新しい家族たち
『師匠と弟子の生活雑記帳』からの話です。
「お、スコット。1人でお使いか?」
声のする方を向けば、魚屋のおじさんが店の奥から声をかけてきたらしい。
スコットは自分の姿をその場で見ると、魚屋のおじさんに返事もせずに家までの道を駆け出した。
「とーさん、かーさん……」
あの角を曲がれば家に着く。
きっと両親は笑顔でおかえりって言って、抱きしめてくれるはずだとぎゅっと手のひらを握りしめて走った。
家からは楽しげな声がして、スコットはドアノブにそっと手をかけた。あとは引けばいいだけなのに、ひどく重たく感じてしまう。
躊躇っていると不意に玄関が開いて、スコットは顔を扉に打ち付けた。
「あら、ごめんなさいね」
「――っ。大丈夫だよ、かーさん」
見上げて、そこには確かに母親がいて、スコットは恐怖に堪えるようにぎゅっと自分の服の裾を掴んだ。抱きつきたい、けれど怖いのだ。
目線をスコットに合わせたその人は小さく首を傾げてから、きっと迷子なのねとつぶやくとスコットに名前とどこから来たのかを尋ね始めた。
上手く声が出せない。どうしていいかも分からない。けれど邪険にされてはいないことに安堵してスコットはポロポロと大粒の涙をこぼして立ち尽くす。
目の前で母が狼狽えていると、眩しいほどの光が全てを包みこみスコットはゆっくりと眩しさに目を開けた。
「朝だぞ、スコット」
そこにはつい最近師匠となったイグニスがいて、スコットはキョロキョロと視線を動かす。
「……あれ?かーさんは?」
「夢でも見てたのか?」
こくりと頷いたスコットは、涙のあとを拭うとベッドから降りて、師匠をじっと見つめる。
「怖い夢でも見たのか?」
「……うーん、師匠はずっと師匠ですよね?」
朧げにしか覚えてない夢の欠片を集めたスコットは初めてあった日を思い出してそうイグニスにこぼした。
イグニスは当たり前だと笑って、さっさと顔を洗ってくるようにスコットに言うとリビングに行ってしまう。
スコットは窓の外を向くと小さく1度だけうなずいた。
大好きだった家族とはもう仲良くは会えないかもしれないけど、ずっと家族だと言ってくれた師匠や同じ境遇の人たちがいるのだからきっと大丈夫だと。
お読み下さりありがとうございました。
夢と言うと微妙なラインだったりですが、ひとまずスコットの決意と言うことで。