を維持するようになった。


 もちろん、その弊害も小さくなく、親に該当する精子や卵子の提供者たちが子どもに対して愛情がなくなるというものだったが、それを鑑みた国や有識者の判断によって、親子という制度も親が育て上げるという仕組みもなくなった。


 つまり、産まれた子どもはすべて国が管理することになり、まさしく国の宝になったわけだ。


 これらの結果として、人は対人関係の最後の砦と言われていた家族や血縁という概念が薄れて、完全に個となった。


「くっ……っ……ふぅ……」


 ようやく出すことのできた精液は、粘性の液体のおかげもあって空気にほとんど触れることなく、デバイスの先端にある管を通ってどこかへと流れていく。


 嫌々で面倒な作業ではあるものの、これがどこかの誰かの卵子と受精することで次代の子たちに繋がっていくのかと思うと、少しばかり誇らしい気にもなるのは中々不思議な感覚だった。

お読みいただきありがとうございました。

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