ライズ・フォン・ラドルガ
次期領主、ライズ・フォン・ラドルガにとって妹クロエの存在は救いだった。
姉はこの領地最強の強さを秘めるノエノス・ラドルガを持ち、その訓練は過酷を極め、いつも姉にボコボコにされるという現実。
最近は思い出すだけでもトラウマでいやな汗をかく。
そしてそんな僕を厳しく躾ける父、ランドル・フォン・ラドルガ。
父の指導は厳しかったが姉ほどではなかった。
まだ優しい方だ。
武術に加え領地経営を教えてもらう。
姉が父に勝ったことにより訓練は姉に譲った。
「あと10年若ければ・・・。」とか言っていたが絶対言い訳だとわかった。
父よ。もう少し粘ってくれてたら、もう少し訓練が楽だったのに!
次にメイドのポルル、こいつが恐い。
訓練から逃げようとすれば、いつの間にか襟を掴まれ姉の前まで連れられてきている。
逃げたのがバレたのか、その性根を叩き直すためだろう。
さらに訓練自体、激しくボコボコにされてしまう。
それを見ていて・・・
「ふふふ。」と笑うポルル。
あの野郎と何度思ったことだろう。
もう嫌だ。この領を抜け出したいと夜逃げを計れば、何処からともなく現れたポルルにまた連れ戻される。
まさかこいつ鼻が利くのかと思ってしまう程だ。
僕の匂いをストーキングする事ができるのか?となんだか恐い。
絶対モンスターが化けている。
僕はぶるぶる震えた。
そしてしまいには母の前に連れて来られる。
この領で一番恐いのが母のラミーナ・フォン・ラドルガだったりする。
その魔法はこの大陸でも5指に入るほどの実力。
睨まれて泣かなかった子供はいないとか、確かにちびりそうに、いやこれ以上は僕の尊厳に関わるから言わない。
黙ったまま正座をさせられ、そのまま一時間二時間は当たり前、母の執務中の時間はずっと正座のまま、死んでいる。
「あら、いたの?」と気付いたら気付いたで、そのまま出ていく。
置いて行かれたのだが、これもういいよねとか思ってたらすぐ帰ってきて、何か食べながら行儀が悪い。
なんだか睨まれてそれを指摘する事が出来ない。
それが深夜まで続き、寝る時間になって許されるのだ。
足がふらふらになりながら、それをツンツンして遊ぶポルル。
こいつ性格が悪すぎる。
そんなフラフラの私が間違って妹の部屋に入った時だった。
そこには天使がいた。
今まであまり関わりを持たなかったが、それはどう接していいかわからなかったから、深夜の月に照らされて、可愛く見える妹のクロエ。
「なんて可愛く、尊いんだ。」とのその姿を見て思ってしまった。
ポルルが後ろで呟く。
「こいつ何言ってんだ。ついにおかしくなっちまったか?イジメすぎたか?」
目の前の天使を見続けている。
「あの、お兄様?」と声をかけてくる。
私はこんな優しそうな人にあったことがない。
領の人間は基本的に厳しい。もちろん次期領主に厳しい指導をしているから仕方ないのもあるだろう。それに気付かない、いや気付けない年齢だった。
そんな妹の前で号泣する。
今までのこの領での辛さがあふれ、頭を撫でてくれる。
色々不満をぶつけ。それを受け入れてくれるクロエ。
「よちよち。」と頭を撫でてくれる。
僕にとっては天使だった。
大事な事だから二度言う。
色々吐き出して楽になった。
「また来ていいかな?」と思わず聞いてしまう。
「うん、いいよぉー。」と声が帰ってくる。
ああ、マジ天使、マジ天使、このままめでていたい。
そう思ってしまう。
僕はこの領で頑張れる。
そう誓えた。
それからの地獄になんとか耐えられたのは妹のおかげだった。
そんな毎日だったが、妹が王都から帰ってきて、体調を崩す。
もちろん見舞いにも行った。
あまりに行き過ぎて、一週間に一回と母に言われて、思わず舌打ちしたほど、抗議も受け付けない母をこの時は殴ってやろうとして魔法のバリアに阻まれたりした。
カウンターの魔法がいつ発動したかわからないまま気絶していた。
なんだかそれが僕が弱いからだと言っているような気がしてならない。
僕が弱いからクロエがクロエが・・・その悲しみが僕を強くした。
今期の王立学園で首席で合格し、今もまだトップで活躍を続ける人気者になった。
そして今休みで帰ってきたら、俺のよちよち撫でられるポジションが・・・あの変な生き物に取られているじゃないかぁぁぁぁー。
僕が荒れるのは仕方ないことだと思うね!
