第三の部屋 前編
肩を乱暴に掴まれ揺すられる感覚で目を覚ます。
「おーい、なんぞけったいなことが起きてるんや
。こんなとこで寝たらあかん」
「ここどこだ?」
「ここはセレニタのトレアンドットちゅう村や。あんたらなんで礼拝堂で寝てる」
言われて見れば女神像があり簡素だが掃除が行き届いていた。そして眼の前の日焼けしたおっさんが揺すった犯人だろう。金色の勇者が悪人だったらどうするのかと疑う危機感のなさだ。
「俺もなんで寝ているのか」
見渡せばベンチに二人づつみんな寝ているようだが、金色の勇者のみ床で寝ていたようだ。近くのベンチを見れば炎の魔王が一人で横になって寝ている。それだけで何が起きたのかわかるくらいには付き合いが長い。
「姫さんの知り合いだろう? 村長は、何も言ってないんだがなぁ」
「姫?」
「セレニタの姫ってゆうたら読心の勇者クラリエ姫やろ。あんさんら城からきちょんか」
読心の勇者と言えば二つ向こうのベンチで寝ているようだ。目元を隠しているので起きているのか寝ているのかわからない。言われて見れば姫と言われても違和感がない品格がある。
「城ではないんですが縁があって」
「わかったぞ。あんた姫さんにバレないようについてる護衛だろう! ここにゃ姫さんに悪さする奴はいないから安心しろや」
妙な勘違いをしたままおっさんは、教会から出ていった。
「金色の勇者様、対応をおまかせしてしまい申し訳ありません。ここがいつのどこなのか判断出来ず」
「それは大丈夫なんすけど、いつなのかもわかるんっすか」
「はい、実はこの村は私が勇者になって1年経ったころに酷い火事があり消失したはずなのです。」
「貴方は、村一つ無くなったことも覚えてるのか」
いつの間に起きたのか百の魔王は、寝違えたのか首を鳴らしながら聞いている。
「トレアンドット村は、私よりも先に勇者になりました囚獄の勇者様の故郷なのです」
「それでは村は現在存在しないのか」
軍師の勇者も実は、起きていたようで眠そうな様子もない。
「村は、新しく建て直されていました。しかし礼拝堂にあったステンドグラスが消失してしまったと聞いています。囚獄の勇者様が勇者になったあとに有志がお金を出し合ったのでまた費用を出すのが難しかったと」
「ステンドグラス買えるんだな」
「接ぐ技術が難しいと聞く。旅先で見たことがあるが技術の分値段が高いはずだ」
語の魔王が手帳をめくっている。手帳の中身が気になるのか百の魔王は、隣でそわそわしている。
「要するに火事が起こる前の村にいるということか」
炎の魔王が何か考えているようだが金色の勇者は、違和感を感じていた。いつもゲームサポートのイクシュが説明をしていたのに見当たらないのだ。
「イクシュはどこだ?」
「そういえば見ないな」
金色の勇者の言葉に勇者と魔王達は、周辺を見渡すがシカの角の赤ん坊がいない。しかし読心の勇者は、不思議そうに首を傾げている。
「イクシュ様ならそこにいらっしゃいますよね」
手を向けた先にいたのは、シカの角の幼児で赤ん坊ではない。しかしイクシュのように翼があるがどちらかといえば兄なのではと思うくらいだ。
「僕がイクシュです。ちょっと成長しました」
笑顔で言っているが突然の成長に金色の勇者は驚くことしか出来ない。気を失った間に何が起きたというのだろうか。
「それで貴様がイクシュだとして、なぜ早く名乗り出なかった」
「成長した僕を見たら僕だってわからないで切ろうとしませんか」
確かに問答無用で攻撃しそうな人物もいそうだと納得する。ところでなぜ同一人物だとわかったのか読心の勇者に聞いたところ音やと息遣いや匂いでわかるとよくわからない回答をもらった。
「みなさんもう気が付いたようですがこの村の火事を三日間阻止してください。でも阻止しなくともゲームはクリア判定になりますが阻止するとボーナスを支給します」
「召喚権か」
「いいえ、召喚はゲーム終了後に一回分進呈します。ボーナスは、道具の召喚を一回です」
道具の召喚とはどういうことかと聞こうとすると控えめなノックが聞こえた。誰かがどうぞというと扉が開かれた。
