御取り潰しの危機
マリーナは部屋に閉じ込められていた。
事件の大まかな事情を聞いて、それが不可抗力のような物だったと判明した。
普段なら許されることも、宰相閣下のいる時に起こった事故に宰相の護衛の人間が騒ぎ立てる。
「宰相閣下の命を狙った無礼者だ。」と言う声は段々と大きくなり、もはや処罰は免れる物ではなかった。
「どうしたものか。」と執務室で頭を抱えるランドルは姉の失態を庇い、その矛先が我が家に及ぶことを恐れていた。
「下手したら我が家が御取り潰しになる。私の首が飛ぶくらいならいいが・・・。」
未だライズの教育が終わっていない。
そのことを指摘され国からの税の増税などあるかもしれない。
さらに宮廷貴族にうまく使われるのが落ちだ。
あいつ等は権利とか権益とか、そんなものに寄生してお金を要求するほどの屑野郎達が多いのだから・・・私たちも昔までその中に入っていたのだがなと自嘲する。
領地経営をして領民との交流も増え、私の価値観が変わっていった。
前までは大変だったが、今ではこの領を愛しているほどだ。
それに最悪この家を乗っ取りされる恐れもある。
ライズには毒物を飲ませ、寝たきりの夫に代わりに嫁いできた者の実家が執務をとる。
最近はよくある話しらしい。
そんな権力欲剥き出しだからこの国の治安が悪くなる一方なのだ。
まぁ表立って批判はしないが・・・
それにノエノスは自力でなんとかするだろうが、クロエの嫁ぎ先なんかが年配のおっさん貴族とかになるのは・・・許せるものではない。
ラミーナも、いや公爵家の娘なのだから実家に戻るだけならばいいが・・・
「いかんな。どんどん思考が悪い方向に向かっている。最悪は想定すべきだが、今はしっかりこの事件に対応しなければ・・・。」とマリーナに会いに行く事に決めた。
ランドルが謹慎しているマリーナの部屋の前まで来たらいつもと違うよそ行きの格好をしているアリアと出くわす。
「アリア。」と思わず声を出す。
「叔父様、この度母が申し訳ありません。」と謝ってくる。
あの破天荒な姉からこんな優しい娘が生まれるとは、きっと性格は父親に似ているのだろう。性格が似なくてホッと胸を撫でおろしたのは何回目だろうか。
このまま成長して行ってもらいたいものだ。
そうなると嫁ぎ先なんかも考えてやらないといけないかもしれない。
「構わない。私も姉の弟でもあるし、可愛い姪っ子の謝罪なのだから、受け入れるさ。」
「・・・。」と顔を伏せている。
「心配なのだろう?大丈夫だ。命まではとらないように宰相様にも言っておく。」
「無理難題を押し付けてくる。あんな母でも母親なのです。どうかよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げて、涙目でここを去って行った。
「・・・。」姪っ子を泣かせるとはまるで私が悪い男みたいだな。
「どうしてこんなことになってしてしまったんだ?」ランドルは問いただしていた。
「・・・。」対するマリーナは憮然としている。
「姉上、流石に反省してなにか言って欲しいのだが・・・。」
「悪いとは思っているよ。だけど仕方ないだろう。やられたらやり返すのが船の上では常識なのよ。」
「姉上、もうちょっと落ち着いてくださいと言っているのです。男に捨てられたからって、そんなに八つ当たり気味に喧嘩を売られては・・・。」そうなのだ。付き合っていた男がいた時は大人しい乙女だった姉。それが男に捨てられたことにより狂暴化、今では近隣諸国に恐れられるうちの領の海軍のトップだ。
「私が・・・私がどれほどあの人のことを愛しているか知らないくせに!!」と前で手錠がされているにも関わらず、ランドルの胸を掴んで持ちあげる。
「姉上はいつも暴力で解決できると思っているかもしれませんが、暴力で解決できる問題なんてそんなにない物なんですよ。それが政治です。」
「弟の癖に言うようになったね。」と褒めている。
「貴方と違ってしっかり父親をやっていますからね。」
二人の目線が交差する。
ばっと手を放すマリーナ。
「・・・あんたから見たら私は母親失格だろうね。だけどね、いい女ってのは好きな男をいつまでも愛していたい物なのよ。」
「私もラミーナの事が好きだし気持ちはわからなくはない。だが、そろそろアリアの事も真剣に向き合ってやれ、父親が誰か知らないが・・・娘にだけは教えておけよ。あの子も大人になっている。このまま母親と別れる事になれば一人になるんだからな。」
「弟よ、私が死ぬ前提で考えるのはやめてくれないか?」何か私はどんなことがあっても生き残るみたいなオーラを出している。
「いや、宰相がこの領にいて問題を起こした。流石に処罰がないのはおかしいからな?」
「・・・マジか?」今知ったのか、驚いている。
「マジだ。」と頭を抱える。
「いや、ラミーナもノエノスも貴族っぽい服を着ていておかしいと思っていたが、そう言うことか・・・逃げるか。」
「逃がさないからな。」とドアに向かって行こうとしたマリーナを止めるランドル。
「逃げれないな、アリアを人質にとられている。」冷静になったようだ。
「わかっているなら、逃げるなよ。それとアリアを人質だとは思っていない。」
「では、なんだ?」と試すように聞く。
「・・・姉に対する盾だ。」
「それを人質と言うんだ。」やれやれと言うポーズをとる。
「姪っ子なんだから言い方があるだろう。」
「貴族らしくなったね。そう言うことにしておいてやるよ。」
「でっ、誰と戦ったんだ?」ここからが本番のような顔で聞く。
「呪いの鎧さんだ。」
「ああ、あいつか。」と頭を抱える。
この領の一と二の問題児がぶつかればこの事態も必然なのだろう。
「・・・あいつはヤバいからな。手を出すなと言っておけば良かった。」と頭を抱える。
「ふん、それでも退けない時があるんだよ。」
船のクルーがやられて黙っていたら舐められる。
どんな手を使っても仕返しはしないといけないだろう。
「この件に関してはあいつに同情するな。」とこの城の玉座の間で座っていた男のことを思い出す。
「取り敢えず、しばらく大人しくしていろ。」そう言ってラドルガはこの部屋を出て行った。
「・・・さてどうしようか?」
ああ言われたら大人しくできないのが私と言う人物なのだが、流石に弟とその家族、何よりアリアの命が関わっている事だ。
「私もここまでか。」好きな男のことを思い出して、最後に一目また会いたかったと思った。
そのことを一部始終聞いていた女がいたことを彼等は知らない。
「このままじゃこの家の皆、殺される。」
何を思ってそこにたどり着いたかわからない、そして何かを閃きどこかに向かうのだった。




