ランドルの覚悟
宰相クオン・フォン・アケドニアはこの領に入る前から困惑していた。
窓からラドルガ山を見ながら曲がるしっかりした道がある。
これ自体は普通な事ではあるが、他領と繋がっている道が普通より広いのだ。
しかも不自然な程に平になっていて、山脈なはずなのにその山脈がまるで道を作るように移動している。
まるでこの領が山のような魔物でも飼いならしている程に・・・
他の兵や者達も把握しているだろうが、本当に把握してはいないだろう。
「こんな道が出来たんだ。」位の認識だ。
険しい顔でそのラドルガ山を見ていた。
王家からフレイザを辺境の地に送り込んでいて良かった。
報告を受けるたびにそれが嘘ではないか、商人や旅人を呼んで確認したほどだった。
「お父様。」そう言ってくる次女のルイネが話しかけてくる。
「なんだ。」
「この道おかしくないですか?」と子供心に聞いてきたのだろう。
私の子供の中で一番優秀な子だ。
それに他の者達よりも性格が良い。だから気に入っていて可愛がっている。
惜しむらくは女と言うことだ。
そう言われたからだろうか男装をするようになっている。
女性だからと言われるのはあまり好きではなく、見返そうと勉強や武芸に励んでいたりしていた。
「気付いたか。」
「はい、馬車の振動も恐ろしくありません。」
「恐らく何等かの魔法的な付与がされているのだろう。」
「道にですか?」と驚いている。
商人たちが何人も通っていく。
利に聡い商人達はもしかしたら王都よりもこの辺境が富をもたらすと判断しているのかもしれない。
ルイネを見るとそこまでは気付いてはいない。
まだ子供だとそこまで求めるのは酷だろう。
「それよりもラドルガ山をどう思う?」
「非常に美しく雄大であると思います。自然に圧倒される程です。」
見れば見るほど圧倒されてしまう。間近で見ると、空まで反り立った山をどのように登るのかわからないほどだ。
「そうか。そうだな。」きっとこの山がこの領の象徴。
そう思い、その山を見ていた。
そうしたら急に馬車が止まる。
「なんだ。何があった。」
「前方に砦が見えるのですが・・・」
その砦は山と山に挟まれた谷にそびえる砦だった。
いつの間にこんなものを作ったのかその建物は敵の侵入を防ぐもの、そして関所の役割を担っているようだ。
「お父様。」ルイネも気づいたようだ。
こんな壮大な建物は辺境の国境沿いや領主邸のような所にしかないだろう。
商人が通過を待っている。その横を我々が通り過ぎる。
中も砦らしく兵士が訓練に励んでいた。
「これは宰相様。」と挨拶に来たのはこの領の警備責任者兼執事のタルタロスだった。
「タルタロスか。」馬車の窓を開けて声を掛ける。
「ご無沙汰しております。」と挨拶をしてくる。
昔タルタロスが国軍にいた頃によく訓練を受けていたことがあった。
残念ながら、私に武の才能はなかったが・・・
「積もる話はあるが、これから領内の護衛を頼む。」
「はっ!」と答えて30の兵をつけてきた。
皆辺境で揉まれたのだろう。
屈強な兵士たちだった。
それもそのはずであろう。宰相は気付いていないが、この砦の中にはダンジョンが存在している。彼等は日々このダンジョンでレベル上げを励み屈強な戦士へと変わっていたのだ。
そして砦を過ぎた先に見えた物は領の全体であり、バカでかい城だった。
まるで王城に匹敵する。いや、下手をしたらそれ以上の城、これは謀反を疑われてもおかしくないのではないかそれほど大きな城だった。
ただ外見は黒い。そのことが威圧を持っている。
敵に対するなら、これほど不気味な城はないだろうし、それを取り上げたとして、優美な貴族がそこに住むかと言われれれば絶対ないだろうと思う。
ルイネを見ればその城に釘付けになっていた。
まるで虜になっている。
なだらかな丘の上からは東の遠くに整備された港まで見える。
いつの間にそこまで大きな港までできているのだ。
その向こうは木々が生い茂り自然が豊かなのだろう。報告によれば木に生るフルーツなんかがよく取れるとか・・・
南には穀倉地になっている。まだ開墾中だろう。
西には沼地が広がりそこの開拓はまだまだ先の話しだ。
城壁の中の街を見て見れば、所々に建築中と思わしき建物達。
ここで商売を始める者たちも増えているみたいだ。
辺境領は確実に発展する。
この状況をどうするかと頭の中で考える。
大きな城門が見える。そこを守るのは冒険者と言うことだ。
辺境ならではのことだろう。皆が皆敬礼で迎え入れてくれた。
馬車はゆっくりと発展途上の街の中、皆が圧倒されている城へと向かって行くのだった。
ラドルガ城に到着したクオン達は馬車から降りて、私達は辺境伯家の歓待を受けていた。
その最中にトラブルがあったらしいが、鮮血鬼ノエノスと、氷点下のラミーナが対応する。まるでここから離れたがっているようなのは感づいていても、言葉にするべきではないだろう。
ルイネを見ると辺境伯の次女と仲良くなっているようだ。
友達ができるのは良いことだとその姿を微笑ましく思った。
そして今、宰相の元へと報告に来たランドル・フォン・ラドルガ。
良くも悪くも可もなく不可もなく。
武芸に秀でているとはいっても、夫人のラミーナ、娘のノエノスに劣る。
正直辺境伯としてふさわしいかと言えばそうではないだろう。
そして今回の出来事から、その過程まで報告してくる。
やはり凡人か・・・
「宰相様、出来ればお人払いを・・・。」と急に真剣な顔になってお願いをしてくる。
辺境伯からのお願いなのだ無下にするわけにはいかない。
私はそれを聞き入れ、人払いをする。
護衛の兵は危ないと言っていたが、お前等の方が危ないと思っている。
一体何人もの奴、表の兵が暗殺しに来たことか・・・
おかげで表の警備は信用していない。
私の背後には信頼できる護衛の暗部がいるのだから。
「この度の件に姉が関わっているのです。」
「姉?」
「閣下も聞いたことがあるあるかもしれませんが、我が家の問題児マリーナ・フォン・ラドルガです。」
「・・・そうか。」
「はい、出来れば温情を賜わればとこの通り。」と私の前で土下座をする。
非公式の場とは言え、貴族がプライドを捨て土下座をするのだ。
それを受け入れねば貴族としての格が問われる。
そこまでするのかと、家族に対して己にまで罪が及ぶことも辞さない男。
こういう男は使えるし、私人としても好感が持てる。
クオンのランドルに対する評価がこの時覆った。
「ふむ、構わない。が、そのマリーナに会ってみよう。処罰はそれからだ。」
「はっ、ありがとうございます。」まだ土下座を続けている。
クオンは立ち上がりランドルの元まで来て背中に手を当てる。
「私も家族のためなら頭を下げよう。だが、それをできる貴族が今どれほどいるか。ランドル殿、私は貴方の家族を思う気持ちに胸を打たれている。これからは家族だけではなくアケロ二ア王国も支えてくれ。」
「はい!」と泣きながら返事をしていた。
多少皮肉も込めてしまった。いかんな宮廷貴族共に毒されているようだ。
絶対絶命を超えて人が成長したか、前の凡庸なラドルガならできないだろう。
家族のためにここまでできる男はどこまでも信頼できる。
これから頼って行こうと宰相クオンは決めた。
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