「失礼します。ウチはトレアンドット村の村長ですねん。姫がおると聞いて挨拶に来たで」
日焼けした大柄な男が人の好い笑みを見せながら入ってくる。その後ろにはさきほどのおっさんもいる。
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は、セレ二スタの姫で読心の勇者をしておりますクラリエと申します。一緒にいるのは旅の勇者様とその仲間の方です」
読心の勇者は、魔王と説明するわけにはいかないのでその仲間と濁すことにしたらしい。突然村に勇者と魔王の一団が現れたら絶対に驚くだろう。
「なぜ勇者様がようけ来たのかわからへん。けど頑張っておもてなししますわ」
「この訪問は調査が目的なので協力していただけると助かります。重罪人がこの村にいる可能性があるのです」
「そんな人がこの村におんのでっか。みんな顔見知りなんだが」
村長は、眉を下げて困り顔で答えている。みんな顔見知りだというのだからよくある小さな村なのだろう。
「あくまで可能性なので内密に願いたい」
「あなたは軍人さんでしょうか」
「私は、軍師の勇者。調査の協力を求められてここにいる」
キリッとした顔で答えられると本当のことのように思える。
「わかりました。しかし、どこにお泊めすればええんでっしゃろう。姫様は、うちに泊まってもらえればと思うんですがね。他の方を泊められる大きさがなくて……」
「教会を借りていいですか。雨風をしのげれば最低限問題ないので。女神様も迷える信者がいるのをそのままになさらない……と思います」
従僕の勇者が発言すると納得したようで教会に寝泊まりが決まった。そして調査に協力することを村民に言ってくれると協力的だった。
「そうと決まれば調査を開始しよう。直接村人と話すのは、読心の勇者殿と軍師の勇者殿の二組にそれぞれ勇者についてもらいましょう。」
「私は、商談といたしましょうか。こういう村は、たいてい行商人を歓迎しますからね」
それぞれがそれらしい理由をつけて村に滞在するようだ。金色の勇者は、読心の勇者の護衛としてついているのが良さそうだ。そして炎の魔王は、いつの間にか白いローブの獄炎の魔道士の格好になっている。
「なんでその恰好なんだよ」
「念のためだ」
「念のためってなんだよ。なんか気になることでもあるのか」
炎の魔王は、何も言わず読心の勇者に着いていく。こうなると何か確信が出るまで何も話さないとわかるのは付き合いが長いからだ。
「いったい何があるんだろう」
炎の魔王が何か隠していると思っているのだが思いつかないでいたが、軍師の勇者主体で話が進んでいく。
「火事を止めるという話だが、常日頃火は使うんだから燃える可能性はいくらでもあるんだよな」
「そうですね。炊事や今の季節では暖炉の火とかでしょうか」
「暗くなるのが早いから灯りとしての火もいるだろうな。すべての火種を確認して周るのも無理だ」
火というのなら一番強いのは、炎の魔王だろうが探知機みたいに探すという真似が出来たりしないのか。
「何か言いたげだが、一定の区間にある火ならわかる。だがある程度大きくならないとわからないな」
「火は火だろ」
「あの、火打ち石の火花も火として認識したりということですか」
魔力酔い対策で部屋の隅に移動していた従僕の勇者が、手を上げて聞いてきた。
「そういうことだ。まさか調査のために火を使うな、なんていえないだろう」
「村人の生活に支障がでますね。私たちも火がなければ活動が難しいでしょう」
火は、日常的に使うものであってその全てが火事になるわけではない。小さな火が燃え移って大きな火になることもあるし、誰かが意図的に点けた場合もある。
「そうだ、イクシュ。防ぐのは誰かが意図して点けさせた火事だったりする?」
「はいでしゅ」
イクシュが頷くと明らかにこの場の雰囲気が変わった。誰かが故意に発生させた火事とそうでない火事では、対処が異なる。
「ということは、生活で使う火というのは除外していいか」
