ビカーナ・ジュエル
俺は王都内を飛び回っている。
相変わらず、俺(冒険者のヘイロン)の話題で持ちきりだった。
別に王子の拉致なんてしたかったわけではなく身体が勝手に・・・まぁノリノリだったのは否めないかもしれない。
そんな行方不明の王子の代わりに今度は第二王子派閥が水面下で動き出している。
すでに第一王子派の主要な者達は何らかの罪(でっち上げで)で捕まり、そうでないものは王都から逃げて行った。
第二王子は第一王子みたいに拉致をされないかと警戒しているようであくまで部下に命令してのようだった。
さて第三王子の派閥はと言うとルイネが必死になってクロエを勧誘している。
「やだ!面倒くさい!」と言って断っている。
まぁクロエらしいが、それにめげずに通い続けていた。
最後には友人の頼みを無下に出来ないのがらしい所かもしれない。
「今度会うからそこで決める。」と口を尖らせて渋々と頷いていた。
クロエのあの表情はあまり見たことのない嫌そうな顔だった。
まぁそんなクロエだが、今は鬼スミンに付いて勉強中だったりする。
流石のクロエもスミンの前では逃げられないようで、すぐに首根っこを捕まえられ椅子に座らされていた。
「むーむー。」と頭を捻り出しながら鬼教官のスミンに勉強を教えてもらっていたのだった。
そんな逃げられないクロエの代わりに俺はこの王都を散策中だったりする。
なぜかちゃんちゃんこを着て、これが今の王都の流行りなんですと目をキラキラさせてスミンが着せてきた。まるで赤ちゃんを世話するようにやめいと言おうとしてクロエの前だと自重する。
「ギャオ。」と言って抗議するだけだ。意味のない抗議に終わるのだがな。
なんでも王都の貴族界では今、従魔達に服を着せて私の子はこんなに可愛いのよとかカッコいいだろうと自慢しているらしい。
まぁ服を着せる事でそれが貴族の従魔であることを実証できるらしい。
だから手を出せない出したら貴族を敵に回すからだ。
なんとも言えない格好で王都を散策する俺。
「ふんふんふーん。」と竜でも鼻歌を歌うのだ。
「我々は平和を願わなければなりません。」という声が飛んでいたテトの元に何処からか聞こえてくる。
広場の方だろうか年はそこまで若くはないが中々グラマーなシスターが街頭で呼びかけていた。
「今この時争いを望むことは愚かな事です。我々は手を取り合い平和を実現することが必ず出来ます。」と訴えていた。
聖教国のシスターだろうか?聖教国と言えばスミンがいた所だなスパイを送り込んでくるくらいだからとんでもない所なんだろう。関わらないように去ろうとする。
「大聖母様。やはりここでの布教は・・・。」とこの状況で道行く人々は誰も聞き入っていない。誰もが自分は戦争と関係ないと思っている。
戦争の足音はすぐそこまで差し迫っているというのに・・・
「いいのです。我々が声を上げることが大事な事なのです。」
「しかし、危険です。」
「いいえ、私は続けます。」とむしろ気合を入れていた。
止めた信者も諦めたのか、どこかへと去って行った。
ここから去ろうかと思ったがしばらくここにいようとなぜだか思ってしまう。
スミンのことを思ったからだろうか。
なんとなく関係者じゃないかと同じ匂いで判断する俺はおかしいのだろうか?
パタパタと近場の屋台で焼き鳥を高いなぁーと物価の違いを感じながら買っていた。
アイテムボックスから金貨を加えて出したから、店主が驚いていた。
来た客には誰にでも美味しい焼き鳥を出すのが信条とか言っていた。
「流石にモンスターの子供に出すのは初めてだ。」と笑っていた。
「はいよ!お待ち!」
串焼きを沢山出してくる。それを上手に口に含みながら、パタパタ飛んでいく。
「気を付けろよー。」とか言っていたけど、すぐ近くの屋根の上に着地する。
「そこで食べるんかい。」とか言っていたな。
「もぐもぐ。」しながら大聖母と呼ばれた女の演説を聞き、食べ終わる頃にはいつしか寝息をかいていた。
気付けば夜中になっている。
大聖母と呼ばれていた女はいなかった。
「帰ったのか?」と思わず呟く。
そう思ったらマップに危険表示が出ている。
やれやれと思いながら飛んで行くのだった。
腹をさされている。裏路地スラムに信仰を広めようとしたのがいけなかったのかもしれない。
動けなくなった私を物取りが金目の物を取って去って行く。
大聖母は薄れ行く意識の中で思った。
一体何処で間違ったのだろうか?と。
昔はまだよかった信仰は平和を訴えるものだった。
それが変わったのは、天使によるお告げがあった時だろうか?