さっきのシーンに戻る。
俺とお兄様との睨み合いが始まっている。
「がるるるる。」と兄と呼ばれた男がモンスターのポーズで睨んでいる。
「・・・。」と俺は余裕の表情。
「ふん。」と鼻で笑った。
「このぉぉぉ勝ち誇った顔をしやがってぇぇぇ!!」
ぶちぎれマークが額に浮かんでいる。
「よし勝負だ!」なんかわけのわからないことを言い出す。
「僕が勝てばお前は出ていく。お前が勝てば僕のメイドをやろう。」
「なんで私が賞品になってるんだよ!」と兄の頭をはたくポルル。
「お兄様やめてください。」と俺を庇う様にするクロエ。
「えっ。」と戸惑った顔をする。
「そんな無体なことを言うお兄様は嫌いです。」とはっきり言う。
「お兄様は嫌いです。嫌いです。嫌いです。」とエコーのようにライズの頭に響きわたる。
「そっそんなぁぁ。」と膝から崩れ落ちる。
なんか白く見えるのは気のせいではないらしい。
同情した方がいいのだろうか?
「くっ。」となんとか立ち上がる。
そこから剣を抜き。
「ちょっ何をしようとしているんですか。」と焦るポルル。
「おっ、お兄様正気に正気に戻ってください。」とその愚行を止めようとする。
「こいつ、こいつさえいなければぁぁ。」と剣を突き付けてくる。
庇おうとするクロエだが意外に狙いがしっかりしていて、俺の額に吸い込まれるように剣が、あっ、これはヤバいかも。と目を閉じる。
その瞬間ボキっと何かが折れる音がする?
なんの痛みも感じないが?ゆっくり目を開けるが、折れてる剣と驚いた顔をするライズ。
「なっ!なっ!王都で買ったレアものの剣がぁぁぁ!」と頭を抱える。
それは同情するが、売られた喧嘩、買わないわけにはいかない。
口を開きながらファイヤーボール(特賞w)火がボっと髪の毛に着火する。
「なっ!なっ!」と驚いた顔をして、手で消そうとするが中々消えない。
流石にヤバいと思ったが、まぁいいかと思ってしまう。
「おぼえていろよぉぉぉぉ。」そう言って慌てて外へ走って言った。
ドボンという大きな音がしたから、水にでも入ったのかもしれない。
「ああ、まぁご主人様が申し訳ないな。」とポルルが謝ってきた。
「ぎゃお。」お前も大変だな。と返しておいた。
「まったくだ。」と帰ってきたときはドキッとしたが偶然だろう。
「ポルル。お兄様をよろしくね。」
クロエはポルルの背中にそう声をかけた。
それに応えるように手をあげてこの部屋から出て行った。
「テトもごめんね。お兄様ちょっとアレだから・・・許してね。」
「ぎゃお。」はーい。と返事しておいた。
それにしても妹にアレって言われる兄って同情した方がいいのだろうか?
「えーっと、この流れで申し訳ないのだけど、お代わりどうしますか?」と持ってきたパンをスミンはクロエに差し出し、美味しそうに食べ始めた。
意外に野性的な食べ方をする。
まぁそんな日もあるかともうひと眠りを決め込んだ。
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