「軍師の勇者さん、生活で使う火も気をつけないといけないと思います。いつもより燃えやすいようにして火事をおこすということも出来ます」
「どういうことだ」
軍師の勇者が眉間に皺を寄せて聞くと従僕の勇者は真っ青になった。
「あの、いつもより強いと思ってもなぜそうなるのかわからなければ対処出来ません。さっきの話では、意図してというのが問題だと燃えやすいように意図して渡したものも入るのではと」
「善意に見せかけた悪意ということか。厄介だな。善意ほど受け入れやすく提言しても直されないものはない」
普通に考えれば燃えやすい方が良いとは思う。しかし今回の内容を考えれば予想以上に燃えたというのも火事に繋がるだろう。
「燃やす方法にルールを作れないでしょうか。もしくは燃やす場所を指定するなど。そういうのが得意な魔王はいらっしゃいませんか」
そんな都合のよい魔王がいるのだろうかと金色の勇者は思うが大抵の魔王はふざけた能力があるのでいないとは言えない。
「そんな都合のよい魔王なんて……いたな。ルール第一でそういう世界の魔王が。イクシュ、掟の魔王を喚べ」
「はいでしゅ」
何も無い空間に青いノイズが走るとピエロのような服装をした魔王が浮いていた。魔王の周りには透明な青い板が浮いていて常に何かの文字が映されている。
「掟の魔王だ。炎の魔王、ゲームの誘い意外によぶなんて珍しいな」
「この世界にルールを追加したい。そういうのは、お前が得意だろう」
「そりゃあ、僕は掟の魔王だもの。ルールは厳守させるよ」
笑顔のまま話が進むのでどんな風に思っているのかまったく読めない。
「でもこの村が僕のダンジョン扱いになるけどいい?」
「この村が助かるなら私は構いません。でも囚獄の勇者様がどんな風に思われるか……。本人にしかわからない問題ですしお喚びしましょう。イクシュさん、よろしいでしょうか」
「はいでしゅ」
イクシュが頷くと部屋の扉がノックもなく開けられた。現れたのはサングラスに長髪の男で、開けてびっくりしていたがすぐに顔が笑顔になる。
「いやぁ、えろうすいませんが自分場違いだったりおまへんか。おれ、読心の勇者さんに喚ばれた聞いとったんですが」
「囚獄の勇者様、来てくださりありがとうございます。こちらにどうぞ」
「ご丁寧にどうも」
囚獄の勇者は、勧められた席に座ると少し居心地が悪そうだ。読心の勇者は、これまでの話を簡単に話して村をダンジョンにしてよいか尋ねた。
「ずいぶん大仰な対策ですけどこの村をダンジョンにするなんてすぐ出来るんでっか」
「多少の準備はいるけど明日の晩には出来るよ」
「むっ、今日の晩には間に合わないということか」
「ルールの複雑度合いによる。何かやりたいなら抜け道があるかなんて普通に考えるでしょ。今晩から適用させたいなら一つだけ」
一つと言われると何にしたものか大抵なら迷う。しかし囚獄の勇者は、何か思うところがあるようだった。
「村を焼く方法を限定させるんや。魔力が宿った火を教会につけるちゅうのはどないやろか」
「悪くないな。我々が寝泊まりするのは教会だ。定期的に見回りをしても調査の一環で説明出来る」
「それになうちの村食うには困らんけど裕福でもないねん。魔道具なんてものないから大体火打ち石か薪つこてるで」
囚獄の勇者がドヤ顔でいうが堂々としていうことでもない。
「それじゃあ、それでいくよー。ちょっと待ってね」
掟の魔王が青い板に何かしていると外から三回ノックされた。扉の外の人物は、貿の魔王だった。
「村人相手に商品のご紹介をしていたら旅の医者と道化師と作家が村に来ましたよ」
「いや、どんな組み合わせだよ。ソレ」
「さぁ、たまたまそれぞれここに来たみたいですよ?」
このタイミングで現れた三人が怪しすぎると金色の勇者が遠い目をしていると、勢いよく扉が開かれた。そこにいたのは、緑の瞳の本をもった女性だった。
「ごきげんよう! 未来の大作家にして物書の勇者をしている火乃宮真昼といいます。これは私の本です」
物書の勇者が持っている何冊か本が机に置かれる。文字が読めないわけではないが何の本かわからない。