聖教国の国中に響き渡るほどの声。
その声に酔いしれ、人々は熱狂した。
そして戦争へと兵を取り始める。
私ビカーナ・ジュエルも仕方なく、スパイの養成を手探りで始めた。
「メイドというものは有力者に取り入る一番の方法である。しっかり行儀作法を学ぶように!」と言って座学を終わって教室を出ようとする。
「先生。」と近寄ってきたのは私の優秀な生徒ここではスミンと言ってスパイとして名前を変えたようだ。
「どうしたの?」
「メイドは立派な職業なんでしょうか?」と疑問に思ったことを聞かれた。
「ええ、礼儀に満ち溢れ、立派なメイドは気品が必要になります。」
「なるほど。」
「どうしてそんなことを。」
「いえ、今度エスリーヘネワトの戦いの活躍したランドル伯の元へとメイドとして潜入するように言われたのです。」
「なるほど、赴任地は何処ですか?」
「それが辺境領ラドルガなのです。」
「ああ、そんなぁー。」と頭を抱える。
この大陸で一、二を競うくらいに危ない辺境と聞いている。
いくら優秀なスミンでも生き抜くことができるのか?
「わかりました。赴任するまで一緒にメイドに付いて学習しましょう。」
それから大聖母ビカーナとスミンのメイド修行が始まった。
まぁ食事だけはどうすることも出来なかったが、他は完璧だと思う。
「よし、行って来なさい。いつまでも無事を祈っているわ。」
そう言って送り出したのだった。
あの時のことが走馬灯のように思い起こされる。
思えば彼女スミンをどこか私の子供の様に接していたのだと思う。
送り出す時抱き締めておくべきだったかもしれないとあの時を振り返っていた。
土砂降りの雨が急に降り出す。
そこに誰かがいるのだろうか。
あの恋焦がれた竜の像がぼやけて見える気がする。いやその鎧の男と重なったのかもしれない。
「テト様。」
手を伸ばしてぐったりとするように手が降ろされた。
いつの間にか土砂降りの雨が振りだしている。
その中をマップのビーコンを頼りに進んでいた。
強引に着地をして冒険者ヘイロンの姿になっている。
着地して最初に掛けられた言葉がテト様だったのがちょっとびっくりした。
どこかで名前を言っただろうか?いや会ってないはず偶然か?必然だったらなんだか恐いぞと身体を震わせる。
大聖母は死体となっているのか、優しい顔をしている。
まぁ土砂降りの中見えるはずもなく。
その大聖女に俺は土砂降りの中、キスをして背中に背負って運び始めるのだった。
その様子を影で見ている者がいる。
「あれが懸賞金10億か。」と格好は忍び姿だった。
路銀が心もとない、しかし狙うのは無理だった。
どこからでも私は殺されてしまうと五感が感じている。
あれはどんな化け物より化け物だ!と強者は強者を感じることが出来たように彼から放たれる気配に彼女はくらくらしている。
息切れも起こす程、呼吸を忘れていたかもしれない。
「ぜぇーはぁーぜぇーはぁー。ふー。」
息を整えることに成功する。
「奴には近づかないようにしよう。」と誓う。
「行こう。」と彼女は本来の目的である棟梁の孫娘を探すのだった。
俺は大聖母を連れながら王都の道を走っていた。
まぁ土砂降りだから、懸賞金がかけられている俺が走っているのもわからないだろう。
背負っているおばさんと言っていいのかまだ若いかもしれない?あれ、こんなに若かったかと疑問に思いながら、一路スミンの元へと急いで駆けて行くのだった。
ブックマーク、評価お願いします。