「クラリエ姫がこちらにいると聞いたのですが。あぁ、あなたがクラリエ姫ですのね。うんうん、ミステリーも恋愛も書けそうな魅力的な姫様ですね。ぜひとも取材を」
物書の勇者は、吐息混じりで次々と話始めるので聴き取りにくく読心の勇者は戸惑っていた。
「あの、読心の勇者さんが戸惑っているので少し落ち着いて下さい」
「それは失礼を。普段は、読んでいただくことを前提に話すからうっかりしてましたわ」
従僕の勇者が物書の勇者の前にお茶を置いたので一服し始めた。正直勢いが良すぎてどうしたものかと思っていたので助かる。
「なぜ作家がこの村に来たんだ」
「前の街で面白いことが起きると聞いたのでネタの足しに見に来たのですわ。でも来てから思ったのですが面白いことが何なのか聞き忘れましたわ」
物書の勇者は、いったい何をしに来たのだろうかと全員が思っているだろう。道化師らしい黒いシルクハットの人物が拍手している。
「素晴らしいですね。貴方の行動は、まるで喜劇のようです」
「褒められているのかしら私」
「もちろん、お客様や読み手がいてこそのサーカスと作家でしょう。あっ、申し遅れました。私、サーカスの座長しております尋の魔王と申します。攻撃の意思はなく興行を行う場所の視察なので悪しからず」
尋の魔王が赤い傘を杖代わりにお辞儀をする姿は、格好の奇抜さもあいまってひょうきんに見える。金色の勇者が炎の魔王を見れば我関せずという態度なので差し迫った危険などないのだろう。
「はぁ、はぁ、皆さん足がお早いですね」
「お前が医者か」
軍師の勇者に呼ばれて目を丸くしている。味方だとわかっていても鋭い視線を向けられれば何も悪いことをしていなくとも冷汗が出てくる。
「はい、旅の医者のようなことをしています。傷薬や打ち身の薬などがありますが一番得意なのは火傷の軟膏ですね。軍人の旦那は、何か入用で?」
「腕がたつようには見えないが一人で旅をしているのか」
「戦うなんて出来ませんがね。まぁ、悪い奴らも怪我や病気はするんでね。薬を条件に離してもらうんですよ。もしくは金品とか」
医者らしい落ち着いた雰囲気の男なのだが違和感を感じる。
「聞きたいのはそれだけだ。何か買いたいものはいるか」
「傷薬があれば買いたいのですが」
「ございますよ」
読心の勇者がお買い物を始めたので旅の医者の違和感は気のせいかと思い始めていた。他の人たちがどう思っているのかと見てみると貿の魔王がとてもにこやかに医者を見ているのが気になった。
医者が去った後に軍師の勇者が炎の魔王を睨みつけた。
「おい、獄炎の魔導士。あいつが犯人なんだろう」
「軍師の勇者さん、いったい何を言っているんですか。こいつが知るわけないじゃないですか」
「何を根拠に言っている」
「根拠は私でしょうか。あの方の精神状態を見ましたが大きな火のイメージを感じました。まるで私が焼かれるようで……」
読心の勇者が青い顔で椅子に座りこんだ。和やかに買い物をしていたわけではなく調査の一貫だったらしい。とても具合が悪そうだったので飲み物を渡そうとすると、従僕の勇者が飲み物を渡しているのが見えた。
「そこまでしているとは思っていなかったが私は、職務上犯罪者に会うことも多い。中にはそんなことをするような人ではなかったと言われるような人物もいる。そういう人物は顔は笑顔なのだが目が笑っていない。あの医者もだ」
軍師の勇者の言葉で医者の違和感がそれだとわかった。確かに表情や言葉が柔らかいものだったが目が笑っていなかった。
「そんなことで推理したのか。確かにあいつは放火魔だった俺がいた世界ではな」
「何を言ってるんだ」
炎の魔王は、金色の勇者を見てため息をついていた。
「お前は、違和感を感じていなかったのか。俺は、お前が知っているお前ではない。時々お前が話す内容を俺は知らない。だが間違いなくお前が金色の勇者ならばパラレルワールドならば説明がつく」
「はぁ? 何言ってんだ。、異世界に召喚されて幽霊退治しただろうが」
「俺は、異世界になど行っていない。確かにお前とは面識はあるがな。その一貫でこの村にいたことがあった」
「だから姿を隠していたのか」
なぜ獄炎の魔導士になったのか聞いても答えなかったのは、金色の勇者が同じ世界のものか確認したかったということなのだろう。
「あぁ、それで納得した。従僕の勇者にも同じような違和感を感じることがあったが別の世界の従僕の勇者なら納得できる」
「えぇ! 僕もですか」
「前は生に執着していなかったが今ここにいるお前はそうではないらしい」
従僕の勇者は、相変わらず無表情だったがなんだか少し笑っているように見えた。
「生きろと、生きて償わなければならないことがあるんです。だからもう簡単に死にません」
「そうか」
一体何があったのかわからないのだが、何故か泣きたくなってくる。
「感動的なところ申し訳ないんですがね。犯人がわかったんならルール変更どうするんだ」
掟の魔王が暇そうに見ていてさっそく今夜の作戦会議を始めた。
村の探索という名の住民の話を聞いていた語の魔王は、適当な切り株に座っていると影がさした。
「こんにちは」
「こんにちは、はじめまして」
「この村の方ではないですね。私は、旅の医者をしていましてね。ついさっき来たばかりなのですがウミヒツジの被り物がめずらしく声をかけてしまいました」
ウミヒツジの被り物が珍しいと話しかけてくる
「私も旅をしていましてね。宗教上の理由で被っていまして。そういえば旅をなさっているなら何か面白い伝承を知っていないでしょうか。そういう話を集めていまして」
「それでしたら、このすり鉢をもらった場所の話などいかがでしょうか」
掌に乗る程度の白いすり鉢だが、使い込まれているのか擦るところの凹凸がだいぶ丸くなっている。白いので陶器と思ったが光の反射具合からまるで骨か角で出来ているように見える。
「これは、骨か角を削りだして作っているんですか。少し触らせていただいても」
「いいですよ。どうぞ」
「ざらざら感が少なくて軽いですね。あぁ、これはラースボアの角ですね。確かにとても丈夫そうだ」
医者は、驚いたように語の魔王を見た。
「ご名答です。これはラースボアの角で、なんと狩る村がありましてね。変わった宗教をしてまして」
医者の語る内容が面白くすり鉢を持ちながら話を聞き時々質問をしていました。気が付けば空は茜色になっていた。
「だいぶ日が暮れてしまいましたね。長く話させてしまってすみません」
「人の話を聞くことが仕事のようなものですからたまにはこういうのも楽しいですね。ありがとうございます」
「いいえ、こちらも有意義な時間でした」
にこやかに別れると木の後ろから百の魔王が顔を出した。
「あの医者どうも焦げ臭いですね。離れていてもわかるほどとは」
「そうでしょうね。あのすり鉢で火薬の調合をしていたようですし、他の引火しやすいものも」
「あれだけでわかるんですか」
「そういう能力ですね。詳しい事は言いませんが」
「説明されても理解出来るかどうかわからないですね」
「あなたは理解出来ると思います。なんだか私に似ているようなので」
語の魔王と百の魔王は、お互いの手持ちの本を見て納得した。
「ならお互いの時間を有意義に使うためにも協力しましょう。あの男が犯人だとして」
「放火は許せないですね。本が燃えてしまいますし。イクシュさん、化の魔王をお呼びください」
「百の魔王しゃま、了解でしゅ。語の魔王しゃまは」
語の魔王は、イクシュを一瞥した後に考え始めた。
「声の魔王を」
「了解でしゅ」
百の魔王が知らない魔王らしく眉間に皺を寄せている。しかし化の魔王が語の魔王の知っている魔王ならばこれほど効果的な組み合わせはない。
「さて、どうなりますかね」
人物紹介
掟の魔王:ダンジョンマスター
囚獄の勇者:現在牢の魔王の監獄に収監されている。セレニスタ国トレアンドット村出身の青年
物書の勇者:小説家だがウケが悪いため旅をしている。本人が自覚していない能力があるようだ
尋の魔王:サーカスの座長をしている。胸の空虚を埋めたい
化の魔王:狐と狸のような耳がある二人
声の魔王:声真似や奪うことが出来る。人型のほうが魔王と勘違いされるが実は大きな鳥が魔王